貴ノ花初優勝(中編)

貴ノ花初優勝(中編)

 けいこ場の隅のストーブにあたりながら、おとなしくけいこ見物していたのだが、貴ノ花の付け人がつかつかと歩み寄って、小生を追い出したのだ。一瞬なんのこっちゃ、と途方にくれたが、小生がガムを噛んでいたのを目ざとく貴ノ花が見つけたらしい。人が懸命にけいこに取り組んでいるのに、ガムを噛みながら見物なんて失礼じゃないか、ということだったらしい。(当時の小生は、常時吐き気を催して、ガムでそれを抑えていたごく個人的な事情もあったのだが…)

 北の湖といい、貴ノ花といい、けいこ場の見物にも要求する厳しさから、相撲に取り組む姿勢の一端が垣間みられた。

 その2人が春本場所で千秋楽でまみえ、そして優勝決定戦までもつれこんだ。小生はその時、審判委員室で貴ノ花の歳の離れた兄・二子山親方(元横綱若乃花)を密着取材していた。当時、審判部副部長の実兄が弟の大一番をどう見、どう語るか…という狙いだ。不思議と他社の記者はだれも来ていなかった。

 そして、長い相撲の末、貴ノ花が北の湖を寄り切った。館内に歓喜の座布団が舞う中、片隅の審判委員室で二子山親方はテレビの前でただ一言「よくやった」。

 史上初の兄弟優勝という、大相撲の歴史を飾る瞬間である。なにかもっとあってしかるべき。なお、感慨を迫る小生に、二子山親方からかえった答えは「協会は協会で相撲をやっている。好きなように書いてくれ」−。

 唖然。呆然。ひっくりかえりそうになった。相撲を担当してまだ、日が浅く“顔じゃない”ということなのだろうか。けいこ場で追い出されたことの比じゃない。“歓び”とはあまりに落差のある一言になんとも言い知れぬ気分を味わった。※(後編)に続く



【1970年代】貴ノ花

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