2019年5月から11月にかけてG20関係閣僚会合と連動して行われた「地方創生ワカモノ会合」。ICTやファイナンス、観光、働き方改革など、さまざまな視点から地域の可能性を探る場となった。

ここであらためて、地方創生ワカモノ会合の登壇者でもある〈郡上カンパニー〉の岡野春樹さん、〈アグリガール〉(NTTドコモ)の大山りかさんを招き、地域からアプローチするニッポンの可能性について考える座談会を独自に開催。ファシリテーターはコロカル編集長・及川卓也が務めた。

日本人と土地の関係を探求するため、郡上へ移住

及川卓也(以下、及川) 本日は「地方創生ワカモノ会合」のゲスト登壇者おふたりをお招きして、地方で暮らすこと、そして地方で働くことの可能性についてお話したいと思います。まずはおふたりそれぞれ、簡単な自己紹介とご自身の活動について教えてください。

岡野春樹さん(左)と大山りかさん(右)。

岡野春樹さん(左)と大山りかさん(右)。

岡野春樹(以下、岡野) 僕はもともと東京の広告会社で、自治体のブランディングなどに携わっていました。昨年6月から岐阜県郡上市に移住して、現在は一般社団法人〈郡上・ふるさと定住機構〉を運営する傍ら、土地にひもづいた学びの場づくりを目的に、〈郡上カンパニー〉を立ち上げ、運営しています。

こうして地方に着目するようになったきっかけは、ハードな労働環境に体を壊し、ついには自律神経のバランスを崩して休職したことでした。そこで当時はやり始めていたマインドフルネス(今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること)などの勉強をしたりしているうちに、一流の起業家や研究者などはみんな、自身のバランスを整える“型”を持っているということに気づいたんです。

それは生活習慣であったりスポーツであったりさまざまなのですが、自分にとってのその型は何だろうと思い、いろいろと試していたところ、どうやら水に浸かることが大切らしいと気づきました。プールでも銭湯でも、あるいはどこかの河川でも、水に触れる時間をしっかり確保できてさえいれば、自分は未来志向で物事を考えられるんです。実はこのことが移住の遠因だったと思います。

及川 そこで岐阜県の郡上市を選んだのは?

岡野 職場に復帰してから、仲間と一緒に「日本みっけ旅」という全国の地域を巡る活動をしていたのですが、その活動のなかで郡上を訪れる機会があったんです。郡上は長良川の源流域です。あるとき、郡上の人の案内で、夜の川で遊ぶ稀有な経験をさせてもらいました。真っ暗な川で魚をとり、それを焚火で焼いて食べながら、竹筒で日本酒を飲む。これが僕にとってとても衝撃的な体験でした。

おもしろいもので、つくり込まれたワークショップよりも、そうして自然の中で焚き火を囲んでいるときのほうがみんな、本音で話せるし、いいアイデアを口にすることが多い気がします。そのとき、人間はコンクリートに囲まれた都会よりも、土や川に近い場所で、その土地に浸りながら活動するのが本来の姿なのではないかと気づかされたんです。郡上の人に教えられた、身体感覚も含めた土地との関わり方を大切にした学びの場を立ち上げようと。それが、郡上カンパニーだったわけです。

コロカル編集長の及川卓也がファシリテーターを務めた。

コロカル編集長の及川卓也がファシリテーターを務めた。

及川 なるほど、ありがとうございます。続いて大山さん、お願いします。

大山りか(以下、大山) 私はもともとNTTドコモの法人営業担当で、主に地銀や信金を担当していたんです(※現在はNTTに出向中)。それが2014年に会社から「地方創生をやれ」と指令を受け、農業分野のICTソリューションを手がけることになりました。適任だと思われたのでしょうね。

ただ、多くのIT企業やベンチャーが農業分野に進出して久しいなか、NTTドコモは後発中の後発です。そんな私たちに今から何ができるかというと、全国に拠点を持つネットワークを強みとして生かすしかありません。そこで各営業所の協力を取りつけて、各地の農業団体に農業ソリューションを提案する活動を始めたんです。

