2時間ドラマの結末の舞台として 「崖」が定番と化したのはいつから?

 一冊の本が、ここのところマニアックなTVウォッチャーの間で話題を呼んでいる。その名は『2時間ドラマ 40年の軌跡』(東京ニュース通信社)。「土曜ワイド劇場」「火曜サスペンス劇場」をはじめとする2時間ドラマの歴史を、制作現場のスタッフによる証言や各局の内部資料などを用いて見事に掘り下げた快著だ。

 電通、NHKなどを経て現在は阪南大学教授を務める著者の大野茂氏と語り合うのは、2時間ドラマファンを自負するライター・評論家の速水健朗氏。さあ、「土ワイ」や「火サス」のディープな世界へようこそ!


▼talk01

米国製テレビ映画の真似から始まった


大野茂氏(左)と速水健朗氏(右)は、この対談が初の顔合わせとなった。が、意気投合し、予定の時間を超過しても会話は盛り上がり続けた。

速水 今日は2時間ドラマのことをたっぷりお伺いしたいと思います。

大野 よろしくおねがいします。

速水 今では高齢者向けだと思われている2時間ドラマですけど、かつては違いましたよね。

大野 速水さん、何年生まれです?

速水 1973年です。

大野 「土曜ワイド劇場」(テレビ朝日系)の放送開始が1977年ですから、速水さん世代が物心ついた頃に2時間ドラマが新しく登場してきて、そこから全盛期へという感じだったはずです。

速水 なるほど。


2時間ドラマウォッチャー垂涎の貴重な資料を次々と繰り出し、番組制作の裏側を語る大野氏。

大野 2時間ドラマは、アメリカのテレビ映画を日本でも真似して作ろうと始まったんですね。当時は、民放各局に映画の放送枠がたくさんあって、作品の取り合いをしていました。アメリカの映画だけじゃ足りなくなり、香港なんかからも買い付けるんだけど、それでも足りない。で、困ったな、といった時に目をつけたのが、テレフィーチャーと呼ばれるアメリカのテレビ映画でした。ハリウッドの斜陽期にスタジオが空いているっていうので2時間のテレビドラマがつくられるようになったんです。

速水 それを買い付けたと。

「時間またぎ」も米国発祥だった


若き日のスティーヴン・スピルバーグがアメリカにおいてテレビ映画という前提で監督した『激突!』は、日本とヨーロッパでは劇場公開された。

速水 スピルバーグも最初はテレビ映画だって言われますよね。

大野 デビュー作の『激突!』(71年)の制作経緯はそうです。ただ、日本では劇場公開が先になったんです。

速水 そのテレビ映画を日本が真似して作り始めたんですか?

大野 まずはテレビ朝日(当時は「日本教育テレビ」)の担当者が目をつけて買ったんです。テレビ映画だと、劇場映画と違って放送枠に合わせて作るので、CMのタイミングとか、尺もきちっとそのまま収まるメリットもあって。

速水 そっか、映画みたいに切らないでよかったんですね。

大野 新聞のテレビ欄に合わせて、タイトルが長かったりするのもテレフィーチャーならではですね。

速水 「嫉妬の末に駆け抜ける殺意。フロリダ半島をローカル線で巡る〜」みたいな?

大野 そのままではないですけど、そんなです。あと「時間またぎ」(21時からの2時間ドラマであれば、22時になる直前に新しい事件を起こしたり、お色気シーンを挿入するなどして、視聴者がチャンネルを変えるタイミングを失わせるテレビ局の戦略のこと)も向こう発祥で。

速水 視聴率対策もばっちりだったのか。でも、アメリカのテレフィーチャーはさすがに日本みたいな時刻表トリックとかないですよね?

大野 そうですね。多かったのは、ハイジャックものですね。

速水 そうか『大空港』(70年)とかパニック映画ブームの時代ですね。

大野 実際にハイジャックが社会問題になっていたり。で、なぜいつも空港で事件が起きているのかっていうくらいに空港が出てきて。


エドワード・サイードは、78年に上梓した名著『オリエンタリズム』によってポストコロニアリズムの理論を確立した。写真=ロイター/共同

速水 アラブ系のハイジャック犯が出てくる映画ってたくさんありますけど、あれはイスラエル政府が金を出していたんだってパレスチナの批評家のエドワード・サイードが暴露してますね。チャック・ノリスは必ずイスラエル製のサブマシンガン、UZIでテロリストをやっつけてました。

大野 ロッド・サーリングという人物がいるんですけど、彼は人質や時限爆弾とかをうまくつかった脚本家です。彼が活躍したのがテレビドラマの世界で、基本はサスペンス。

速水 日本だとその舞台が鉄道になるのはおもしろいですね。

旅情サスペンスが流行った時代背景

大野 ちょうど時代的にも鉄道旅行が注目されていたんでしょう。『犬神家の一族』とか70年代に映画化された金田一耕助シリーズは、地方の田舎の殺人事件が題材じゃないですか。

