木造船で脱北を試みた北朝鮮一家4人、あえなく捕まる

木造船で脱北を試みた北朝鮮一家4人、あえなく捕まる

北朝鮮の東海岸から木造船に乗って脱北を試みた一家4人が逮捕される事件が起きた。

デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた事件のあらましは次のようなものだ。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)洪原(ホンウォン)水産事業所に所属する40代のチャンさんは、妻のハンさん、10代の子ども2人と4人で暮らしてきた。

洪原は、新浦(シンポ)、清津(チョンジン)などと並ぶ東海岸の規模の大きい漁港で、遠洋漁業を主とする漁船が多数配属されている。チャンさんも、命をかけた日本近海までの遠征に加わっていたかもしれない。それだけあって、海に詳しいチャンさんは、船に乗って町から逃げることを考えたようだ。

この一家は今月3日の夜11時ごろ、洪原水産所に横付けされていた木造船に乗り込み、暗闇に乗じて桟橋に向かって漕ぎ出た。周囲を見回し問題ないと判断した一家は、エンジンをかけて沖に出た。

ところが10分後、突然船が現れて停船を命じた。軍の沿岸警備隊だった。慌てたチャンさんは急遽、方向を回転させ逃げようとしたが、5分後に捕らえられ、おとなしく従うしかなかった。

逮捕された一家は、咸鏡南道保衛部(秘密警察)の集結所に勾留されており、当局は一家が脱北して韓国に向かおうとしていたものと見て、厳しい取り調べを行っている。同時に、韓国や中国に家族や親戚がいるのか、最近の思想動向や組織生活への参加度、近隣住民の評判などを含めて、調査を進めているというが、今のところ、詳しい背景はわかっていない模様だ。

ここから韓国の領土までは約170キロ離れているが、間宮海峡から朝鮮半島に沿って南下するリマン海流にうまく乗れば、韓国にたどり着けると目論んだのだろう。実際、北朝鮮の漁船が韓国の領海、領土に漂着した例は少なくない。

水産事業所の支配人と党委員長も連隊責任を取らされるだろうと見られている。

当局は、事件の存在が明るみに出ないように箝口令を敷いているが、一部の住民の間には知れ渡っている。事件を知った人の間からは非常に残念がる声が上がる一方で、こんな懸念の声も聞かれたという。

「密漁の取り締まりが厳しくなるだろう。われわれの生活がかかっている問題なのだが…」

一方、一家を逮捕した隊員に対して沿岸警備隊は、この事例を称賛する雰囲気だと情報筋は伝えた。

「部隊の参謀部、政治部、保衛部は報告を受け、迅速かつ正確な状況判断で怪しい違法な漁船を取り締まり、功績を挙げたと評価した」(情報筋)

また、毎晩の勤務開始7分前に行われる階級教養の時間に教養事業が行われ、「情勢に応じて、任された警備哨所の区域から違法な者を一人たりとも逃さないように、哨所を鉄の要塞のように守れ」との指示が出されている。

さらに、一家を逮捕したミン上級兵士とリ下級兵士に対する表彰を行う予定だ。平壌の国家保衛省も「彼らを有能な軍事、政治、保衛指揮官として立派に育てよ」と持ち上げるありさまだという。

浮かれ気分の沿岸警備隊だが、一般市民の反応は極めて冷ややかなものだ。

「(脱北して)何とかして生き抜こうとした一家の前途を断った彼ら(兵士2人)に対する当局の態度を見ると絶望感を感じる。事件のことが広く知れ渡れば、『擁軍愛民、以民為天は別の世界の言葉』だと批判の声があがるだろう」(情報筋)

「以民為天」とは「民を以って天と為す」、つまり人民を天のように大切にするという偉大な金日成主席の座右の銘で、元々は「王者以民為天、而民以食為天」(王は民を以って天と為す、民は食を以て天と為す)という漢書に出てくる言葉だ。

しかし、国は人民を大切にせず、人民は最高指導者のことより、商売やいかにして食べていくかという問題で頭がいっぱいだ。そういう意味で、後半のみがより現状に合っていると言えよう。


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