幸いだったのは、農業の世界はまだまだ男性社会なので、女性が飛び込んでいくと、物珍しさもあってわりと寛容に受け入れてもらえたことです。この成果に気をよくして名づけたのが、ICT推進のための女性部隊、〈アグリガール〉でした。おニャン子クラブ世代なので、会員番号を1番、2番とつけてみたのですが、これが今日では140番まで達していることに、私自身も驚いています。

スマホを売っているときにはあり得なかった「ありがとう」の言葉

及川 ありがとうございます。やはり、単に自分自身がいかにして地方で働くかという問題もさることながら、各地域にICTやスマート農業などを根づかせていく取り組みは重要ですね。その一方で、おふたりのように東京からやってきて地方創生に着手する人間が、地域側からどう受け止められているのかというのも気になるところです。

岡野 やはり大変な一面があるのは事実です。まず「東京の広告会社」のような肩書きは、そもそもほとんど理解されにくいです(苦笑)。でも郡上カンパニーのような地域に関わるプロジェクトをやっていると、どうしても地域のみなさんに、プロジェクト自体を理解していただく必要がある。地域のみなさんからすれば、どこの誰が何をやろうとしているのか、やっぱり気になるみたいで。知り合いの誰かが関わっているプロジェクトだと知ると、途端に安心して力を貸してくださるようなこともあります。

及川 やはり最初の壁をどう突破するかが問題なんですね

大山 それはアグリガールも同様で、私たちがいくらスマホやICTの導入を訴えたところで、地方で農業をやっている年輩者からすれば、「そんなものいらないよ。ガラケーで十分」と言われてしまうことが多いんです。

そこでいかに詳しい話を聞いてもらうか、いかに私たちを受け入れてもらうかが重要で、あるアグリガールは競り市に足繁く通い続けたことで、今ではすっかりコミュニティの一員にしてもらっています。競り市に若い女性が来ること自体が、彼らからすると相当珍しいことなので、イヤでも興味を引くんですよね。

おかげで農業ICTソリューションについても耳を傾けてくれるようになりました。例えば牛の分娩というのは通常、産まれるその瞬間のために1週間近くも寝ずの番をしなければなりませんが、私たちのソリューションを使えば、出産1日前にメールで知らせてくれます。おかげで農家の方々の負担が大きく軽減し、最終的には「ありがとう」と言ってもらえる。これはスマホを売っているときにはなかったことですね。

実際に、畜産家を訪れて話を聞く新潟のアグリガール。

実際に、畜産家を訪れて話を聞く新潟のアグリガール。

岡野 その点で言うと、僕の場合は家族4人で移住したことは大きかったかもしれません。妻が3歳と1歳の子どもを連れて散歩をしていると、地元のおばあちゃんが「お宝さん」と言って歓迎してくれるんです。野菜などの農作物をお裾分けいただくことも多くて、僕らはこの恩をどう返していけばいいのかなと悩んだこともありました。

でも、ある人に「君たち若い一家が来てくれたことで、おばあちゃんの寿命が延びている。だからここで暮らしているだけで十分だよ」と言っていただけて。うちの子にうまい野菜を食べさせてやろうと、農作業にやり甲斐を感じてらっしゃるという話だったようで。この言葉には本当に救われました。

及川 すごくいい話ですよね。地域の人々と打ち解けるきっかけは、実はいろんなところに落ちているのかもしれません。

岡野 僕らの場合はもう、家族の総力戦でコミュニティに向かっていった感じでした(笑)。

「地方で働く」ことへの、若い世代の意識の変化とは

及川 僕が2012年にローカルをテーマにしたウェブマガジン『コロカル』を立ち上げてから、8年が経ちます。きっかけは東京のクリエイターたちが地方に目を向け始め、地域で何かを仕かけようとするケースが急速に増えているのを感じたことでした。新しいことが始まる舞台は今後、ローカルに移ろうとしている、と。

実際、効率化や高速化が求められていく風潮のなかでものごとへの関わり方が分業化してきたせいなのか、地方創生ワカモノ会合を見ていても、働き方の多様化とともに、若い世代がダイナミックさを実感できる場所として、ローカルへの関心は年々高まっているように見えます。このあたり、おふたりの感覚ではどう見えていますか。

