SWAY DESIGN vol.1

こんにちは。石川県金沢市で〈SWAY DESIGN〉という設計事務所を運営している永井菜緒と申します。

SWAY DESIGNがこれまで手がけてきた物件は、住宅、店舗、オフィス、クリニックと多岐にわたり、構造による選別もしていません。共通する特徴を挙げるならば、8割以上が既存の建物を改修していること。でも新築をしない、ということでもありません。

この雑食にも見える守備範囲について、全8回となるコラムを通じ、どこを目指しているのか、何を考え、どんな経緯をたどっているのか、すべての物件に共通する思想をさまざまな事例と共にお話したいと思います。

初回となる今回は、創業の経緯とその起点となった事務所づくりについてご紹介します。

築40年の実家を改修した店舗併用住宅。2階は〈SWAY DESIGN〉の事務所、1階は両親が運営するそば屋です。そば屋はSWAY DESIGNのフロントデスクを兼ねています。

築40年の実家を改修した店舗併用住宅。2階は〈SWAY DESIGN〉の事務所、1階は両親が運営するそば屋です。そば屋はSWAY DESIGNのフロントデスクを兼ねています。

地元石川へUターン。焦ってばかりの日々

SWAY DESIGNは2014年に永井の個人事業として設立したのが始まりです。大学卒業後、首都圏の大手チェーン店の設計施工を行う会社、遊休不動産の利活用を行う会社に勤め、地元石川県へUターン。4年間の個人事務所期間を経て、2018年に株式会社SWAY DESIGNを設立しました。

独立初年度は、石川県で縦横のつながりもなく存在すら知られていない状態からのスタート。日々の仕事は、地元建築会社から請け負った確認申請業務や家具・建具の施工図を描くことで、月収は会社員時代の半分ほど。

同世代の活躍を見て、焦りと自分への苛立ちが募りながらも、「見た目も重要だけど、事業性を無視した作品づくりは建築家の自己満足だ」と斜に構え、コンペには参加せず。

そんな模索期を過ごしながら、2年目に突入。一日中こもる事務所での図面描きがしんどくなり、環境を変えたい欲求から、事務所移転に向けて動き出します。

当時は、市のインキュベート施設内の5坪ほどのスペースを事務所として賃貸していました。

当時は、市のインキュベート施設内の5坪ほどのスペースを事務所として賃貸していました。

なにを実現したいのか? 事業の方向性を見つめ直す

お手頃な賃貸物件を改装しようと、約500万円で計画を開始するものの、賃料や初期費用などによって予算オーバー。そもそもこの500万円とは妥当な金額なのか……?

ビジネスにおいて、“何をいつまでに”という時間軸を意識し始めたのはこの頃からでした。賃貸条件を眺めていると、次第にこんな疑問が浮かんできました。

契約更新の保証がない物件にいくらかけるのか? 更新しても、ここにかけた内装は持ち歩けない。とはいえ購入したところで、会社の状況が変化していくであろうことは同じ。そのとき、より身動きがとりにくくなるのはどちらだろう? 

そこで考えを改めます。いま自分が判断すべきは、どんな事業の方向性を目指しているのか、それはどれだけの価値を生み出し、必要とされているのか、ということ。それを実現するには、どれくらいの費用を投下する必要があるのか、ということ。

事業の方向性が曖昧だったからこそ、事務所に投下すべき金額も不明瞭だったことに気づきます。

あらためて、事業の方向性を再整理しました。

家族や事業の変化、引っ越しや移転など、予測できなかったズレが生じても、建築は投下コストが大きく長期計画にならざるを得ない。そのときにどう対応するか、設計以前の所有の方法や費用の設定、手放し方や壊し方も含めて検討する必要があるのではないか。

結果、自分が目指すのは、人の生活(住まいも働き方も)に対して建築がどうあるべきかを考え、最適解を提供すること。そのために必要な知識を提供し、その先の実践として建築行為が必要となれば設計もするし、場合によっては建築しないことをお勧めするということでした。

