森本千絵さん監修、八戸市の「水の樹」は “樹”がモチーフの水飲み場

森本千絵さん監修、八戸市の「水の樹」は “樹”がモチーフの水飲み場

青森県八戸市の中心街に、市民のためのコミュニティ広場〈八戸まちなか広場 マチニワ〉がオープン。

光・風・緑をタイトルした3つの広場とステージで区画分けされ、それぞれまたは全体を、3時間からの時間区分で貸し出します。

小さなお店を出したり、ステージでパフォーマンスを発表したり、ワークショップを開催したりと、市民のアイデア次第で、活用方法は広がりそう。

東日本大震災からの復興へ向けて

広場の中央部にあるのは、シンボルオブジェ「水の樹」。

シンボルオブジェ「水の樹」。パイプと受け皿で樹に見立てた。

シンボルオブジェ「水の樹」。パイプと受け皿で樹に見立てた。

これは、松任谷由実やMr.Childrenのアートワークをはじめ、数々のデザイン、ディレクションなどを手がけてきたアートディレクターの森本千絵さんが監修したものです。

森本さんは青森県三沢市出身。2011年、〈八戸ポータルミュージアム はっち〉のオープニングプロジェクトをきっかけに、八戸とのご縁ができました。

〈八戸ポータルミュージアム はっち〉は、〈マチニワ〉の向かいにある。

〈八戸ポータルミュージアム はっち〉は、〈マチニワ〉の向かいにある。

〈はっち〉とは、八戸中心街の活性化を願って創られた地域観光交流施設。このオープニングプロジェクトでは、八戸出身の作家・木村友祐さんとクリエイティブディレクター・佐藤尚之さん指導のもと、市民によって市民を取材した文章と、写真家の梅 佳代さん、浅田政志さん、津藤秀雄さんが、八戸の人々を撮影した写真を展示する企画展が開催されました。

このトークイベントに、森本さんがプライベートで足を運んだことをきっかけに〈はっち〉との繋がりができたといいます。

企画展の期間は、2011年2月26日〜3月16日。東日本大震災のあった3月11日は、まさに写真展の真っ只中だったのです。そこで、この企画展を記録に残そうと、写真集『八戸レビュウ』を制作。森本さんに、冊子制作の装丁を依頼することとなりました。

八戸では、震災によって全壊した建物は218棟。その多くは、魚市場や食品加工場など、沿岸部にあった漁業関連の施設でした。

シンボルオブジェ「水の樹」のモチーフは八戸の古い地図

〈マチニワ〉のロゴも森本千絵さんがデザイン。

〈マチニワ〉のロゴも森本千絵さんがデザイン。

青森県南部にある八戸市は、太平洋に面した地の利を生かし、漁業や工業によって支えられ、発展した街。

かつて、八戸青年会議所の「街の魅力発信委員会」は「海の樹」という地図を提唱していました。

八戸の道路を塗りつぶし、海側を下に向けると、海に根を張り、栄養を得て育つ、一本の樹のように見えます。これが、今回の「水の樹」のモチーフとなりました。

震災によって、八戸は津波の被害を受けましたが、海からの恩恵への感謝は忘れない。八戸の人たちのそんな気持ちが、「水の樹」には現れているようでした。

「水の樹」を設計したのは、隈研吾建築都市設計事務所の飯塚哲平さん。森本さんからのコンセプトスケッチを、具体的な形にしていきました。

「“水”という形のないものに形を与える方法として、五感をフルに使える、水の現象に着目してアイデアを出しました。ししおどしの音や、流しそうめんに着想を得た水の流れ視覚化、噴水やミストにみる水の粒子感、湿度に応じて収縮する素材などオプションを作成し、森本さんと模型をいじったり、スケッチを繰り返したりしながら、現在の形に昇華していきました」

そして、枝の一部がししおどしに、葉に見立てた受け皿は、水が通るときに音が鳴る“カラコロツリー”になりました。

床面からは、噴水とミストが噴出する仕組み。粒子の大きさが異なる水を、視覚的に楽しむことができます。

自称“世界一大きな水飲み場”

「水の樹」は毎時、音と光と水による演出が行われます。

流れる音楽は、青森にゆかりのある坂本美雨さんの歌声。お母さんの矢野顕子さんが青森出身ということもあり、美雨さんは幼い頃夏になると八戸の親戚の家を訪れ、畑仕事のお手伝いをしていたそう。

〈マチニワ〉で流れる「水の声」という楽曲は、八戸出身の音楽家、haruka nakamuraさんとの共作です。

水が揺らぐような優しい歌声が反響しそれに呼応するかのように、水が跳ねたり、光が点滅したり。まるで生き物のように見えるから不思議です。

また「水の樹」の内部には水飲み場も設置されています。自称、“世界一大きな水飲み場”。

大人用と子ども用の2つの水飲み場があり、林の中を散策しながら喉を潤すようなイメージで水を飲むことができます。

八戸の風景として次の世代へ育み、引き継いでいく

森本さんは、〈マチニワ〉監修の依頼を受けたとき、八戸市のこと、街のこと、そして〈マチニワ〉が市民にとってどんな存在になってほしいかを市の担当者からヒアリングし、ひとつひとつすくい上げながら物語とスケッチでコンセプトイメージを固めていったといいます。その物語の中に、こんな一節がありました。

—この大きな樹の1つの花芽が美しい花となり、結実し、やがて新たな芽吹きにつながるように、新たなにぎわいのきっかけとして人々の交流を促し、新たなコミュニティやつながりを生みながら 次世代へと育てていく空間に。それが〈マチニワ〉。

八戸の街は、相次いで商業施設が撤退し衰退の一途を辿っていると言われた時期がありました。

八戸中心街の真ん中に建つ〈マチニワ〉は、回遊の拠点となり、ここから再生していく象徴になりそうです。

樹に水を与えるように、市民の手で〈マチニワ〉は育まれ次の世代へ引き継がれていくことでしょう。

information

八戸まちなか広場 マチニワ

住所:青森県八戸市三日町21-1

TEL:0178-22-8228(八戸ポータルミュージアムはっち)

営業時間:6:00〜23:00

定休日:無休

Web:八戸まちなか広場 マチニワ

Chihiro Kurimoto

栗本千尋

くりもと・ちひろ●青森県八戸市出身。旅行会社勤務→編集プロダクション→映像会社のOLを経て2011年よりフリーライターに。主な執筆媒体はマガジンハウス『BRUTUS』『CasaBRUTUS』『Hanako』など。東京在住ですが2020年に地元へUターン予定。twitter


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