速水 ミステリブームと地方ブームがあったから旅情サスペンスが流行った。

大野 同時代ですね。あと、1970年代はディスカバー・ジャパンの時代でもありました。「an・an」「non-no」といった女性向け雑誌が創刊されて、旅行の特集を組み始めた、「アンノン族」の時代。

速水 角川映画でいうと1980年代に入っても原田知世の『愛情物語』とかは国鉄の急行で北陸に行くというアンノン族の流れでしたね。そんな当時が国鉄の特急全盛期でしょう。

大野 国内を新幹線が縦断して、在来線と結びつくようになって国内旅行がスムーズにできるようになったんです。それと同時に映画やドラマが旅とタイアップされていく。

速水 80年代は新幹線が東北や新潟にも延びていきますね。

大野 あとこれからバブル経済に向かうという時代です。それと撮影機材も軽量化しました。ロケや撮影がフレキシブルにできるようになったんですね。

速水 80年代は国鉄のフルムーンパスという高齢者向けのキャンペーンがありましたよね。

大野 今にして思うと、さほど高齢者ではなかったんですけどね。足して88歳以上のカップル向けの割引乗車券なので。

速水 足して88歳だと中年か。フルムーンのキャンペーンCMの二谷英明、白川由美夫妻が探偵役の2時間ドラマもありましたよね。


二谷英明・白川由美夫妻。なお、2人の間に生まれた二谷友里恵は87年に郷ひろみと結婚し、二女を儲けるも98年に離婚したので、フルムーン夫婦になることはなかった。

大野 「フルムーン旅情ミステリー」(89〜93年)ですね。ドラマは、国鉄がJRになったあとに作られてます。CMの初代は上原謙&高峰三枝子のコンビで、次が二谷夫妻でした。ちなみに原作もあって、最初の2作までは内田康夫先生です。

速水 タイアップだったんですよね。2人で新幹線旅行に行っては、事件に巻き込まれるって、JRは大丈夫だったんでしょうか?(笑)

大野 でも殺人事件がNGになると2時間ドラマは成立しないですし。

「崖」のルーツは
松本清張にあらず?


松本清張『ゼロの焦点』の舞台となった、石川県の「ヤセの断崖」。海面からの高さは約55m。

速水 ちなみにミステリと観光ブームというつながりは、日本では松本清張の『ゼロの焦点』から始まってますね。女性が一人で北陸のローカル鉄道の旅をする話で、1961年に映画化されたのがきっかけで北陸に観光ブームが訪れる。『ゼロの焦点』は最後に崖の場面があるんですけど、これが2時間ドラマにつながる。

大野 ……という説があるじゃないですか。だけど実際に関係者に聞くとみんな違うって言うんですよ。少なくとも私がヒアリングした土ワイの初代の制作者たちは、「誰も『ゼロの焦点』なんか全然意識してなかったよ」って。

速水 そうなんですか!? それは衝撃です。

大野 初代の土ワイのチーフプロデューサーだった井塚英夫さんという人が、テレビはいろいろ殺人事件があっても、最後に「ああ、よかったよかった」で終わらなきゃいけないんだって、スタッフ全員集めて訓示したんですって。じゃあ最後大団円でみんな集まる終わり方にしようかって。

速水 舞台のカーテンコール代わりなんですね。

大野 最後は名所旧跡でバーンと終わるという意味もありますよね。でも実際に作品を見てみると、2時間ドラマに崖が定番として登場するのって90年代以降なんです。

速水 そうなのか!

大野 90年代になって2時間ドラマがパロディー的に語られ始めて、最後は崖というのがお約束として語られ始めたんだと思います。

速水 さらに90年代以降の2時間ドラマが、それをセルフパロディー的に取り入れていく。今となっては崖が出てこない2時間ドラマは、むしろ希少ですもんね。

大野 「混浴露天風呂連続殺人」シリーズに崖はあまり出てこなかったと思います。

速水 へー、思い込みは怖い。

talk02に続く (9/XX公開予定)


『2時間ドラマ 40年の軌跡』

著・大野 茂
発行 東京ニュース通信社
発売 徳間書店
1,500円+税

≫ この書籍を購入する(Amazonへリンク)


大野 茂(おおの しげる)

阪南大学教授(メディア・広告・キャラクター)。1965年東京生まれ。慶応義塾大卒。電通のラジオ・テレビ部門、スペースシャワーTV/スカパー! 出向、NHKディレクターを経て現職。著書に『サンデーとマガジン』(光文社新書)がある。


速水健朗(はやみず・けんろう)

ライター・評論家。1973年金沢市生まれ。TOKYO FM「速水健朗のクロノス・フライデー」などに出演中。近著に『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)、『東京β:更新され続ける都市の物語』(筑摩書房)など。

構成=速水健朗
撮影=深野未季
写真=文藝春秋


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