「未知の未知」のきっかけを提供する

「一級建築士事務所」と名乗ることで、お客さんは「こういった家(もしくは店舗)が欲しいです」という自分なりの要望をもって訪れます。

でもその要望は、お客さんが知っていること、もしくは知らなくても、知らないということがわかっていることから出てくるものがほとんどです。本当は「未知の未知(自分が知らないことに自分が気づいていないもの)」にこそ、潜在的な欲求が潜んでいるのではないか。

でも自分が知らないと気づいていないことを調べたり、誰かに尋ねるなんてできるはずもなく、そのきっかけを提供することが、この事務所計画の核となっていきました。

事務所の設計計画と同時に、事業の根幹を言語化しました。

事務所の設計計画と同時に、事業の根幹を言語化しました。

それを実現するために導き出した結論が、事務所をショールーム化し開放することでした。ショールームと言っても、ハウスメーカーのように最新設備がひと通り入ったものではありません。

目的が定まっていない状態で事務所に来てもらい、そこで会話が発生し、「未知の未知」を知って、持ち帰り、考えるきっかけを提供する。

その価値さえ伝われば、この場所自体がSWAY DESIGNの事業展開を宣伝することにつながる。そう考えが切り替わり、あらためて物件選定を始めました。

築40年の実家のリノベーションから「意外性」を感じてもらう

「もしかして自分が思っている常識は違うのかもしれない」と気づくことで世界が反転して見える。こういうと大袈裟かもしれませんが、この場所でそれくらいの「意外性」を感じてもらうことが、訪れる人の「未知の未知」を引き出せるきっかけになると考えました。

そこで物件の候補に挙がったのが、空き家となっていた実家でした。

亡くなった祖父母の荷物もそのままで、ここまで片づけるのに家族総出で2か月ほどかかりました。

亡くなった祖父母の荷物もそのままで、ここまで片づけるのに家族総出で2か月ほどかかりました。

そのままでは売ることも貸すこともできない、荒れ果てた状態。

そのままでは売ることも貸すこともできない、荒れ果てた状態。

周囲は田んぼと畑の市街化調整区域で、幹線道路からも外れ、歩いている人も車通りもありません。しかも築40年の昭和後期の建物。誰がどう見ても物件自体のポテンシャルが低いこの建物こそ、意外性という点では、よい発信の場となると考えました。

換気がされておらず、中はカビと湿気でとてもそのまま使える状態ではありませんでした。

換気がされておらず、中はカビと湿気でとてもそのまま使える状態ではありませんでした。

ショールームとはいえ、興味を持たれなければ誰も訪れない。であれば、違う用途を持たせて、それをきっかけにSWAY DESIGNを知ってもらおうと考えました。

たまたま、両親が40年近く続けてきたそば屋が兄に代替わりし、両親は無職状態。しばらく働きづめだったのでうれしそうに「休むわー」と言っていた割に、客商売をずっとやってきた反動からか、ちょっと寂しそう。それならばと、ショールームに両親が運営する飲食店を併設することに決めました。

まずは解体工事から。シロアリの被害も多く、構造の調査から行いました。

まずは解体工事から。シロアリの被害も多く、構造の調査から行いました。

また、訪れた人に期待感や可能性を感じてもらうためにも、中途半端な改修工事はしたくない。結果、大幅に膨らんでいた予算を、このそば屋計画によってさらに増額しました。

コロナ禍でオフィスは削減すべき固定費、という考えもちらほら聞かれますが、場所自体に利益を生む仕組みを組み込むことで、物件を維持するための「経費」ではなく、「投資」として発想を切り替えました。

漆を塗った和紙。間仕切り壁に使用しており、経年劣化を見ることができる。自己所有だからこそ使ったことのない材料を実験的に採用しました。

漆を塗った和紙。間仕切り壁に使用しており、経年劣化を見ることができる。自己所有だからこそ使ったことのない材料を実験的に採用しました。

荒れ果てた前庭も、母方の実家から持ってきた灯籠や石を再利用してつくり直し。

荒れ果てた前庭も、母方の実家から持ってきた灯籠や石を再利用してつくり直し。

席数、稼働日数、母の人件費+父のつくる蕎麦の原価から毎月の損益を考え、この先両親が私と一緒に何年働いてくれるかをイメージし、支払える額を算出。予算は2000万円を超えるところまで追加しました。

