「血圧や血糖値を改善したい」「足が速くなりたい」「肌をきれいにしたい」……。人はそれぞれがなりたい自分を持っている。それを叶えるために、食と体の関係を解析して最適な食事を提案してくれる「AI食」にいま注目が集まっている。

ウェルナス「AI食」

幼少から高血圧に悩まされた経験が「AI食」開発につながるまで

 「そろそろ降圧剤を飲みましょうか」。17歳の青年は、医師からこんな言葉を投げかけられた。彼は遺伝的に血圧が高く、塩分摂取を制限していても、ひどい時で最高値160mmHg。幼い頃から高血圧に伴う睡眠障害も抱えていた。

 「薬にはまだ頼りたくない」。そう思って色々と調べてみると、信州大学農学部のある先生が、そばの実を発芽させたスプラウトを乳酸発酵させた漬物の降圧効果を確認したことを知った。たまたまその漬物を入手し、食べてみると、血圧が劇的に降下。その夜は熟睡することができた。

 その青年の名は小山正浩氏。「食べ物ひとつで体が変わる」と実感した小山氏は、信州大学農学部に進学して機能性食品の研究をスタート。そばスプラウトの漬物に含まれている降圧成分が、実はナスに大量に含まれていることを発見した。この発見を機に2017年に同大発のフード・ヘルステックベンチャーとして、機能性食品や個人に最適な「AI食」を開発する「ウェルナス」を起業した。ちなみに、そばスプラウトの漬物やナスの降圧効果をつきとめた信州大学学術研究院農学系 中村浩蔵准教授は共同創業者であり、AI食のコア技術発明者でもある。

 さて「個人に最適なAI食」とは具体的にどんなものなのか。小山氏に伺うと「『血圧や血糖値を下げたい』『肌をきれいにしたい』『筋肉をつけたい』『記憶力を高めたい』など、理想とする自己実現の形は人によって違います。その目標を食で叶えるために、体と食事の情報のデータを取り、それをAI解析することで栄養の個性を判断し、最適な食事を提案してくれるんです」。

 例えば目標を「高血圧改善」としよう。まずは3週間、その人の食事内容と、食事前後の血圧のデータを取る。これをAIが解析すると、食べ物に含まれる各栄養素が、その人にとって血圧の上昇因子なのか、下降因子なのかが分かる。「血圧を下げるには塩を控えろとよく聞きますよね? しかし実際の解析結果を見てみると、塩をとると血圧が下がる人がいたり、一般的に積極的に摂取すべきと言われるビタミンCをとると血圧が上がる人もいました。人により血圧に影響を与える栄養素は違う。つまり栄養にも個性があるんですね」。こうした解析結果をもとに、さらに細かく「血圧を10mmHg下げる」という目標を立てると、シシャモをいつもより1匹増やしたり、白米を20g減らしたりなど、その人が食べ慣れたメニューに落とし込んだ無理のない提案をしてくれる。

来年には給食への導入を目指す実用化はすぐそこまで来ている

 「すでにAI食の技術的な面は確立されていて、実用化はすぐそこまで来ています」と小山氏。まずは来年中に施設給食への導入を目指す。ちなみに今年10月17日に開催されたフードテックグランプリ(リバネス主催)では、ウェルナスが見事、最優秀賞を勝ち取った。いまフードテック界隈では、ニュートリション分野のパーソナライズ化に熱い視線が注がれていることが示された。

text 笹木菜々子

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。