「辰吉三代物語43」2人の子、親の気持ち

「辰吉三代物語43」2人の子、親の気持ち

 【辰吉三代物語43】

 兄の寿希也と弟の寿以輝。丈一郎の2人の息子は父の性格をそれぞれ受け継いだようだ。るみは「寿希也は超マイペースで空気を読まないところが丈ちゃんにそっくり。寿以輝はやると決めたところは絶対にやるところが似てる」と言う。「ただ家族に何かあった時にはやっぱり長男」と寿希也が頼りだ。

 父の栄光も挫折もすべてリングサイドで見てきた寿希也は、高校に行かずにプロボクサーになる道を選んだ。しかし、プロテストを受けることはなかった。20歳を過ぎた頃、道をあきらめることを丈一郎に告げた。

 息子は泣いていた。理由は言わなかった。丈一郎は「本人にしかわからん」と振り返るが、こう解釈した。「何年かやって向いていないことがわかった。涙は自分への悔しさや歯がゆさやったと思う」

 いつしか家族を守る存在になった心優しい長男だ。父を落胆させたくない。それがボクシングを続けた理由ではなかったか。

 丈一郎は否定も肯定もしない。ただ「ボクシングは厳しい競技。絶対に自分のためにしかできない。オレのため、親のためなんて絶対にできない。誰かのためなんてボクシングへの侮辱」と言うだけだ。それを誰より理解していたのは寿希也だろう。

 兄と入れ替わるように、寿以輝もプロへの道を歩み始めた。父と同じ16歳で大阪帝拳に本格的に入門した。この時体重は85キロ。入門の条件として会長の吉井寛が半年で20キロの減量を命じたのは理由があった。

 「親孝行の延長でボクシングをするのではないと確認したかった。見えない呪縛がないかと」。寿以輝は条件をクリアし、2014年11月にプロテストに合格。昨年4月のデビュー戦から3連勝(2KO)を飾っている。

 父のボクサーとしての生きざまを間近で見てきた寿希也と違い、寿以輝にとって丈一郎は普通の「父ちゃん」でしかない。「辰吉ジュニア」という重圧も一見無縁に見える。好きなボクサーが「サラゴサ」だというのは、動画で見た壮絶な流血戦で父の相手が「かっこよかった」からだ。

 インターネットで自分の悪口を見つけても「母ちゃん、これ見て」とおもしろがってるみに見せに来る。KOできずに泣く負けん気の強さと同様に、人の評価を気にしない肝っ玉も父譲りだ。

 ジムに預けている限り、丈一郎は技術指導をほとんどしない。試合もただ静かにリング下から見上げている。その時、あらためて思うのは父粂二の気持ちだ。「自分の息子が殴り合いしてるのを見てうれしい親はおらん。ケガせんか、それだけ」。ボクサーとしてより親の気持ちが先に立つ。胸の痛みを粂二に重ね合わせると、もっと親孝行したかったと思う。=敬称略=

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