年齢も立場も違う4人
誰もが被害者で加害者の物語


小学館刊 1,700円

今月のオススメ本
『きみはだれかのどうでもいい人』

 4つの章は各章4人の女性に視点人物を変えながら、構成。無自覚に誰かを傷つけてしまう怖さだけではなく、大切な人さえ傷つけてしまう痛みも描いている。ニュースやSNSなどで加害者を見つけると、簡単に一斉糾弾するような空気に、もの申す作品でもある。

 現代日本の不寛容な社会の中で、女性として生きていくこととはどういうことかを、デビュー作から描き続けてきた伊藤朱里さん。最新刊は、『きみはだれかのどうでもいい人』というタイトルにもどきりとする。

「最初は『みんなだれかのどうでもいい人』としていたんです。でも、この小説で『誰もが被害者で加害者だ』と書く以上、誰かを傷つけるかもしれないことは覚悟していました。その責任は取ろうと、あえてきつい、指差すようなタイトルにしました」

 舞台は、県税事務所の納税部門。その徴収や総務などの仕事に就く女性たちを中心に、彼女たちが味わう理不尽や、率直な思い、吐き出せない本音などを綴っていく。

「公務員ってただ仕事を遂行しているだけで、一律に公権力として非難されるし、『しょせん公務員は』と簡単にくくられる。でもそのつらさを公にはできない。そんな声を上げにくい人のことも、働くことを通して書いてみたかったんです」

 第一章では、採用試験を首席で突破したほど有能な中沢環が、〈お客様〉と呼ばれる納税者たちから受けるストレスや、心の不調で仕事がのろい染川裕未や須藤深雪を疎ましく思う気持ちを押し隠してフォローするさまなどが描かれている。しかし、第二章で視点人物が染川に、第三章でパート歴の長い田邊陽子に、第四章でお局様的ポジションの堀主任に変わると、傷つけた側の言い分にも、傷つけられた側の言い訳にも、一理あると納得し、見えていた光景はくるくると変わっていく。

「一歩踏み込めば事情があることはわかるわけですが、その一歩が面倒くさいから、みな自分のことで精一杯だから、なかなか踏み込めない、踏み込もうとも思わない。でもそんなスタンスが、誰かを追い詰めてしまうのかもしれないと思うんです」

 本書では、フェミニズムやハラスメントをめぐるエピソードがリアリティーたっぷりに描かれ、もやもやすること必至。だが、それを救う言葉も刺さる言葉も無数に出てくる。

「私自身が女性としてフェミニズムやジェンダーを扱った小説にすごく救われてきました。それだけに、フェミニズムというある意味正しいはずの思想が、ある種の暴力になって、誰かを傷つけてしまうことが怖い。私も書きながら、正義の顔でエゴを満たそうとしないようにしなければと意識していました」

 実際、伊藤さんの視線はとてもフェアだ。だからこそ、この小説は広く読まれてほしいと願う。


伊藤朱里(いとうあかり)

1986年生まれ、静岡県出身。2015年、「変わらざる喜び」で第31回太宰治賞を受賞。同作を改題した『名前も呼べない』でデビュー。他の著書に『稽古とプラリネ』、『緑の花と赤い芝生』がある。

文=三浦天紗子