北朝鮮当局は未だに「わが国に新型コロナウイルスの感染者はいない」との姿勢を崩していないが、小中高大学の冬休みを延長する形で休校措置を取り、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)を保つ方針に違反した人を労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)送りにするなど、対応のレベルを上げている。

その最たるものは、命を救うために命を奪うという矛盾したものだ。北朝鮮当局のコロナ対策が、誰のためのものであるのか疑問を抱かざるを得ない。

当局はコロナ対策の一環として、新型コロナウイルスなどの感染症に対処するために中央と各道の人民病院に伝染病内科を設置せよとの指示を下したが、現場からは「現実を知らなすぎる」との強い不満の声が上がっている。

両江道(リャンガンド)の情報筋は「各道、中央級の病院に伝染病内科を新たに設置することについての金正恩党委員長の指示が4月8日に各道の人民委員会(道庁)の保健課に下された」と明らかにした。

指示文はまず、「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための防疫活動が様々な面において不十分だとの多くの批判」があると指摘した上で、「保健省と各道の人民委員会の保健課が責任を持って6月末までに立ち上げよ」としている。

それに先立って、6月初めまでに、伝染病内科の規模、装備、事務処理、治療方法、予防薬の開発のための研究方法を具体的に討議し、中央に報告せよとも指示している。

情報筋は「指示の内容は、伝染病内科は病院内部に設置する一つの専門治療室のレベルではなく、ウイルスの研究から治療薬の生産まで可能な防疫専門の研究機関を設置せよというものだ」と解説した。

しかし、今回の指示に対しては「現実をあまりにも知らない」との不満の声が続出している。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は「各道に結核課があり、結核患者に対応する第3予防院が別途存在する」とし「道、市、郡の人民病院には以前から感染内科があり、大規模な衛生防疫所や製薬工場もある」と現状を説明した。

そして「今ある保健施設も資金や設備の不足でまともに運営できていないのに、既存の施設を放置して大規模な伝染病内科を設置するのはカネと時間、そして貴重な医療技術者のヒューマンリソースの浪費だ。現実を全く知らないから、こんな情けない指示を乱発するのだ」と批判した。

そもそも、北朝鮮は平時から常に「医療崩壊」状態にあった。すべての医療が無料で受けられるという「無償医療制度」は既に名ばかりで、国営病院で医師の診察を受けるにはワイロが必要となり、診察を受けられたとしても医薬品が不足しているため、治療するには市場で薬品を買うしかない。

今年3月、両江道の国境警備隊で新型コロナウイルスの集団感染が発生したが、隔離された兵士が与えられたのは風邪薬だけで、成分を見ると、20世紀初頭から使われているようなごく一般的な鎮痛解熱剤に過ぎない。