借入れにあたっては、物件を父から生前贈与してもらい担保として提供、自宅機能も加えて店舗併用住宅とし、住宅ローンも組み合わせることで、無理のない資金計画となりました。

無事に工事も終え、事務所兼ショールームとそば屋が完成しました。

1階の全景。既存の構造をほぼそのままに、床や天井の高さを変えることで、閉鎖的な印象を払拭。

1階の全景。既存の構造をほぼそのままに、床や天井の高さを変えることで、閉鎖的な印象を払拭。

こちらの沓脱石は、母方の実家から持ち込み再利用。

こちらの沓脱石は、母方の実家から持ち込み再利用。

昼間はそば屋のテーブル席に、それ以外はSWAY DESIGNの打ち合わせスペースに活用しています。

昼間はそば屋のテーブル席に、それ以外はSWAY DESIGNの打ち合わせスペースに活用しています。

母が立つそば屋。そばを提供しながら空き家の相談になることもしばしば。

母が立つそば屋。そばを提供しながら空き家の相談になることもしばしば。

この場所から生まれたもの

創業2年目の売り上げわずかな設計事務所ではなかなか借りにくい金額も、自宅を担保提供することで借入れができ、その投資自体が利益の原資になることなど、実践から学ぶいい機会となりました。

当初の計画では、設計事務所の起点づくりとしてのショールームでしたが、実家の空き家問題や事業の組立て方と資金計画、また両親が働く場所をつくることにもつながり、思いもよらない副次的な役割を果たしてくれました。

出足はじんわりしたスタートでしたが、雑誌に取り上げられたり、石川県の賞を受賞。そば屋の評判があちこちで広まり、ごはんを食べにきたことをきっかけにSWAY DESIGNを知った方からの住宅や店舗の受注が何件も続いています。

雑誌や地元TVなどでも取り上げられ、県内外からお客様が訪れるようになりました。

雑誌や地元TVなどでも取り上げられ、県内外からお客様が訪れるようになりました。

お客さんと母との対話から、「実家をどうしよう」という両親世代からの相談や、私の同世代から「親の家が残るのに新築するリスクはあるのか?」といった、当初出会いたかった、処分の仕方や所有の方法についての相談を受けることもあります。

また、ショールームとしてさまざまな素材や意匠、施工方法を用いたので、設計時に施主をご案内してスケール感や材質を現物サンプルとして見ていただくにも好都合。

この空間に合わせ、特注の真空管アンプもつくってもらいました。

この空間に合わせ、特注の真空管アンプもつくってもらいました。

新旧の対比はビフォー&アフターの写真では伝わりにくいので、外観はあえてそのまま残し、これくらい古い(野暮ったい)物件もこんな風に変わるのか、というリノベ特有の不安を払拭する機能も果たしてくれています。

入り口だけ改修して、ほかの部分は最低限の補修を施し、建築当時の姿を残しました。

入り口だけ改修して、ほかの部分は最低限の補修を施し、建築当時の姿を残しました。

中と外をつなぐ境界。来たときとは違う視点を持ち帰ってもらいたい、その通過点として。

中と外をつなぐ境界。来たときとは違う視点を持ち帰ってもらいたい、その通過点として。

誰でも気軽に訪ねられるという特性から、ここ数年は新規雇用の社員との接点づくりの場としても活躍しています。私たちの考えを知って一緒に働きたいと感じてもらうことは、とてもありがたいことです。

新しいメンバーも集まり、この事務所も手狭になってきたので、オフィスは次の場所へと移転。そちらもいろいろな仕掛けがあるのですが、これは別の記事でご紹介です。

次回は、元医院を学習塾と地域のコミュニティスペースへと改修した事例をご紹介します。

information

みちこのそばと甘味処

住所:石川県小松市大領町つ7-2

営業時間:11:00〜17:00

定休日:火曜

writer profile

Nao Nagai

永井菜緒

ながい・なお●株式会社SWAY DESIGN代表取締役。1985年石川県生まれ。住宅・オフィス・店舗のリノベーションを手がける傍ら、設計者の視点から物件の価値や課題を整理し、不動産の有効活用を提案する不動産事業を運営。解体コンサルティングサービス「賛否、解体」、中古物件買取再販サービス「よいチョイス」の事業を展開。