長野県安曇野市といえば、常念岳をはじめとする北アルプスの山々が注目されがちだがその裾野には、南北に延びるローカル線、大糸線を走らせ、広大な田園地帯に美しい里山が広がっている。自然と人々の暮らしが調和する日本の原風景もまた、安曇野の魅力のひとつだ。

その土地の景観に溶け込んだ暮らし、という点においてすっかりと自然を我がものとしているのが、〈BESS〉のログハウス「カントリーログ」に住む五郎丸良輔さん一家だ。家、庭、そして安曇野の里山が、まるで融合してしまっているかのような家が出迎えてくれた。

「自然が師匠」。安曇野の里山を写し出す暮らし

〈ガーデンホリック〉という名で造園業を営みながら、自身のお家も抜かりなく、こだわりぬいた庭が自慢だ。

造園というと、日本庭園のような整えられた庭を想像するかもしれないが、四角四面に整えられた生垣や縁取りされたように美しく剪定された木々があるわけではない。

五郎丸さんが手がけるのは、「雑木の庭」と呼ばれる、自然に近いありのままの姿。雑木の庭の歴史は戦後くらいから始まっていて、庭の歴史のなかでは新しい。

里山の風景を切り取ったような雑木の庭。多種多様な草木が植栽されている。

里山の風景を切り取ったような雑木の庭。多種多様な草木が植栽されている。

それまでの日本庭園では「マツやスギ、ヒバなど針葉樹をメインに荒々しい山や、神々がすむ世界、“あの世”的な精神的な世界観」で庭がつくられていたという。

「しかし人々が都市部へ移動すると、自然との距離感も変わり、今まで薪などにしか使われていなかった里山のいろいろな木々、つまり雑木が庭に使われるようになります。身近な自然の縮景として、雑木の庭がつくられるようになってきました」

五郎丸さんが惹かれたのは、きれいな日本庭園より、懐かしさや身近な感覚を持つことができる雑木の庭だった。ありのままの里山。そのほうが五郎丸さんの自然観に近かった。しかし現代の都市的な生活においては、里山すらも身近ではない。だから雑木の庭にも「わざわざ」つくるだけの価値があるのだ。

草木の生育過程や、完成形のイメージなど実際に庭を歩きながら説明をしてくれる。

草木の生育過程や、完成形のイメージなど実際に庭を歩きながら説明をしてくれる。

地域の植生が、未来の風景をつくる

雑木の庭において重要なのが、その地域の里山を意識すること。「安曇野の自然植生が師匠ですね」と、五郎丸さんは言う。

高木のクヌギやコナラに、アオダモやソヨゴなど中高木、低木、地被植物を寄せて、数種類の木々で構成して島をつくっていく。その島をいくつも配置し、多くの草木を組み上げていくのが五郎丸さんの雑木の庭づくり。安曇野の里山に自生している木々を植栽するので、病気にもなりにくい。

自生種の庭をつくると、その地域の虫や鳥などがやってくる。そうなればもう、その庭は里山そのものといってもいい。

「庭づくりを続けることによって、個々の庭がつながっていくようにしたい。自生種の庭はその地域の景観をつくり、まち並みをつくっていきます。それが住む人にとってアイデンティティになり、さらには文化にまで育っていけばいいなと思っています」

