さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。第17回は、絵描きのリー・イズミダさんが旅するときにはずせないという、本とパンの話。旅は本屋とパン屋から始まり、帰宅してからも、その旅の思い出を彩ってくれるようです。

旅行先で必ず探し訪れる場所

私は自分の家が世界中のどんな場所より好きだ!休日に少しお出かけしてもすぐに家に帰ってしまう。旅行へ行くときは家に持って帰って思い出に浸れるものを探す。代表的な例でいえば「本とかたいパン」。

私が旅行へ行く機会が増えたのはちょうど2年前、絵描き一本で仕事を始めたのがきっかけだ。今回書くことも2年前ぐらいになんとなく空港の搭乗アナウンス待ちで時間を持て余したときに思いつき、続けている。

京都にて。今回の旅写真は、すべてフィルムで撮影したものです。

京都にて。今回の旅写真は、すべてフィルムで撮影したものです。

私の場合、旅行といっても仕事で行くことがほとんどだ。そしていつも仕事柄、大荷物を持って旅行へ行くことが多く、基本的に単独行動だ。旅行鞄の中は絵の具やスケッチブック、筆など、どれも重くかさばるものばかり。プライベートの旅行でも、スケッチブックや絵の具は少しでも持って行かないと落ち着かない。いくら荷物を減らせといわれても、減らすのは洋服で画材は持っていくだろう。そんな性格なので、私の旅行に持っていく荷物はスマートだったことがない。

はりきって沢山行動するのもそこまで好きではないのでみずから事前に計画を立てることもない。そんな私だがホテルに着くとまずは近くにパン屋と本屋があるかどうかをグーグルマップで確認する。近くになければ歩く、見つからなければ現地の人に聞く。おもしろいことにパン屋と本屋はどこに行っても1軒や2軒はある。これは国内だけではなく海外も一緒だ。

パン屋の店員さんにはなぜか話しかけやすい。人見知りの私でもパン屋の店員さんには「ここらへんでおいしいご飯ありますか?」とか「観光できる所ありますか?」と気軽に話しかけることができる。調子がいいときは「今日は天気がいいですね〜」なんて話しかけることもある。そしてみんな親切に教えてくれる。本屋にはガイドブックがあるので、人に聞かなくとも探すことができる。本も親切に教えてくれる。おもしろいことに、これも国内だけではなく海外も一緒だ。

鹿児島。

鹿児島。

旅の思い出を忘れないために

なぜ私がここまでパン屋と本屋にこだわるかというと、冒頭にも伝えた通り、家に帰ったときに今回の旅に浸りたいからだ。

パンはかたい方がいい。なぜかというと持って帰るときにかさばる荷物にもまれても平気だからだ。日持ちもする。一度やわらかいパンを持って帰ったときは鞄の中で画材にもまれて家に着く頃にはいびつな形に変貌していた。かたいパンを好む理由はもう少しあるがそれはまたあとで説明をする。

北海道。

北海道。

本はなんでもいいが、できれば普段は高くて買わない美術書がいい。なぜかというと必ずいつか読みたくなるから。なければ旅行先で行った美術館のチケットの半券や素敵なデザインのフライヤー、メモ書き、気になったお店の店舗カード、レシート裏に描いた落書きを挟むことができるものでいい。よっぽど荷物が多いときはポケットに入る興味が沸く文庫本を買う。

旅行中の思い出は忘れたくないが、意外とすぐに忘れてしまう。特にひとり旅行は思い出を一緒にいた相手と話す術がないので尚更だ。今はスマートフォンで手軽に写真を撮り、記録を残すことは出来るが、いざ思い出を見直すかと聞かれると私はよっぽどのことではない限り旅行先で撮った旅の写真は見直さない。小さなスマートフォンに何千枚と記録された膨大なデータのなかから遡るのも面倒だ。

ではどうしたら忘れないか?どうしたら見直すか?どうしたら私はもっと旅行を楽しめるか?そこで思いついたのが「本とかたいパン」だ。

鹿児島。

鹿児島。

本とかたいパンの家での使い方

私が「本とかたいパン」にこだわる理由と使い方はこうだ。旅行から大好きな家に帰宅して、旅行先で買ったかたいパンをゆっくりとオリーブオイルをひいたフライパンで焼き、大好きな旦那と寒い季節はゆっくりボルシチやシチューに浸して食べる。それか次の日のランチでゆっくり味わう。大きなバゲットだとそれが3日間連続で続く。パンをゆっくり焼きながら、かたいパンをゆっくり噛みながら今回の旅はあーだったなー、こうだったなー、と思い出す。食べきれないときは小分けにして冷凍する。

広島。

広島。

本は時間がたってから自宅でゆっくり読む。行った先の美術館のチケットの半券や素敵なデザインのフライヤー、メモ書き、気になったお店の店舗カード、レシート裏に描いた落書きがランダムにページに挟まっている。旅行へ行った日付もしっかりわかる。よく季節は覚えていても何年前だったか思い出せないこともあるが、本に挟まったヒントですぐにわかる。膨大なカメラロールやインスタを遡るよりはるかに早い。

ベン・シャーン展の半券が挟まっていた。

ベン・シャーン展の半券が挟まっていた。

そして“なるべく美術書を探す”理由は必ずいつか読みたくなる以外でもうひとつある。昔大好きなベン・シャーンの美術書を古本屋で買ったときの話である。本の間に当時この本を買った人が1970年に〈東京国立近代美術館〉で開催された「ベン・シャーン展」の当時のチケットの半券を挟み、私はそれを自宅で発見した。まるで宝物を発見した気分だった。私の本もそうなるだろうか?

最後に、なによりも旅行に行った思い出に大好きな自宅で浸れるのは私にとってとても贅沢な時間だ。だから私はきっとこれからも旅行先で本屋とパン屋。「本とかたいパン」と一緒に旅行をすると思う。

広島。

広島。

profile

Lee Izumida  リー イズミダ

絵描き。1986年、北海道生まれ。幼少期から絵を描き始める。アメリカ留学時に絵を学ぶ。2015年より東京に拠点を移し、2019年より本格的に絵描きとしての活動をスタート。アクリル画の作品を中心に、看板や宣伝美術、ウィンドウに用いられる絵や文字を描いている。

instagram:@izumidalee

Web:Lee Izumida

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Lee Izumida

リー イズミダ