愛するまちのためのクラウドファンディング

新型コロナウイルスにより影響を受けた飲食店の取り組みが各地で始まっています。津留崎さんが暮らす伊豆下田でも、コミュニティのつながりからさまざまな支援が広がっているようです。さらに、有志により地域を応援するクラウドファンディングがスタートしました。

観光のまち下田は、いま……

一向に収まる気配のない新型コロナウイルス感染拡大により、不便な日々を過ごされている方も多いかと思います。そんななか、最前線でこの病気と闘っている医療関係の方々、そして感染リスクを伴いながらも社会がいつもどおりに機能するために仕事を続けている方々には本当に感謝の言葉しかありません。

下田の夕陽

最大限のリスペクトを受けるべき医療従事者が差別を受けるという悲しいニュースもありました。不運にも感染してしまった人の家に投石や落書きがされたとの話も。このコロナ禍で人間や社会の弱い部分がさらけ出されています。

前回、この連載を更新したときとは、ここ伊豆下田の状況もかなり変わってきました。近隣自治体や下田市でも数名の感染者が確認されたのです。ほかの多くの地方と同じく、高齢化が進み、医療機関のキャパシティが少ない地域ということもあり、住民のひとりひとりが危機感を持って過ごしています。

下田のビーチ

長い休校中の娘と近所のビーチでボール遊び。遊びの場にも学びの場にも、食料調達の場にもなる海。海の近くの暮らしは津波などのリスクもあります。そのリスクと引き換えにこの豊かさがある。そのありがたさをあらためて噛みしめる日々です。

そんな下田の主幹産業は「観光」です。観光資源のメインは夏のビーチではありますが、温泉や開国・黒船来航の歴史、豊富な海の幸もあり、夏以外も週末や連休となるとにぎやかになる観光のまちです。移住してから知り合った方の多くが宿泊施設や飲食店などの観光業を営んでいます。

また、いわゆる観光業でなくとも、どこかで観光と結びついている人がほとんど、というまちです(僕の仕事でいうと、養蜂場でつくったはちみつは観光施設でお土産として売られていますし、工務店では観光施設を手がけることが多いです)。

そんなまちなのですが、いまは新型コロナ感染拡大から地域を守るため、観光客を受け入れることができません。多くの施設は閉められていて、予定されていたイベントも中止が決まっています。それは観光地としては身を切るような苦渋の決断なのです。

閉鎖された駐車場

報道で目にした方も多いかと思いますが、東京圏から海に出かける方が多く、近郊の海に隣した観光地では感染者拡大のリスクを避けるため駐車場閉鎖などを余儀なくされています。ここ下田も同じ状況で、やはり駐車場を閉鎖しています。

では果たして、この夏はいつものように観光客を受け入れることができるのか? 多くは個人経営の宿泊施設や飲食店です。もしも、夏までに新型コロナが終息せず観光客が戻らないのであれば、かなり厳しい状況となることは明らかです。

今回は、そんな状況にあるこのまちで始まったクラウドファンディング「新型コロナから伊豆下田を守りたい! 緊急支援プロジェクト」の取り組みについて紹介します。

下田の海

広がる支援の輪、クラウドファンディングへ

この状況のなか、ただ指をくわえて新型コロナが終息するのを待っていても、国や自治体の補助を待っていても手遅れになってしまう、そんな危機感が市内の飲食店経営者を中心に広がり、まずは飲食店のテイクアウト営業が始まりました。

当初は個々の動きでしたが、SNSなどで情報を拡散することに長けた若い飲食店経営者が中心になり、テイクアウトができる飲食店の情報をまとめるFacebookページが立ち上がりました。地域住民たちもこぞって今日はここのテイクアウト、今日はここのテイクアウトとSNSで発信し飲食店の支援。

