東京から一番近い島「大島」で、ナカムラケンタさんが見つけた新たな時間の過ごし方

東京から一番近い島「大島」で、ナカムラケンタさんが見つけた新たな時間の過ごし方

東京から一番近く、伊豆諸島で一番大きい島

東京から約120キロ南に位置する伊豆諸島最大の島「大島」。東京・竹芝から高速ジェット船で1時間45分、飛行機なら調布飛行場からわずか25分の、東京から一番近い島だ。島の中央には、いまなお火口から蒸気が立ち上る「三原山」がそびえ、その中腹には「裏砂漠」と呼ばれる日本で唯一の砂漠が広がっている。

今回、大島を訪れたのは「生きるように働く」をテーマに、日本中のさまざまな仕事人を取材、その生き方・働き方を発信してきたナカムラケンタさん。都内を拠点にしながら、8年前より新島にシェアハウスを持ち、夏場ともなると週末を島で過ごす二拠点居住を続けている。

初めて大島に降り立ったというナカムラさんの目に、雄大な島の景色やそこに暮らす島民の姿はどう映ったのか。第60代ミス大島で、〈えびす屋土産店〉の看板娘として大島を発信する高田ほたるさんと、島の魅力について語ってもらった。

ナカムラケンタさんと高田ほたるさん

大島・元町港近くのカフェ&ゲストハウス〈BookTeaBed〉にて。

見渡す限りの荒涼な大地。「何もない」を味わえる価値がある

ナカムラ: 僕にとって大島は、新島への乗り換え地点。近くていつでも行ける場所と思っていたら時間が経ってしまいました。「いつか降り立って島を巡ろう」という念願が、ようやく叶いました。

高田: 島を1周してみて、何を感じましたか?

ナカムラ: 心地いい湿度に包まれる感じは、大島にしかない空気感だなと。海の青や木々の緑の濃さに、自然の力強さを感じます。

高田: 大島生まれ、大島育ちの私にとってはこの環境が当たり前で、豊かさを実感することがありませんでした。高校卒業後に大島を離れて、初めて「ただ島にいるだけで心が安らぐ」という感覚に気づきました。

Uターン者である高田さん

高田さんは7年間、都心で働いた後、大島へと帰島してきた。

高田: ナカムラさんがシェアハウスをしている新島とは、また違いますか?

ナカムラ: 島が放つ色の濃淡が全然違います。同じ東京の島なのにこんなに違うんだなと驚くほど。新島は白い砂浜のパステルカラーですが、大島の景色はすべて原色だけで描けるようなはっきりとした色合いです。大島の歴史を知りたくて、最初に島の資料が飾られている喫茶〈藤井工房〉さんを訪れたのですが、飾られていた絵画や絵葉書、木彫りの「あんこ人形」にも原色が多く使われ、島のエネルギーが伝わってくる。大島を訪れてインスピレートされた作家が多くいるという話にも納得しましたね。

藤井工房

藤井工房には、大島に関する資料や色鮮やかな昔の絵葉書、大島出身の画家・中出那智子さんの作品などが飾られている。

あんこ人形も所せましと並べられている

著名な木彫り職人・木村五郎さんがつくった「あんこ人形」も所せましと並べられている。すべて大島に自生する桜や椿の枝を使用している。あんこさんとは、紺絣の着物を着て頭に手ぬぐいをした大島の伝統的な衣装を着た女性のこと。「姉っこ」がなまって「あんこ」となった。

information

藤井工房

住所:東京都大島町元町2-1-5

TEL:04992-2-1628

営業時間(カフェ):10:00〜18:00

定休日:水・木曜

Web:http://fujii-koubou.com/

高田: 大島の象徴である椿が、赤、白、緑のはっきりとした色合いをしています。その鮮やかさは大きな影響を与えているかもしれません。

ナカムラ: まさにそうですね。三原山を中心に、島全体が大きな山のように勾配がある。そんな独特な地形も、大島の魅力だなと思いました。大島一周道路を走っていると突如現れる「地層大切断面」は、東京都にいるとはおよそ信じがたいスケール感。大切断面を背景に海を臨むと、利島や新島が一望できるのですから、見飽きることがありません。

地層大切断面

高さ約24メートル、長さ630メートルの「バームクーヘン」のような縞模様は、火山灰や腐植土が互層になってできている。1層が1度の火山活動の噴出物とされ、1万5千年間で約100回もの大噴火によってつくられたという。昭和28年の大島一周道路の建設工事中に偶然発見された。

大島は五感をオープンにさせてくれる場所

高田: 島で暮らしていると“ただそこにあるもの”に慣れてしまう。大島にはわかりやすい観光スポットが何もないなぁと思ってしまっていました。

ナカムラ: いやいや。むしろ「何もない」をこんなに味わえる場所が、東京から2時間圏内にある。すごい価値ですよ。「裏砂漠」は、まさにそのシンボルですよね。真っ黒な火山岩に覆われた荒涼とした大地なのに、ただそこに立っているだけで心も体も洗い流されるような温かみがあります。

