「ダメだって」王は珍しく怒っていた(中編)

 翌朝、1面に大きく「王、三冠王宣言」という見出しが躍った。ただ…やはり後味が悪かった。その夜、罪悪感で寝付きが悪かった。

 広島遠征の取材はもう一人の担当記者に任せて、翌日、私は東京・上野の会社で内勤をしていた。ラジオ関東(現ラジオニッポン)のナイター中継に耳を傾けていた。

 そのときである。興奮したアナウンサーの声がスピーカーから流れた。「あの王が珍しく、三冠王宣言をしました。今年は三冠を獲ります、と」。

 ポケットからハンカチを取り出した私はトイレに駆け込んだ。涙が止まらなかった。ワンちゃん…。きっと広島に着いてから、デイリーが一面で書いたことを知り、アナウンサーの取材にそう答えてくれたんだ。

 後日、現場にいた他紙の記者から聞いた。確かに王は「チャンスがあれば狙うよ」とはっきり答えたらしい。

 遠征から帰ってきた王にお礼を言った。すると王は「何の事?」と言って笑った。結局、首位打者はデッドヒートの末、江藤に譲り二冠に終わった。実際に三冠を獲ったのは、それから8年後の73年のことである。

  ◇  ◇

 1966年1月5日。私は王邸にいた。王と兄・鉄城、それにライバルH紙の巨人番と私の4人で麻雀卓を囲んでいた。会社には王取材とかこつけ、実は取材はそっちのけで、麻雀に集中していた。その最中、王が重大なことのヒントとなる言葉をポツリと漏らした。

 「今度オレ、ただの女中を連れてくる」

 王のその言葉を右から左へ流してしまった。なぜ流してしまったか今でも分からない。きっと麻雀に夢中になり過ぎたのか。不幸中の幸いがライバル紙の記者もピンと来ていなかったことだ。だが、その後、強烈な後悔の念に襲われるとはこのときは思ってもいなかった。※(後編)に続く



【1960年代】


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