国際社会の制裁と新型コロナウイルスで八方塞がりの北朝鮮経済。商売を諦める商人が続出し、市場には閑古鳥が鳴いていると伝えられている。そんな状況下でも大儲けしている人はいる。

デイリーNKの内部情報筋は、中国と国境を接する平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シニジュ)で、商才に長けていると評判の女性の事例を紹介した。

この女性は4月初め、新義州から船に乗って川向うの中国の丹東に渡った。国境閉鎖で輸入できなくなった大豆油を取り寄せるために、中国の貿易業者に会うためだった。

北朝鮮当局は、新型コロナウイルス対策として1月末から国境封鎖、貿易停止措置を取り、密輸は非常に困難な状況になっている。一つ間違えば命を奪われかねない。

そんな状況なのに、女性はなぜ密輸に手を出したのか。答えは「大儲けできるから」だ。

北朝鮮の一般家庭で使用する大豆油はほとんどが中国製だ。国境封鎖、貿易停止で輸入されなくなったため、価格が高騰している。

デイリーNKの定期的な物価調査では、国境が閉鎖される直前の1月中旬には1キロで8900北朝鮮ウォン(約107円)だった大豆油が、今月中旬には1万8000北朝鮮ウォン(約216円)と2倍に高騰している。また、新義州と並ぶ貿易都市の両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)では、500グラムで2万北朝鮮ウォン(約240円)で取引されている。ちなみに中国のネットショップでは、安いもので12元(約183円)前後で売られているが、卸売価格はもっと安いだろう。

この女性は、主に中国と北朝鮮での価格差が大きい商品を密輸し、商才に長けていると噂されてきた。彼女がこんなチャンスを見逃すはずがない。資金をかき集め、中国で大量の大豆油を買い付け、北朝鮮に密輸することを考えた。

そして、計画は実行に移された。通常、鉄道のコンテナ車1両に60トンの大豆油が積載可能だが、女性はなんと17両も使ったのだという。すべてのコンテナに満載されたとすると、全部で1020トンに達する。

参考までに、中国糧油発展網によると2017年の中国人1人あたりの食用油年間消費量は、26.6キロ。1020トンは3万8345人分の年間消費量に相当する莫大な量だ。

大豆油の運び込みには成功した模様だが、女性は船に乗って北朝鮮に戻る過程で国境警備隊に摘発されてしまった。取り調べで、貿易会社の関係者など十数人の名前が共犯として浮上した。結局、この女性を含む数名は新義州から地方に追放される処分を受けた。

女性のその後について情報筋は言及していないが、金儲けのチャンスが転がっている都市部とは異なり、山奥の寒村では商売をしたところで自分の食い扶持を稼ぐのが精一杯であり、推して知るべしだ。

充分に過酷な処分と言えるが、市民の間からは「処分が軽すぎる」との声が上がっている。

実際、同じ新義州で貿易会社の保衛指導員(秘密警察)を勤めていた男性は、規則を破って中国人と接触したことで、銃殺されている。これと比較すると軽い処分で済まされた女性に対して、市民の間からは「国に多額のワイロを掴ませたのではないか」との見方が広がっている。