裏砂漠

国土地理院が発行する地図に日本で唯一「砂漠」と表記される。特別保護地区として車両の乗り入れが禁止されており、自然環境や生態系が保護された場所になっている。日本にいるとは思えない風景ゆえに、数々のミュージックビデオやテレビCMの舞台としても有名だ。

高田: 大島の人たちも、嫌なことがあれば裏砂漠に行って自分をリセットする、という方は多いんです。風が凪のときには寝転がって岩盤浴をしてもいいし、夜になれば空を埋め尽くすほどの星が見られます。あまりに広大で自分のちっぽけさを感じられるから、気分がスッキリするんでしょうね。

ナカムラ: その気持ちわかるなぁ。ものすごく現実離れした風景なのに、砂漠の先に深い青の海が広がっていて、その先に東京湾が見える。その不思議な距離感も好きでしたね。人工物が一切目に入らない景色がこんなに気持ちいいんだと、あらためて実感しました。

裏砂漠

三原山の噴火によって降り注いだマグマのしぶきが、見渡す限りの黒い世界をつくり出した。風が強く吹き抜けるため植物が定着できない。いわば、生命がすべてゼロリセットされる場所だ。

ナカムラ: 高田さんは一度大島を出て、東京本土で仕事をしてから戻ってきたんですよね。やっぱり大島が恋しくなって帰島を?

高田: そうですね。母が病気をしたことがきっかけだったのですが、都心で働いていたときも年に3回は戻ってきていました。

ナカムラ: なかなかの頻度で帰ってきていたんですね。離れていたから見えた大島の良さってどんなところですか?

高田: ふと立ち止まって目に入る景色が、びっくりするくらいキレイなこと。よくサンセットパームラインを走るんですけど、夕陽で空と海がオレンジに染まっていく時間が大好きなんです。サイクリングや、犬の散歩をしながらぼんやりと眺めている島の人もいます。

サンセットパームライン

伊豆半島を眺めながらサイクリングが楽しめる片道約5キロの〈サンセットパームライン〉。レンタサイクルで1〜2時間の島散策も合わせて楽しめる。

島から富士山も望める

天気がよければ、島から富士山も望める。

高田: ナカムラさんは今、新島にシェアハウスを持ち、忙しいなかでも二拠点を行き来していますよね。そのライフスタイルにこだわるのはなぜですか?

ナカムラ: 島に来ると、五感のチューニングが合う心地よさがあるからです。東京にいると情報量が多すぎて閉じようとしてしまう。島にいれば五感が開放され、人間が本来あるべきオープンな状態にいられる気がします。2泊以上島に滞在してから竹芝(浜松町)に戻ると、視界に入る景色の雑然さに、頭がくらくらしてしまいますから。

高田: やっぱり都心は何もかもが過多ですからね。

ナカムラ: そうそう。島で無心で釣りをしているときなんて至福のときです。僕にとって島で過ごす時間は、感性をリセットするための大切な時間なんです頻繁に行き来して思うのは、「海を渡る」ことが島の良さだということ。船などで行くからこそ、気持ちがはっきりと切り替わります。東京湾が見えるくらいの近距離にありながら、完全なる別世界というのは、陸続きの観光地ではなかなか味わえません。

ナカムラさん

夏場ともなれば月の半分は新島のシェアハウスで過ごすというナカムラさん。

高田: そうですね。“船旅”というある種の不便さが、空気を変えてくれます。

ナカムラ: 高速ジェット船は便利ですけど、大型客船でのんびり来るのもいいですよね。大島までは片道6時間なので、夜出発すれば早朝に着きます。早朝4〜5時の朝日が昇る頃に甲板に上がってじっと海を眺めていたい。船旅だからこそ、体が島に馴染んでいくような感じがするんじゃないかなと思っています。

「ただいま」といえる場所がある。それが、二拠点生活の醍醐味

高田: 人の温かさも、島に戻って感じた魅力のひとつだなと思います。

ナカムラ: よくわかります。二拠点生活を続けていると、島の人との交流がどんどん濃くなって大切な居場所になっていく。今では新島に行くと「おかえりー」「いつまでいるの?」と聞いてくれる人がたくさんいます。行けば挨拶ができるお店が増えるのも、とてもうれしいことです。

高田: そういえば、スーパーや道端で、何気なく話しかけられることがすごく多い。都心ではありえない光景ですね。

ナカムラ: みんなあえて遮断していますからね。いち観光客はつまらない、せっかく行くなら島の暮らしを味わいたいというニーズは今後増えていくと思うんです。ただ決められたポイントを観光するのではなく、そこにある日常を体験したいという。そうなると軸になるのは人と人との関わりです。「移住」となればハードルは高いかもしれないけれど、定期的に通う場所を持って、その地域の方と深い関わりを持つのは根源的な喜びなのかなって。自然豊かな場所に、ただ“お客さん”として訪れるのではなく「ただいま」と言える相手と場所がある。それはすごく幸せなことだなと思います。