テイクアウトした〈MINORIKAWA〉の料理

微力ながらわが家もテイクアウト&発信で地元応援に参加。SNSグループの立ち上げにも尽力したスペイン料理〈MINORIKAWA〉は下田の名店のひとつ。カメラマンの妻は気合を入れて撮影し発信。これがいま自分のできること、と。(津留崎徹花 Instagram)

ただし、この動きには、多くの老舗の飲食店はついてくることができません。というのも老舗飲食店の経営者は、SNSなどでの情報発信が不得手な高齢の方が多いからです。

そこで、若い世代の飲食店経営者たちがそんな老舗飲食店に代わって発信したり、休業中の老舗居酒屋の店主がつくる惣菜を自分の店で売り、その売り上げはままその店主に渡す、そんな動きまでありました。その姿に、小さなコミュニティならではの温かさを感じました。

居酒屋〈賀楽太〉のテイクアウト料理

僕も妻も下田に移住してからすっかり虜になった、下田が誇る居酒屋〈賀楽太〉も休業中。賀楽太の料理、店主佳代さんのファンは地元民にも観光客にも多く、個人的には(いや、多くの人が)このまちの宝とさえ思っています。佳代さんはこのまちを訪れる人に、まちの人に元気を与え続けてきました。そしていま、まちの若い世代が佳代さんに恩返しをしています。

ただ、現実問題としては、地域住民のテイクアウトだけでは飲食店は厳しいことには変わりありません。

先にも書きましたが下田は観光のまちです。具体的にいうと2万人の人口に対して年間300万人の観光客を迎え入れています。つまり、それだけの観光客に下田の味を楽しんでもらうため、人口規模に対して飲食店が多くあるということ。地元の人がいくらテイクアウトで飲食店を支援しても、観光客がいない現状では限界があるのです。

そこで、Facebookグループの立ち上げメンバーでもあり、市内に4店舗の飲食店を経営する徳島一信さんが中心となり、次の動きが始まりました。

「新型コロナから伊豆下田を守りたい! 緊急支援プロジェクト」Webページ

クラウドファンディングがスタート。

愛するまちのために、乗り越えたい!

それは、下田市の飲食店、宿泊施設、農家、漁師の経営存続を支援するクラウドファンディングです。

クラウドファンディングの実施期間は5月1日から30日までで、返礼品は新型コロナ終息後に市内の加盟店で使用できる支援額の1割増分のチケットなど。加盟店には、集まった支援額から分配された金額が届けられる、という仕組みです。市内の事業者60店舗が加盟しています。

「自分たちでできること全部やってこの危機を乗り切ろう!」という徳島さんのひと言から始まったこの計画。コアメンバーは、地元で飲食店、宿泊業、漁師を営む10名弱の有志です。みんなそれぞれの事業が危機的状況にあるなか、まちの明かりを途絶えさせてはいけない、とこの動きが始まりました。

下田の海の夕焼け

徳島さんのクラウドファンディングへの想いが自身のFacebookページで綴られています。生粋の下田人である徳島さんの、下田のいまの状況への切実な想い、それは移住者である自分には計り知れないものです。その想いをダイレクトに感じてもらいたく、一部抜粋し引用します。

僕は下田で生まれ育ち、地元で小さな居酒屋を経営させてもらっています。下田は人口2万人の小さな小さな港町ですが、このまちには僕らが自慢できるものがたくさんあります。

青い海と青い空、明るい太陽、ちょっと個性的だけど優しいオジィやオバァたち。僕は、そんな下田の宝物に見守られ、海よりも深い愛と、空よりも広い心をもつたくさんの人たちに支えられて、11年間、このまちで営業を続けることができました。

そんな、人と人とが支え合ってきた小さなまちがいま、存続できなくなるかもしれないほどの大きなピンチに立たされています。新型コロナウイルスが僕らの下田を崩壊寸前までに陥れているのです。

(中略)

