豊稔池ダム(香川県観音寺市大野原町)は、阿讃山脈を分け入る柞田(くにた)川上流にある。毎年夏にはユル抜き(放流)が行われ、ごう音とともにほとばしる水しぶきは、夏の風物詩になっている。

 付近は昔から水の確保が大変で、大正時代には干ばつもあり、近代的なダムの必要性が高まった。1926年、工事がスタート。ひとつずつ石を重ねていく地道な作業が続き、3年8カ月の歳月を要して完成した。

 堤長128メートル、堤高30・4メートル。現存するダムでは、国内唯一の石積み式5連マルチプルアーチ構造を採用。アーチが5本連なる珍しい形になっている。

 豪雨時には洪水を安全に安全に排出するため、扶壁(ふへき)にサイフォンが仕込まれている。貯水位が満水近くになると、自然に放水される仕組みだ。随所に工事当時の斬新な設計を採用。機能はもちろん、建造物としても貴重で2006年、国の重要文化財に指定された。

 中世ヨーロッパの古城、山上の要塞を思わせる偉容。“ダムの傑作”は、人々の生活を潤し続ける。