いよいよ、彼女の番が来た。これまでにもさまざまな映画に出演してきた女優のエリザベス・デビッキが、『TENET テネット』で、ついに世界的スターとなったのだ。

 先月末にヨーロッパ、今月頭にアメリカで公開され(ただし、アメリカでは現時点で映画館の経営が許される都市が限られている。L.A.やニューヨークではまだ不可)、この週末に日本にもやってきたこの映画は、クリストファー・ノーランの最新作というだけでなく、新型コロナが世界を襲って以来初めてのハリウッド超大作ということで、大きな話題を呼んだ。出演は、ジョン・デビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、マイケル・ケイン、ケネス・ブラナーなど、超豪華。その中で紅一点的存在なのが、身長191cmの彼女だ。彼女の役柄は、ケネス演じるアンドレイ・セイラーの妻キャット。

 エリザベスは、1990年生まれの30歳。父はポーランド人、母はオーストラリア人。ふたりともバレリーナで、エリザベスも幼い頃から故郷メルボルンでバレエを習った。2011年、オーストラリア映画でスクリーンデビュー。2013年には、オーストラリアで撮影されたバズ・ラーマン監督の『華麗なるギャツビー』でジョーダン・ベイカーを演じ、ハリウッド映画進出を果たす。この役ではオーストラリアのアカデミーから最優秀助演女優賞を授与された。

 その後も『コードネームU.N.C.L.E.』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』『ブレス あの波の向こうへ』などに出演。そして、2018年の『Widows(原題)』(日本未公開)で、全米の数々の都市の批評家賞から、助演女優部門にノミネートされる。『それでも夜は明ける』のスティーブ・マックイーンが監督し、『ゴーン・ガール』のギリアン・フリンが脚本を書いた今作の主人公は、罪を犯して死んだ男たちの妻たち。何のつながりもなかった彼女らは、夫らが残した負債を償うことを強いられて、協力しあうことになる。

 ヴァイオラ・デイヴィス、ミシェル・ロドリゲス、シンシア・エリヴォなどがそろうこの映画で、エリザベスは、紅一点ならぬ白一点。一番「使えない」白人の若い女性アリスは、ダークな犯罪ドラマである今作にユーモアも添える。「それは現場での私と同じだったわ」と、当時、エリザベスは笑いながら語っている。映画には、ジャッキー・ウィーヴァー演じる母とのドラマチックなシーンもあるのだが、それについても、『あれは全部ジャッキーのおかげ。あそこには悲劇と喜劇が混在していて、とても複雑。彼女は本当にすごいものを持ち込んでくれる、伝説の女優。私がずっと尊敬してきた人なのよ』と、あくまで相手を立てた。

 そのジャッキーもまた、オーストラリアの出身だ。人口が約2500万のオーストラリアは、昔から数々の才能をハリウッドに送り込んできている。彼女と同世代の女優にかぎっても、マーゴット・ロビー、ミア・ワシコウスカ、テリーサ・パーマーなどがいる。

 「ハリウッドから遠く離れているからかも。それが逆に好奇心をそそるのかもしれないわ。オーストラリアには自分らしくあるよう奨励する文化があるし、それも良いのかも。何より、ニコール・キッドマンのような女優が道を切り開いてくれたのが大きいわね。私たちはそこに乗っからせてもらえたのよ」。

 次回作は、昨年のヴェネツィア映画祭とトロント映画祭で上映された『The Burnt Orange Heresy(原題)』。『ザ・スクエア 思いやりの領域』のクレス・バングと共演する、アートをめぐるセクシーな犯罪スリラーだ。うれしいことに、日本での配給も決まっている。さらに、Netflixのドラマ『ザ・クラウン』のファイナルとなるシーズン5と6で、ダイアナ妃を演じることも発表された。まさにエリザベスの美ぼうと存在感が堪能できる役となるだろう。それまで待てないファンは、『TENET テネット』をまた見直しつつ、難解な物語と彼女の魅力の理解に努めるのはいかがだろうか。(文・猿渡由紀)

 映画『TENET テネット』は公開中。