高田: 大島でも、ぜひそういうつながりをつくりたいんです。どんなかたちで実現できるのか模索中です。

ナカムラ: 大島には海も山も、砂漠も温泉もあります。人を引きつけるポテンシャルは大いにあると思います。仕事もしつつリフレッシュしたい、という方には穏やかなカフェ空間が必要ですよね。今回、滞在させてもらった〈BookTeaBed〉はコミュニケーションを生み出す場の仕掛けがあって一人旅にもいいなと思いました。

BookTeaBed Izu Oshima

銀座店、麻布十番店に続いて2018年5月よりオープンした宿泊施設〈BookTeaBed Izu Oshima〉。

BookTeaBed Izu Oshimaのバーカウンター

幅広いジャンルの本や漫画、洋書が置かれ、ロビースペースでゆったりと思い思いの時間を過ごせる。こぢんまりとしたバーカウンターに座ってオーナーとおしゃべりしたり、宿泊客同士自然と会話が生まれる空間になっている。

information

BookTeaBed Izu Oshima

住所:東京都大島元町2-3-4

TEL:04992-7-5972

営業時間(カフェ):7:15〜23:00

定休日:なし

Web:https://bookteabed.com/ja/izuoshima/

ナカムラ: 島の暮らしを体験するという点では、〈島京梵天〉さんの古民家滞在にも心惹かれましたね。波浮港エリアの独特なまち並み、石造りの家々や狭い路地には、沖縄の離島を彷彿とさせる懐かしさがありました。

島京梵天の内観

昔の駄菓子屋さんを訪れたかのように心落ち着く、レトロな店構え。お店の裏には、1日1組限定の築135年の古民家ゲストハウスがある。

島京梵天の羽根つきたいやき

パリパリの「羽根つきたいやき」、大島で多く採れる明日葉と濃厚な甘みの大島牛乳を生地に練り込んだ「明日葉たいやき」が人気。旬の食材を使ったあんやクリームの種類も豊富だ(各250円〜)。

information

島京梵天

住所:東京都大島町波浮港6

TEL:04992-4-1567

営業時間(カフェ):11:00〜17:00

定休日:月・火曜

Web:https://www.tokyovoneten.com/ja-jp

高田: ナカムラさんが定期的に大島に通うとしたら、どんな風に時間を過ごしたいですか?

ナカムラ: せっかくなら大島にしかない景色にどっぷりとつかりたい。荒涼とした大地の中で、空と海を眺めていたいですね。立派な建物がなくても、小屋にイスがあって、360度自然のものしか目に入らない。そんな場所でのんびりできたら、都会で霞んでしまったピントを合わせに何度でも来たいと思うはずです。

高田: 「ただここにいるだけでいい」という私の感覚と、近いものがありますね。

ナカムラ: まさにそう。火山島ならではの、島全体が持つパワー自体が唯一無二の価値です。何も足さずに何も引かずに、この壮大さをそのまま大パノラマで見せられたらいいんじゃないかなって思います。

ソファで対談中のおふたり

東京都にいることを忘れてしまうような、独特の文化と景色に触れた大島を巡る旅。荒涼とした大地と親しみやすい島民たちに包まれることで、訪れた人もまた自分をリセットして歩き出せるのではないだろうか。そんな不思議な力を味わいに、東京から一番近い島へと出かけてみてはいかがだろう。

profile

KENTA NAKAMURA ナカムラケンタ

日本仕事百貨代表/株式会社シゴトヒト代表取締役。1979年東京生まれ。生きるように働く人の求人サイト『日本仕事百貨』代表。シゴトヒト文庫ディレクター。グッドデザイン賞審査員。IFFTインテリアライフスタイルリビングディレクター。東京・清澄白河〈リトルトーキョー〉監修。誰もが映画を上映できる仕組み〈popcorn〉共同代表。著書『生きるように働く』(ミシマ社)。

profile

HOTARU TAKADA 高田ほたる

第60代ミス大島。大島生まれ、大島育ち。高校卒業後、東京本土で7年間の企業勤務を経て、2016年4月にUターンで帰島。現在は〈えびす屋土産店〉にて、大島名物“牛乳煎餅”を焼いている。

information

東京宝島

東京都では、東京の島々が持つすばらしい景観や特産品、文化などの地域資源を磨き上げ、高付加価値化を図ることで、東京の島しょ地域のブランド化を目指す東京宝島事業に取り組んでいます。東京宝島の詳細は、公式ホームページにて。

writer profile

Rumi Tanaka

田中瑠子

たなか・るみ●神奈川県横浜市出身、東京を拠点に活動するフリーランスのライター・編集者。広告会社、出版社勤務を経て独立。「働く」をテーマに、人物インタビューを多く手掛ける。執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクター。

photographer profile

Atsushi Yamahira

山平敦史

やまひら・あつし●鹿児島県鹿児島市出身、東京を拠点に活動するフォトグラファー。製薬会社に数年勤めた後、麻布スタジオに入社し写真を始める。麻布スタジオを退社後フリーランスとして雑誌の撮影を中心に活動中。最近はドローン撮影にも鋭意、挑戦中。Atsushi Yamahira’s Portfolio


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