津田直さんが富山で見出した“水の旅”とは

世界有数の深雪地であり、立山連峰を水源とする清らかな水に恵まれた、富山県立山町白岩。この地に、日本酒の新たなブランド〈IWA〉が誕生しました。

このお酒がこれまでになく新しい理由は、フランスのシャンパーニュ地方の中心に生まれ、28年にわたり〈ドン ペリニヨン〉を率いたリシャール・ジョフロワさんが手がけていること。

リシャール・ジョフロワさん。

リシャール・ジョフロワさん。

最初のリリースとなる日本酒〈IWA 5〉は伝統的な技法で醸されながらも、日本酒にとって画期的な手法であるブレンド技術を用いて完成したといいます。

同ブランドでは様々なクリエイターとコラボレーションを行っており、ボトルのプロダクトデザインはマーク・ニューソンさん、ラベルのアートディレクションは中島英樹さん、題字は書道家の木下真理子さん、酒蔵の設計は建築家の隈研吾さんが手がけています。

「IWA 5」Photo:JONAS MARGUET

〈IWA 5〉Photo:JONAS MARGUET

今回ご紹介するのは、写真家・津田直さんとのプロジェクト。2019年冬から2020年秋まで、およそ1年かけてIWAが生まれた舞台を撮影するもので、公式サイトにて、順次シリーズを公開していきます。

津田さんは、IWAのコラボレーターのひとり、〈桝田酒造店〉当主・桝田隆一郎さんを訪ねた際に、あるテーマを見出したといいます。

「今回のお話を頂いてから富山にある桝田さんの酒蔵を訪れ、日本酒がどのように生まれるか——米を磨き、研ぎ、浸し、蒸し、麹を加えて発酵させ、搾り、ようやく一滴のお酒が落ちるまでの過程を見せていただきました。そのときに、なんと長い旅を経てお酒が生まれるんだ、という印象を受けたんですね。また、立山町は山と海のつながりが見て取れる場所にあり、3000メートル級の山から一気に山肌が下り、水深1000メートルの富山湾の海へと入っていくんです。山頂から海底迄は、4000メートルもの高低差があります」

靄がかった山中の風景

「その地形について調べていたときに、雪解け水が山から富山湾へそそぐ過程と日本酒が生まれるまでの過程が僕の中で重なり、”水の旅”のようなものを想像し始めました。そこでリシャールさんに、1年を通じて富山のランドスケープを撮影し、水を巡る旅を追ってみてはどうですか、とご提案しました」

それからミーティングを重ね、パリで合流した際には意気投合したという津田さんとリシャールさん。かくして2019年冬より、撮影プロジェクトがスタートしました。

酒母

上の写真は、「酒母(しゅぼ)」と呼ばれるもの。蒸した米と麹、水を用いて酵母を培養したもので、文字通りお酒の母、元となるものです。

津田さんはこうしたイメージをランドスケープ同様にとらえ、サイトでは、新雪の写真と対(つい)のように並べられています。

津田さんの写真を眺めていると、春は新緑に萌えた木々が秋には紅葉するように、この地でつくられたお酒が白岩という環境から生まれ出たものだということが自然なことのように思われます。津田さんは立山の水がお酒の味にも深く関わっているといいます。

「リシャールさんに”水とは”と問われたときに、僕は”それは経験のようなもの”と答えました。水はかつて山に舞い降りた雪だったかもしれないし、雨の滴だったかもしれないし、川だったかもしれない。

水ほど経験値をもったものを、僕は知りません。僕たちよりも遥か昔から生きていて、それでもピュアであり続けることができる。お酒となるまでの過程にそんな永き旅が隠されているからこそ、お酒の旨さや柔らかさを生むのだと思います」

IWAのサイトでは、もうすぐ春編が公開予定とのこと。新しい作品も楽しみです。

雪におおわれた山々と麓に広がる住宅

2021年春には、隈研吾さんが設計を手がけた酒蔵「白岩」がオープン予定です。風景と調和した蔵は「分け隔てなく、全てを包み込むような包容力のあるコミュニティの醸成」というIWAの理念を体現する建物。室内では、つくり手もゲストも一緒に炉を囲むことができるようになるのだとか。白岩の自然や建築、写真と合わせて、ぜひ現地で体験してみたいお酒です。

information

IWA 

発売元:株式会社白岩

Web:https://iwa-sake.jp/

writer profile

Yu Miyakoshi

宮越裕生

みやこし・ゆう●神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへて2011年よりライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。

photographer profile

Nao Tsuda

津田直

つだ・なお●写真家。1976年神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。主な作品集に『SMOKE LINE』(赤々舎)、『Elnias Forest』(handpicked)などがある。https://tsudanao.com