テレビ業界の就職戦線に異変が起きている。来春入社組の就職希望先人気ランキングで、テレビ東京が初めてテレビ業界のトップに立ったのだ。NHKにも勝った。昭和期には他局から「番外地」とまで言われたテレ東だが、今や就活生たちの憧れなのである。

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 学生が就職したいテレビ局ナンバーワンの座をテレビ東京が獲得した。開局56年にして初の快挙だ。

 企業の採用などを支援する株式会社ワークス・ジャパンの調査(有効回答者計1万2504人)によると、2021年3月に大学と大学院を卒業・修了する学生の就職希望先人気ランキングで、上位100位以内に入ったテレビ局は2社。テレビ東京(51位)とNHK(61位)だった。

 まず1位から10位までを見てみたい。

1位 損害保険ジャパン
2位 東京海上日動火災保険
3位 三井住友海上火災保険
4位 伊藤忠商事
5位 日本航空
6位 日本生命保険
7位 三井不動産
8位 三菱地所
9位 全日本空輸
10位 資生堂

 上位は日本を代表するマンモス企業が中心。かつて花形産業と呼ばれたテレビ業界はここ数年で人気が急落した。2016年3月卒業・修了者を対象とした調査では、日本テレビ(32位)、テレビ朝日(47位)、NHK(70位)、TBS(71位)、フジテレビ(83位)と5社が100位以内に入っていたが、昨年はNHK(35位)以外、圏外だった。

 なぜ、テレビ業界の人気が落ちたかというと、説明するまでもなく、一番の理由はネットの台頭。電通の調べによると、2019年にネット界に投じられた広告費が前年比19・7%増の2兆1048億円。これに対し、テレビ界が得た広告費は2・7%減の1兆8612億円。初めてネットとテレビが逆転した。

 その中でテレ東が大健闘し、テレビ業界のトップに。昨年の圏外から急浮上した。各局の番組に携わる制作会社のプロデューサーは「昭和期に活躍したテレビマンたちは仰天するでしょうが、今の時代なら不思議ではありません」と語る。

 その理由をこう解説した。

「『家、ついて行ってイイですか?』や『ゴッドタン』など斬新なバラエテイーがあり、『きのう何食べた?』『レンタルなんもしない人』のような独創的なドラマも作っているからです。若者にとって魅力的な番組を制作していると、就活生たちは自分も同じような番組を作りたいと思うので、就職先人気は上がります」(同・制作会社のプロデューサー)

 振り返ると、若者向けのトレンディドラマが栄華を極めた1990年前後の就職先人気は、フジが断トツで上位だった。やはり番組は就職先人気ランキングに反映されるようだ。

 制作会社プロデューサーが名前を挙げたテレ東の番組は、世帯視聴率はそう高くないが、スポンサーが歓迎するT層(男女13歳〜19歳)やM1層(20歳〜34歳の男性)、M2層(35歳〜49歳の男性)、F1層(20歳〜34歳の女性)、F2層(35歳〜49歳の女性)の支持は厚い。

 日本経済新聞社系列のテレ東らしい経済番組も若者のウケは悪くないという。

「『ガイアの夜明け』や『ワールドビジネスサテライト』が若者の目にはカッコ良く映っているようです」(同・制作会社のプロデューサー)

 逆に、芸能ニュースからグルメ情報まで詰め込んだ他局の情報番組やニュースは、若者にとってはイケてないらしい

 「ゴッドタン」などを手掛けるテレ東の著名プロデューサー・佐久間宣行氏(44)の存在も大きいようだ。

「制作者の中にスターがいると、就活生たちは『自分もああなりたい』と思いますから」(同・制作会社のプロデューサー)

 佐久間氏はニッポン放送の深夜番組「オールナイトニッポン0(ZERO)」の水曜日のパーソナリティーも務めているほか、NHKの討論番組「あたらしいテレビ 徹底トーク2020」(5月10日放送)などにも出演。局の垣根を越えて活躍している。確かにスターだ。憧れる就活生は少なくないだろう。

 他局のスター制作者はというと、定年を迎えて退職したり、役員になったり。大半が現場を離れてしまった。今は佐久間氏の存在が突出している。

 とはいえ、ここまでは全てイメージの話。番組や制作者に魅力があるというだけ。肝心の待遇はどうなのだろう?

 持ち株会社のテレビ東京ホールディングスのデータを見てみると、年収は平均1410万円(平均年齢47・6歳)。一方、テレビ業界のリーディングカンパニーである日本テレビホールディングスの年収は平均1372万円(平均年齢48.8歳)。組織の仕組みや手当てなどが違うとはいえ、テレ東の収入が他局と遜色ないのは間違いない。

 ちなみにNHKは35歳のモデル賃金が665万円(2019年度)。40歳前後で昇進する課長クラスで913・6万円(同)となっている。

 次に制作費はどうか。かつてテレ東の制作費は他局の7掛け(7割)と言われ、現場は苦労を強いられていると言われたが…。

「今は他局との違いがほとんどなくなっています。テレ東が増えたんじゃなくて、他局が削ったから(笑)。ただし、テレ東は低予算に慣れているので、金を使わずに面白い番組を作る術がありますが、それに慣れていないフジなどの制作者は苦労しています」(同・制作会社のプロデューサー)

 局内の雰囲気はどうだろう。

「これは微妙。10年ほど前までは明るく開放的で、若手女性アナウンサーすら酒席で『どうせウチはテレ東ですから』などと自虐ジョークを口にしていましたが、最近は他局と同じく、エリート意識が強くなりつつあるようにも見えます」(同・制作会社のプロデューサー)

 就職を考える場合、業績も無視できない。各局の2019年度の各局の放送収入(テレビ局単体)は次の通り。

●日本テレビ=約3072億円
●TBS=約2103億円
●フジテレビ=約2555億円。
●テレビ朝日=約2264億円
●テレビ東京=約1113億円

 各局の2019年度の世帯視聴率はこうだ。全日帯(午前6時から翌午前0時)、ゴールデン帯(午後7時〜同10時)、プライム帯(午後7時〜同11時)の順に並べた。

●日本テレビ=7・9% 11・2% 11・6%
●TBS=6・0% 9・1% 9・1%
●フジ=5・7% 8・0% 8・3%
●テレ朝=7・7% 11・0% 10・8%
●テレ東=2・6% 5・5% 6・0%

 テレ東の売上高は他局の半分以下、世帯視聴率も最下位だが、制作費のかかる朝や午後のワイドショーをやらないことなどを考えると、効率は悪くない。社員数も日テレの約1300人に対し、テレ東は約800人。500人も少ない。

 「妖怪ウォッチJam『妖怪学園Y 〜Nとの遭遇〜』」など豊富なアニメが、ライツ(2次使用に関する権利)を生み、それが売上げに貢献しているのもテレ東の強み。ライツ事業の収入は2019年度に初めて300億円を超え、粗利益もまた初の100億円超えを達成した。

 就活生たちがテレ東を希望するのには理由があった。ますます優秀な人材が集まり、テレ東の黄金時代が来るのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月4日 掲載