それぞれの家が地域の植生を持つ庭を持つことで、その地域自体が植生豊かな林になり、さらには「新しい里山」になっていく。

林や森に手を入れていくよりも、自分たちとその暮らしを、里山に近づけていくことで山や森のなかに住まなくても、ありのままの自然を積極的に受け入れることができる。

五郎丸さんが実際に仕事で使用した手書きのイメージパース。打ち合わせを重ね、細部を詰めていく。

五郎丸さんが実際に仕事で使用した手書きのイメージパース。打ち合わせを重ね、細部を詰めていく。

そうした五郎丸さんの「庭哲学」に共感する人たちが、ビジネスでもお客さんになってくれる。

お客さんの庭を手がけるうえで、自宅の庭はいわばサンプルモデル。自宅兼事務所のため、実際にお客さんが自宅を訪れ、イメージをすり合わせることもあるという。

「実際に草木がどのくらいの大きさになるのか、どういった配置で植栽すれば美しく見えるのか、イメージをすり合わせてからスケッチに起こして、つくらせてもらっています」

ガーデンホリックでは、雑木の庭だけでなく、宿根草(しゅっこんそう)を中心としたイングリッシュガーデンのガーデンデザインから植栽を中心としたエクステリアも得意としている。

ガーデンホリックでは、雑木の庭だけでなく、宿根草(しゅっこんそう)を中心としたイングリッシュガーデンのガーデンデザインから植栽を中心としたエクステリアも得意としている。

季節がめぐるとともに、家もまた刻々と変貌を遂げる

松本の高校で出会った五郎丸さん夫婦は、別々の大学に進学したあと社会人生活を横浜で過ごし、10年前に長野に戻ってきたUターン組。ふたりとも松本の自然の中で育ったため、都会の子どもが夜遅くまで塾に通っているような生活に違和感があり、都心での生活をあとにした。

以前から「田舎の景色や植物と相性がよい自然素材の家に暮らしたい」と考えていたが、ログハウスを建てようと決めたのは、ログを別荘に持つ知人の影響が大きかったそうだ。大学卒業後、造園業の専門学校で知り合ったその人は、年齢が上ということだけではなく、全身に圧倒的な余裕のオーラをまとっていた。「ログハウスに住むとこんなにも人生が変わるのか」と衝撃を受け、BESSのシリーズのなかでもどっしりとした重厚感を持つカントリーログでの暮らしを選んだ。

カントリーログの“重厚な木の雰囲気”をひと目で気に入ったという。

カントリーログの“重厚な木の雰囲気”をひと目で気に入ったという。

「こうまでも四季の移ろいを目に見て、感じとることができる暮らしは最高の贅沢です。冬は葉っぱが落ちて、抜けるように日の光がスッと入ってくる。夏は木陰がひさしになって、緑がきれいに映えます。家の中からでも、窓を通して見る景色が日々変わっていくのは都心のマンション暮らしでは味わえないことですね」と奥さんの由美さん。

木の家に住み、雑木の庭に囲まれて、北アルプスを望む。五郎丸さんの暮らしは、季節とともに移りゆく自然とシームレスにつながっている。

「信濃富士」「有明富士」とも呼ばれる有明山。古くは山岳信仰の対象として親しまれた。

「信濃富士」「有明富士」とも呼ばれる有明山。古くは山岳信仰の対象として親しまれた。

五郎丸さんのお気に入りは、天窓からご自宅の真正面に見える有明山。窓枠が額縁となり一幅の絵画のようだ。

有明山の頂が冠雪し、山頂を真っ白い雪が覆う頃、まだ中腹は紅葉が真っ赤に染まっている。季節の移ろいに応じて、山頂の白さが徐々に山肌を染め、冬には麓まで真っ白になる。そして春の芽出しからは、夏に向けて一斉に草木が萌え、深い緑に覆われる。

部屋は吹き抜けの構造。天窓があって明るい。

部屋は吹き抜けの構造。天窓があって明るい。

8月中旬に一家を訪れ、驚いたのはエアコンがないことだ。いくら長野といっても夏は暑いのだが、この10年間エアコンなしで夏を過ごしている。「『夏は暑いもの』ということを子どもたちに知ってほしい」と由美さんは笑う。

「雑木の庭の気化熱で涼しいというのもあると思います。去年はちょっときつかったけど(笑)」と五郎丸さん。森が涼しいのと同じで、雑木の庭の緑が気温を下げてくれているのだ。

都会でも四季を感じることはできるかもしれないが、季節は4シーズンではなく、日々、刻々と変化している。それに気がつくのは、この環境で、「ありのままの自然」とつながりながら暮らしているからだろう。

