中国で拡大する新型コロナウイルスによる感染症「COVID−19」。北朝鮮は、ウイルスの国内流入を防ぐために、国境を封鎖する強硬策に出た。その影響で国内の物価が上昇傾向にある。

当局は、物資の不足による物価高を力で押さえつけようとしている。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)のデイリーNK内部情報筋は、今月6〜7日から、咸興市人民委員会(市役所)の商業管理所と市場管理所が「(新型コロナ)ウイルス事態で価格を上げてはならない」と指針を下し、市場での価格統制に乗り出した。

商業管理所と市場管理所の職員は、三一(サミル)、沙浦(サポ)、錦糸(クムサ)など市内の主要な市場を1日に2回ほど巡回し、価格を上げていないかチェックしている。摘発時に元の値段に戻さなければ、商売を禁止するとしている。

しかし、海千山千の商人がそれごときにへこたれるわけがない。2階建てになっている錦糸市場では、1階に取り締まり班が現れれれば、すぐに2階に連絡が行って、取り締まりに対応する。そして、職員が立ち去れば元通りの値段で販売する。

両江道(リャンガンド)でも、人民委員会が市場での価格統制に乗り出したと現地の情報筋が伝えたが、商人たちは取り締まり班が現れると、値札を以前のものに貼り替えてやり過ごすという。

また、売り惜しみも広がっている。恵山(ヘサン)では、5ヶ所の市場のみならず、路上で商売する人に対しても値上げの取り締まりが行われており、長期化するかもしれないと見た商人が、価格を下げるかわりに、販売をしないという対策を取っている。

価格統制に対して、市民の意見は割れている。

「伝染病で国内の雰囲気が落ち着かない中で、値上げをするのは間違い」という人がいる一方で、国内の締め付け強化の一環に過ぎないと冷笑している人もいる。

また、「2000年代初頭にいやというほど市場への統制を経験した人々にとって、今回の取り締まりは過去の市場統制を思い出させる逆効果もある」と情報筋は分析した。

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、国による配給システムが崩壊、国民に食糧や生活必需品を供給するのは国ではなく市場となった。そのような状況を嫌った金正日総書記は、度々市場に対する統制を強化しようとしたが、うまくいかなかった。

そこで2009年11月30日、旧紙幣を廃止し、通貨単位を100分の1に切り下げた上で、新紙幣に交換する貨幣改革を断行した。また、その10日後の12月9日、市場での工業製品の売買を禁止し、残りの販売価格についても上限価格を設定した。その2日後には市場での食糧の販売を禁止し、国から許可を得た収買商店で、国定価格の半分での販売を認めた。さらには翌年1月からは市場での商行為を全面的に禁止した。

しかし、中国との貿易が一時的にストップしたことで供給が途絶えたことに加え、極端に安い価格での販売を嫌がった商人の抵抗で、食糧難が広がった。新貨幣への交換上限額を上げ、市場での商行為を解禁したものの、すでに手遅れだった。

全財産を失う人が続出、国は大混乱に陥り、餓死者も出た。当時の金英日(キム・ヨンイル)総理は、平壌に全国の人民班(町内会)の班長を集めて、「事前準備も、事後の結果への考慮も十分に行わず、無理に進めたことで人民に大きな苦痛を与えたことを心からお詫びする」と謝罪した。

また金正日氏は、貨幣改革の責任者だった朴南基(パク・ナムギ)朝鮮労働党計画財政部長を銃殺にし、事態の収拾を図った。経済の主導権を国の手に取り戻そうとした金正日氏の計画は、大失敗に終わった。

金正恩党委員長はこのときの教訓からか、市場に対する強力な統制を行ってこなかった。しかし最近になって、国の予算確保を目的に市場に対する統制を強化しようという動きを強めている。