大山 おもしろかったのは、九州のアグリガールが先ほどの牛の分娩ソリューション〈モバイル牛温恵〉を導入した農家さんに、「これがICTだよ」と言ったら、「え、これが?」と本気でびっくりされたことです。向こうからすると、単に牛のお産の直前にメールが1通届くだけなので、まさかそれがICTソリューションなどというたいそうなものとは夢にも思っていなかったわけです。でも、ICTが普及するというのは、結局こういうことなんですよね。

こうした体験は私たちにとっても新鮮で、だからこそアグリガールがどんどん増えているのだと思います。ひと昔前であれば地方より都心で働くことが花形とされていましたが、最近では「アグリガールになりたい」と言ってNTTドコモを志望する学生もいますからね。

岡野 それってすごいことですよね。アグリガールの影響力の大きさを感じます。

大山 うちの会社は定期的に異動があるのですが、地方でアグリガールをやっている社員のなかには、「このままここで働きたいです」と言う人もいます。「もう東京に戻りたい」という社員は、ほぼいません。だから個人的には、都心に異動しても週1度だけ参加するとか、何らかのかたちでローカルの仕事に携われる仕組みをつくるべきではないかと思っているほどです。

会場は東京の末広町にある〈3331 Arts Chiyoda〉。中学校跡地をリノベーションしてできた施設だ。

会場は東京の末広町にある〈3331 Arts Chiyoda〉。中学校跡地をリノベーションしてできた施設だ。

及川 なるほど、地域で働くこと、地域に転勤になるということのニュアンスが、若い世代の間でもだいぶ変わってきている様子がうかがえますね。

岡野 最近、大学生など若い人たちと話していて思うのは、企業側がビジョンを語ったときに、「あ、中身もないのに『イノベーション』という言葉を使って逃げているな」と、鋭く見抜いている学生が意外と増えてきているような印象を受けます。企業のCSRレポートを見た学生が、「ああ、これはSDGsへの貢献をアピールしたいだけの取り組みだな」と、彼らはちゃんと見抜いていますからね。上っ面の言葉ではなく、ちゃんと手触りのあることや、身体的にもリアリティのあることがより大事にされてきている気がしますね。

及川 企業側のコンセプトワークも、一考を強いられる時代になりつつあるわけですね。

岡野 いくらメディアで自然保護の大切さを訴えられたところで、そこにリアリティを感じないことも多い。僕自身、郡上へ来てから、その場で魚をとって焼いたものを、魚があまり好きじゃなかった自分の子どもたちが「おいしい、おいしい」と言って食べているのを見たときに、「なんで川の魚、どんどん減ってしまっているんだろう?」とか、「源流部の森はどうなっているんだろう?」とか気になり始めましたからね。

郡上八幡のまちなかを流れる吉田川の源流域をたびたび訪れ、焚火などを楽しんでいるという。

郡上八幡のまちなかを流れる吉田川の源流域をたびたび訪れ、焚火などを楽しんでいるという。

地域への“ふたり目”に、いかにつないでいくか

及川 岡野さんがおっしゃったような意味でも、地域の魅力をいかに啓発していくかが、これからますます重要になってくると感じます。

岡野 そうですね。ただ、「〇〇をアピールしなければならない!」ではなくて、何をやるにしても、当事者が楽しそうに生き生きとやっているかどうかが大事だなと思います。楽しいから次の“ふたり目”につながる。誰かがひとりで東京からやってきて何かを始めても、その人がいなくなったら終わりというのでは意味がないですよね。僕自身も郡上カンパニーも、次の動きをつくる局面にきています。その点、企業の中でアグリガールという仕組みをつくりあげたのはすばらしいですよね。

大山 何よりも、横展開できる仕組みだったのは良かったと思っています。彼女たちは各地域でそれぞれ、農業を元気にするという思いのもと、地域の人たちを巻き込んで、いろいろなプロジェクトをやっていますからね。

及川 岡野さんはこのまま郡上に定住し、郡上に骨を埋めるつもりなのでしょうか?

岡野 それは正直、僕らにもわからないんですよ。というのも、世間的にはまだまだローカルに「移住」することイコール「定住」であると思われていますが、そのふたつを同じこととして考えることがおかしいのです。大事なのは、どんな暮らしをしたいか、そしてそこで何に取り組むか。そういう「自分たちの願い」と「地域とのご縁」がかけ合わさった結果、決まっていくことだと思っています。僕も当初10か月限定の移住・出向だったものが、1年延び、さらに先のことまでも見えてきているので、郡上でもっと多くのことを学び、担っていきたいと思っていますが、例えば3年後、自分がどこに住んでいるかは、今の時点では想像もつかないですね。

大山 アグリガールにしても、土に触れ、日差しを浴びることが楽しくて仕方がないようで、まるでリフレッシュを兼ねて働いているようにすら見えます。でも、それでいいんですよね。首都圏で心を病みながら働いている人も多いなか、これほど豊かな働き方はありません。だからこそ、次のアグリガールへとしっかりバトンが渡されているのだと思います。

現時点で課題があるとすれば、彼女たちがローカルで得た経験、身につけた知識やスキルというのは、履歴書に書けるものではないということでしょう。これはいわば“人財”としての価値なので、人材評価として明確化する術が、いまはまだないんです。これは今後、私たちが考えていきたいポイントですね。

及川 ありがとうございます。地域で働くスタイルは現状、着実に育まれ、さまざまな可能性を秘めていることが実感できました。「地域で働く」ことは「都会で働く」ことの対立構造ではなく、手法はまだまだたくさんある。柔軟な発想を持って働き方、生き方をこれからも模索していくことが重要ですね。それをサステナブルなかたちにすべく、ビジネススキームや枠組みを磨いていくことが大切だと感じました。そんなおふたりの今後のご活躍にも期待しています。

【あとがき】 コロカル編集長 及川卓也

内閣官房・内閣府が主催した「地方創生ワカモノ会合in長野」で基調講演をさせていただいた。テーマは「環境×観光で、地域は変わる」。お話しした内容は、従来の「観光」の概念を超えた取り組みのこと。例えば、岩手県西和賀町で、豪雪地帯で住民の生活や健康維持の障害となっていた雪をプラスの価値に転換して、商品や観光のブランディングを行なっている「ユキノチカラ」の事例、ゴミステーションから集められた木材や窓枠を使った施設で、果汁が絞られた後の柑橘の皮を利用してつくられたビールを提供するブルワリー〈RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store〉。つまり、ゴミゼロ“ゼロウェイスト”を観光資源にしている徳島県上勝町の事例。

これらを紹介しながら、これまでの「常識」を突破して生きる場所として、ローカルの可能性についてお話しさせていただいた。内閣府のデータを見ると、日本の人口約1億2000万人のうち、東京圏にはその30%が暮らしている。人口移動状況を見ると、東京圏では15歳から29歳までが流入するという鋭い山型を示し、地方自治体の多くは15歳から29歳までが流出するという尖った谷型を示す。つまり、進学や就職などで、地域から若者は転出し、都市圏に流入しているのだ。その若者たちの意識や進路は、地域で生まれ育ち自分自身も進学で上京した経歴を持つ私としても理解ができる。

都市への憧れや可能性はやはりある。しかし、高度経済成長時代の「片道切符」は終わり、テクノロジーやインフラの進化、社会的な必要性、新しい、あるいはソーシャルな「豊かさ」を求める個人的な感受性という変化が訪れ、「どこでも生きていける」という時代が始まっていることが、コロカルというメディアを運営していくなかで強く感じられる。

そうした意味で、この「地方創生ワカモノ会合」は画期的であった。さまざまなテーマで、地域を舞台に先進的意欲的に活躍する人々が登壇し、その実践を紹介するミーティング。登壇者のなかから、この座談会では、郡上カンパニーの岡野さん、NTTドコモ アグリガールの大山さんにご登場いただいたが、やりがいと新しい豊かさを求めて生きる、新しいライフスタイル、ワークスタイルを垣間見ることができる。

「常識」を超えて、新しい実践をスタートする場所として、ローカルにこそ可能性があることを、この会合は教えてくれている。

information

郡上カンパニー

Web:https://gujolife.com/

NTTドコモ アグリガール

Web:http://docomoagri.idc.nttdocomo.co.jp/

地方創生ワカモノ会合

Web:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/wakamono/

writer profile

Satoshi Tomokiyo

友清 哲

ともきよ・さとし●フリーライター。神奈川県出身。旅、酒、遺跡を中心にルポルタージュを著述しています。著書に『日本クラフトビール紀行』『片道で沖縄まで』『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』ほか多数。

credit

撮影:石阪大輔(Hatos)、中田健司