中国では、著作権の切れた複製画の製造、販売が盛んに行われている。香港に隣接する広東省深センの大芬村は、複製画を描く「画工」と呼ばれる無名の画家たちが数多くいる。そのレベルは非常に高く、ヨーロッパ諸国からも業者が買い付けにやって来るほどだ。

そんな複製画ビジネスに北朝鮮も進出しているが、最近出展した作品の中には、北朝鮮では絶対に許されないものも含まれており、話題になっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

中国駐在の北朝鮮情報筋によると、先月平壌から派遣された若い画家たちが、大連に居住し、様々な絵を描いて中国人経営のギャラリーで展示、販売している。そのほとんどが、虎、馬、海など朝鮮的なモチーフの作品だ。

北朝鮮が外貨稼ぎの一環として美術作品を制作、販売するのは新しい話ではない。だが、最近になってギャラリーに登場した作品は「非常に新しい」ものだ。

その作品とは「最後の晩餐」だ。イエス・キリストが処刑される前日、12人の弟子とともに食事を取ったエピソードを指すが、これをモチーフにしたレオナルド・ダ・ヴィンチの作品は世界的に有名だ。北朝鮮の画家は、この複製画を描いてギャラリーに出品したのだ。

2メートル✕0.7メートルの作品で、価格は1万元(約21万5500円)だ。情報筋は、中国国内の韓国人教会に販売するために描かれたものだと説明した。

北朝鮮は、キリスト教に対して徹底的な弾圧を加えており、信者ではなくとも聖書を所持していただけで処刑された事例もあるほどだ。また、中国国内で韓国のキリスト教関係者と何らかの関わりを持ったことがバレれば重罪に問われる。

だが、決して会ってはならない人々に売るために、それもよりによって、キリストがイスカリオテのユダは裏切り者であることを示唆したり、ペトロが「鶏が鳴く前に私を三回知らないというだろう」とウソを付くことを予言するなど、主君への不忠が暴露される場を描いた作品が選ばれた理由は謎に包まれている。

北朝鮮の節操の無さはこれに留まらない。

ジャイアントパンダの福宝(フーバオ)の絵が丹東のギャラリーに展示され、客の視線を集めたと、別の情報筋が伝えたが、このパンダ、実は韓国生まれだ。

韓国にあるテーマパーク「エバーランド」において、2020年に自然繁殖で産まれたパンダで大人気となったが、契約に基づいて今年4月に中国に返還された。北朝鮮は、韓国を「傀儡」と呼び、その文化の流入を徹底的に遮断すべく必死になっているが、その一方で、丹東にやってきた韓国人観光客から外貨を得るために、韓国生まれのパンダの絵を販売しているのだ。作品1点1000元(約2万1500円)から1500元(約3万2300円)というお手頃価格だ。

上述のように、北朝鮮の画家は中国で作品を制作、展示販売していたが、白頭山などのありきたりな絵が多い上に、大量生産されているために、芸術品としての価値はないに等しい。

コロナ後に中国に派遣された画家たちは、どんな絵なら売れるのか考えた。その答えが「最後の晩餐」や韓国生まれのパンダだったというわけだ。画家は万寿台(マンスデ)創作社など絵画ビジネスを行う国の機関に属しており、当局の承認を得ずに無断で描いたというわけではないだろう。