みんなで知恵を出し合った結果、「下田を愛するすべての方々の力を借りるしかない!」と、このクラウドファンディングを立ち上げることになりました。

コロナ禍が終息して、下田へお越しくださったときには、「あのときは応援してくださり本当にありがとうございました!」と心からのお礼と、精一杯のおもてなしをさせていただきたい気持ちでいっぱいです。僕たちは必ずその日がやってくることを信じ、地元の皆と結束し、下田を愛する方々とも繋がり、この危機を絶対に乗り越えたいです。

下田はこの先もずっと、愛してくださる方々の安息の地であり続けたい。訪れてくださるすべての方が元気になれる。そんなまちであり続けたい。

僕らの下田。みんなの下田。応援をどうぞよろしくお願い致します!!!

下田のまちを見下ろす

利他的であるということ

この新型コロナウイルス感染拡大を抑えるためには何よりも「利他的であること」が求められていると感じます。

「自分は若くて免疫力があるから感染しても大丈夫。何も行動を変えない」自分のことだけを考えてそう行動していても(つまり利他的の反対、利己的な行動)、自分が感染してしまえば、ほかの人にうつしてしまう。免疫力が低下している人に移してしまう可能性もある。

すると、すでにギリギリの状態といわれている医療機関に負担をかけることになる。社会は混乱し続け、結局は社会の一員である自分もその被害を被ることになる。

つまり、利己的な行動は結果、利己的ではない。反対に、自分は大丈夫と思っていても、他人のことに思いをめぐらせ「自分が感染しないように」または「すでに感染しているかもしれない」と考えて行動する。そんな「利他的」な行動が社会を守り、結果、自分や家族を守る。

なんだか禅問答のような話ですが、結局、自分や社会を守るためには利他的でなければならない、ということをこのコロナ禍が気づかせてくれた気がします。

ビーチで回収したゴミ

地域で行っていたビーチクリーン活動も休止中。人間がもう少し利他的に行動することができたら、そもそもこんな活動は必要ないのでしょうが……。皮肉なことに経済活動が止まった世界各地で海や川、空気がきれいになっているとの報告があがっています。

いま、下田だけでなくどこの地域も厳しい状況にあります。そんな地域の存続すら危ぶまれる状況にあっては、自分だけが、自分の事業だけが存続できれば、という考えだけではどうにもならないのかもしれません。地域を危機的状況から救うにも「利他的であること」が肝なようにも感じます。

伊豆下田の空

市内に感染者が初めて確認された日、すぐにSNS上でさまざまな情報が飛び交い始めました。この先、どんな流れになるのか? 不安な気持ちでSNSを眺めていると、情報拡散力のある人が、不運にも感染してしまった人、その家族のことを考えて、そして自分や家族にも起こりえることだという考えをもって発言、行動しよう、と投稿。その投稿以降はSNSの雰囲気が変わったように見えました。小さなコミュニティのモラルはこうして保たれる、そんな現場を垣間見た気がします。

一連の下田での動きを見ていて、あらためて小さなコミュニティの良さ、結束力、底力を知ることになりました。この危機を乗り越えて、まちにみんなの笑顔があふれる日がくる。必ず。そう信じています。

伊豆下田の海に沈む太陽

見ているだけで、凝り固まった心が解きほぐされるほどに美しい海。新型コロナの終息後はそんな美しい海が自慢の小さな港町、伊豆下田にて疲れ果てたみなさまのお越しをお待ちしております。

美しい海をいつでも楽しみたいなら終息後に移住もぜひ。アフターコロナ? withコロナ? の時代は自然に近い、海の幸、山の幸に恵まれたこんなまちが見直される、そんな気がしています。これを機に広がったリモートワークでどこの仕事だってできます。

でも、その前に新型コロナで危機に陥ったこのまちを存続させなければ……なのです。ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします!

information

新型コロナから伊豆下田を守りたい! 緊急支援プロジェクト 

Web:CAMPFIRE クラウドファンディングページ

文 津留崎鎮生

text & photograph

Shizuo Tsurusaki

津留崎鎮生

つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram