地域に長く住むジェフリー・アイリッシュさんと空き家問題に取り組む

僕が代表理事を務める〈一般社団法人リバーバンク〉の活動は、鹿児島県南九州市川辺町の高田地区に残る旧長谷小学校という廃校を再生するところから始まり、さらにまだまだ地域に眠っているさまざまな資源を活用する活動へと広がってきました。(その詳細は以前の連載vol.006にて)

僕らが考えたこれらの地域資源には3つの軸があります。ひとつめは戦前の建物である古い学校建築を残した廃校。ふたつめは学校の周辺にある渓谷や古い石切り場などの自然。そして最後の軸が、地域にたくさん現存する空き古民家。これは僕らから見れば立派な資源です。

空き古民家の再生事業については、リバーバンク発足前からこの地域に暮らしてきたジェフリー・アイリッシュさんとともに進めています。ジェフリーさんは民俗学を大学で教えていることもあり、古い集落の歴史や暮らしを調査してアーカイブするということをライフワークにしていました。このテーマでこの地域についての本も書いています。

ジェフリー・アイリッシュさん。地域のご老人にかつての話を尋ねるところから。

ジェフリー・アイリッシュさん。地域のご老人にかつての話を尋ねるところから。

そもそも空き家問題の根本的な原因のひとつに、空き家が不動産マーケットになかなか流通せず、借りたい人とのマッチングが難しいということがあります。

過疎地域の空き家は地価が低く、建物も老朽化している場合はほとんど値がつかないため、不動産屋さんが仕事として入りづらい。ゆえに地域に移住して暮らしたいという人がいたとしてもまず情報が届かない。

仮に空き家があるという情報を得たとしても、大家さんがその地域にすでに暮らしていないことも多く、連絡や契約までなかなかたどり着けないということも起こります。

『幸せに暮らす集落』(ジェフリー・アイリッシュ著)

『幸せに暮らす集落』(ジェフリー・アイリッシュ著)

しかしジェフリーさんは地域をくまなく歩き回り、不動産マーケットに流通しない情報を丹念に調べていました。

「Aという空き家の持ち主はBという家に住んでいるおばあさんの親戚で、今は子どものいるどこどこのまちに暮らしている」とか、その家の歴史からひもといて、「空き家を貸すかどうするかの判断は誰に聞けばいい」というような、とてもまちの不動産屋さんでは拾いきれないような情報をたくさん持っていました。

空き家はそこらじゅうにありますが、立地条件や建物の状態を見極め、なおかつ低コストで改修ができて使えそうな空き家を見つけたうえで大家さんと交渉するというのは並大抵のことではありません。

地元のキーパーソンと。

地元のキーパーソンと。

ジェフリーさんは日本に来た当時、大手の建築会社で働いていたこともあり、建物を見る目があります。それと民俗学的な知識とフィールドワークの手法に加えて、長年この集落に暮らしているという地域からの信頼。これがなくては絶対に実現しないプロジェクトです。

人や親族のつながりをたどって大家さんを探し、丹念に交渉を続け、これまでに5棟の家を借りられるようにしました。

川辺高田地区の人口減少と空き家問題

僕がこの地域の学校に出会って〈グッドネイバーズ・ジャンボリー〉というフェスを始めた2010年は、実は全国で563校もの公立学校が廃校になっていました(出典:文部科学省「廃校施設等活用状況実態調査」)。それでもその頃はまだ、いまほど「問題」として認識されていなかったと思います。それから遡ること20年も前の1990年に、この川辺高田地区の小学校は廃校になっている。つまり、それだけ早い段階で人口減少が始まっていた地域だということです。

静かな田園風景の残る川辺高田地区。

静かな田園風景の残る川辺高田地区。

地域から人口が減るということには、人が亡くなっていく自然減と、転出が続く社会減というふたつの指標があります。この地区はその両方が30年間止まらない地域です。自然減/社会減、いずれにしても住む人がいなくなっていくわけですから、おのずと家が空いてしまいます。

川辺町高田地区には、658世帯1368名が暮らしていて、65歳以上の人口が45%を占めています(2018年時点)。割合でいくと1世帯2人程度。3〜4人家族ももちろんいますから、印象としては独居老人の家がかなり多く感じます。毎年、年間平均で約20軒の空き家が発生しています。

シラス台地に広がる集落の風景。

シラス台地に広がる集落の風景。

地域の自然資源や廃校が放置されてしまうことは確かに問題ですが、空き家の場合は住空間であり、より身近な大問題です。南国・鹿児島では放置された空き家の庭はあっという間に草でジャングルのようになってしまいます。そうすると周辺は虫がわいたり景観が損なわれたり。人が出入りせずメンテナンスしないままの空き家はどんどん傷み、放置していると、ひとたび台風や大雨などがあると崩れてしまうということも起こりえるのです。

この地域では典型的な厩のある空き民家。

この地域では典型的な厩のある空き民家。

田園の中の道。

田園の中の道。

見つける、借りる。空き家のハードルは意外と高い

さて、なんとか大家さんと連絡がついたとしても、雨漏りなど家のメンテナンスはどうするのか、トイレなどの水回りはオーナー負担で改修が必要、古いままの家の浄化槽を新設しなければならない、などなど、考えただけでもうんざりするようなたくさんのハードルがあります。

また低い家賃で貸さざるを得ないため、大家さんはそれらコストをかけてまで貸すという判断がなかなかできない。これは全国どこでも聞く、空き家がなかなか再生できないハードルです。

大家さんが貸すことを快諾してくれたら、次に大量の家財道具の処分という作業が待っています。大家さん側では処分したくてもあまりの作業量に二の足を踏むことも多い。そこはリバーバンクでボランティアなども募って引き受けることにしました。

大量に出る引き取り手のない家財道具を処分する。

大量に出る引き取り手のない家財道具を処分する。

ジェフリーさんの大学の地域創生を学ぶ学生などと一緒に片づけていると、地域の先輩たちが珍しそうに見にきたりして、厩から出てくる古い木製の農具のことを教えてくれたりします。

学生たちと一緒に片づける。

学生たちと一緒に片づける。

こうした空き家からは、かつての農具や暮らしの道具がたくさん出てきます。そのほとんどは使っていた人たちが自作したり、地元の職人さんが手づくりして何十年も使い続けていたもの。僕ら若い世代には使い方もわからないようなものばかり。ホコリをかぶったそれらの道具ですが、丁寧にホコリを落とし磨き直してみると、プラスティックでできた最近の道具にはない美しさを感じます。

家主さんに聞くと「もう使わないから処分してほしい」といわれることがほとんど。しかしそうした道具はジェフリーさんの研究対象でもあるため、彼の家や研究室で保管しています。その一部は、リバーバンクの「昔をまなぶ、今をまなぶ」という活動テーマに沿って〈森の学校〉に展示室をつくって、学校を訪れた人たちに見てもらえるように開放しています。

さまざまな暮らしの道具が森の学校の資料室に集まる。

さまざまな暮らしの道具が森の学校の資料室に集まる。

空き家改修して移住者を呼び込む

これまでに改修したほとんどの物件は、土間に薪で炊く窯を持っていました。この薪窯を地元でも数少なくなった薪窯をつくれる左官職人の御老体と一緒に再生したり、地元の若い大工さんと一緒に空き家改修を進めてきました。

古民家の解体から改修へ。

古民家の解体から改修へ。

家族会議に参加してしまうことも。

家族会議に参加してしまうことも。

不動産業者が入れないような低い家賃で貸すため、僕らリバーバンクが大家さんと借り手との間に入って双方と契約をし、保守メンテナンスも引き受けて家を貸すというオペレーションも構築しました。

みごと改修が終わった家。

みごと改修が終わった家。

このプロセスを経て、この2年間で5棟の空き家改修を終え、移住者を受け入れ始めています。まずそこに移り住んできてくれているのは、この10年の間続けてきたグッドネイバーズ・ジャンボリーに初期から参加してきてくれたクリエイターや、リバーバンクのロゴをつくってくれたグラフィックデザイナーです。

かつて家族が集っていた家はこうなりました。

かつて家族が集っていた家はこうなりました。

僕らのポリシーとして大事にしているのは、ただお金を払ってくれる人に貸すということではなく、この地域に前向きに関わってくれる人を探すこと。リバーバンクのメンバーが何度も会ってこの人なら大丈夫という人に貸すことにしているので、普通の不動産取引におけるいわゆる保証人はとらないことにしました。

人口が減っていくのは全国的な傾向なのでそれを止めることはなかなかできませんが、地域に足を運ぶ関係人口が増え、地域の人口ピラミッドを若い層を中心に平準化させていくことはいまやらなければいけないことです。

今の暮らしのなかでかまどを使えるように再生する。

今の暮らしのなかでかまどを使えるように再生する。

こうして静かだった村に少しずつ賑わいが生まれています。昔ながらの薪窯、薪風呂の生活を続ける人がいる静かな村の暮らしは、おそらくここ10年でなくなってしまうと思います。みんながそのような暮らしに戻るべきとは思いません。

しかし21世紀になってもこの土地に都会とは違う昔ながらの暮らしをしていた人がいたということを、文字上の情報だけではなく、彼らと実際にふれ合って交流し、体験して体で覚えているということもまた大切なことだと思うのです。

実際にこの村の人たちの暮らしは驚くほどエコロジカル。空き古民家対策を通じてそういう暮らしの選択肢を学ぶことも、リバーバンクの大切な活動のひとつです。

再生した囲炉裏と広々とした古民家が移住者を迎えます。

再生した囲炉裏と広々とした古民家が移住者を迎えます。

information

一般社団法人リバーバンク

Web:https://riverbank.jp/

text

Shuichiro Sakaguchi

坂口修一郎

さかぐち・しゅういちろう●BAGN Inc.代表/一般社団法人リバーバンク代表理事音楽家/プロデューサー。1971年鹿児島生まれ。93年より無国籍楽団〈ダブルフェイマス〉のメンバーとして音楽活動を続ける。2010年から野外イベント〈グッドネイバーズ・ジャンボリー〉を主宰。企画/ディレクションカンパニー〈BAGN Inc.(BE A GOOD NEIGHBOR)〉を設立。東京と鹿児島を拠点に、日本各地でオープンスペースの空間プロデュースやイベント、フェスティバルなど、ジャンルや地域を越境しながら多くのプレイスメイキングを行っている。2018年、鹿児島県南九州市川辺の地域プロジェクト〈一般社団法人リバーバンク〉の代表理事に就任。