デッキには卓上のピザ窯が。春から秋にかけてはデッキで食事するのが家族の楽しみ。

デッキには卓上のピザ窯が。春から秋にかけてはデッキで食事するのが家族の楽しみ。

数百種の草花が彩る庭と自然が遊び場

3人の子どもたちはみんな安曇野生まれで、都会の生活を知らない。軒先のデッキでごはんを食べながら「今日は川に行こう!」と決めたらすぐに家を出て、河原や森に遊びに行く。自然が遊び場だ。夏には、わさび田で知られる安曇野の清流で遊び、冬には近くのスキー場で雪遊び。季節ごとの自然を享受する遺伝子は、子どもたちにも受け継がれているのだろう。

「カントリーログ」シリーズの特徴でもある、庭に抜ける大きなデッキは、五郎丸さん一家のくつろぎスペース。

「カントリーログ」シリーズの特徴でもある、庭に抜ける大きなデッキは、五郎丸さん一家のくつろぎスペース。

子どもたちにとっては、もちろん雑木の庭も遊び場で、今では、葉っぱを見ればそれが何の木なのか分かるほど熟知している。

子どもたちも庭の植物に興味津々。毎日が「森の授業」。

子どもたちも庭の植物に興味津々。毎日が「森の授業」。

現在、五郎丸家の庭には、足元に生える宿根草が400〜500品種、クヌギやコナラなど低木、中高木40〜50の原種や品種が植栽されている。

日本原産でギボウシと呼ばれる多年草は、葉っぱのつき方や大きさの違いで数十種類あるバラエティ豊かな品種で世界中に収集マニアがいるほど。この庭にもギボウシだけで約200品種が生育されている。

もちろん顧客へのモデルケースという意味もあるだろうが、五郎丸さんの植物や自然に対する向き合い方の原点を感じる。林や森にたくさんの種類が生えているのは、ごく当然なのだから。

学生時代の「実生クラブ」(実生:種から芽を出して生長すること)で種から育てて20年余り、背丈を越えたコブシの木。とくに愛着のある植木のひとつだ。

学生時代の「実生クラブ」(実生:種から芽を出して生長すること)で種から育てて20年余り、背丈を越えたコブシの木。とくに愛着のある植木のひとつだ。

五郎丸家の雑木の庭は、限りなく自然に近いかたちで安曇野の里山を再現し、庭と家はほとんど一体化している。そんな庭と家であるから、きっと訪れるたびに、季節それぞれの表情を見せてくれることだろう。それが安曇野の里山であり、五郎丸さんの暮らしのよりどころだ。

ご自宅には由美さんが手がけたリースが。〈Bloomsbury560〉の名でオンラインでの販売も行っている。

ご自宅には由美さんが手がけたリースが。〈Bloomsbury560〉の名でオンラインでの販売も行っている。

information

BESS 

https://www.bess.jp/

writer profile

Takuryu Yamada

山田卓立

やまだ・たくりゅう●エディター/ライター。1986年生まれ、神奈川県鎌倉市出身。海よりも山派。旅雑誌、ネイチャーグラフ誌、メンズライフスタイルメディアを経て、フリーランスに。現在はキャンプ、登山、落語、塊根植物に夢中。

photographer profile

Ryosuke Kikuchi

菊池良助

きくち・りょうすけ●栃木県出身。写真ひとつぼ展入選後、雑誌『STUDIO VOICE』編集部との縁で、INFASパブリケーションズ社内カメラマンを経てフリーランス。雑誌広告を中心に、ジャンル問わず広範囲で撮影中。鎌倉には20代極貧期に友人の家に転がり込んだのが始まり。フリーランス初期には都内に住んだものの鎌倉シックに陥って出戻り。都内との往来生活も通算10年目に。鎌倉の表現者のコレクティブ「全然禅」のメンバー。http://d.hatena.ne.jp/rufuto2007/