昨年、大戸屋ホールディングスの株式を取得して筆頭株主となり、業務提携などの株主提案を行ってきたコロワイド。6月末の大戸屋の株主総会で提案は否決、コロワイドには19・1%の大戸屋株が残る。進むも退くも地獄の道のりが見えると指摘するのが会計士界のレジェンド、細野祐二氏である。一方で、大戸屋の株も6月26日から7月3日までの間に、20%以上下落している。今後についてレジェンドが綴る“予言”――。

 6月25日木曜日、定食店「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋ホールディングスの株主総会が開催され、コロワイドの株主提案は否決された。コロワイドは、2019年10月1日、大戸屋の創業家より大戸屋株を取得して筆頭株主となり、その後、2020年4月14日付で、コロワイド側取締役の選任と業務提携を株主提案していたのである。

 この株主総会を巡っては、コロワイド側が2万4000名をこえる大戸屋株主宛にアンケートを行い、一方、大戸屋経営陣は、従業員やフランチャイズ加盟店の動員、並びに、個人株主への電話攻勢を行うなど、熾烈なプロキシーファイトが展開されていた。コロワイド側アンケート調査によれば、コロワイドの株主提案に対して有効回答数1万8891名の9割を超える賛同が得られたとのことである。しかし、蓋を開けてみれば、コロワイドの株主提案に対する株主総会での賛成は3割強に過ぎなかった。ということは、大戸屋の個人株主の76%(=アンケート賛成90%−株主総会個人株主否決14%)は、コロワイドには株主提案に賛成と回答しながら、株主総会では反対の議決権を行使したことになる。

 コロワイドが大戸屋の個人株主に対するアンケート調査を行ったのは3月23日から4月13日までの約20日間である。大戸屋の株主総会は、コロワイドのアンケートから2カ月以上経った6月25日のことである。大戸屋個人株主の合理的投資行動を前提とすれば、この2カ月超の間に、コロワイド側株主提案を逆転させる何事かが起きたに違いなく、それは5月22日に公表されたコロワイドの決算短信しかありえない。

 コロワイドが5月22日に公表した2020年3月期決算短信は、連結売上収益が、事前の公表予想値2580億円に対して2353億円と8・8%の減収、連結株主帰属当期利益は、事前の公表予想値25億円の黒字に対してマイナス64億円で過去最大の赤字と、壊滅的な減収減益決算となった。この赤字決算は、コロナウイルス拡散に関する減損損失を主たる原因とされている。しかし、コロナウイルスによる業績への深刻な打撃は外食産業ではどこも同じことで、この中で、大戸屋の個人株主は、5月22日以前のコロワイドの業績予測を前提としてアンケートに答えている。ならば、大戸屋の個人株主は、「さすがは東証1部上場のコロワイドは違う」とばかりに、コロワイドの株主提案を大戸屋に対する救済提案と捉えたのではないか? しかし、決算短信により、コロワイドの財務内容は大戸屋以上に悪いことがバレてしまった。ならば、コロワイドなどという強面のする経営ではなく、気心知れた現経営陣の方が良い。大戸屋の株主総会におけるコロワイド側株主提案逆転否決の背景は、共に難ある経営間の劣後選択ではなかったか?

一大飲食コンツェルンと「のれん」

 コロワイドは、1963年、神奈川県逗子市に「甘太郎食堂」を開業し、1977年、二代目となる蔵人金男氏がこれを居酒屋「甘太郎」として大繁盛させた。その後、1999年ジャスダック上場、2000年東証2部上場、2002年東証1部指定替えと、順調に資本市場の階段を駆け上がってきた。

 コロワイドは、東証1部指定替えの頃より、郷土料理居酒屋「北海道」、焼き肉店「牛角」、ステーキの「宮」、回転すしの「かっぱ寿司」、ハンバーガーの「フレッシュネスバーガー」などの運営会社を次々と買収することにより業容を拡大した。コロワイドによる企業買収は、東証2部上場のアトム及びジャスダック上場のカッパ・クリエイトを含み都合17回に及ぶ。M&Aはコロワイドの成長戦略そのものなのである。現在のコロワイドは、(フランチャイズを含む)総店舗数2665店を傘下に擁する一大飲食コンツェルンとなっている。

 コロワイドの2020年3月期末の連結財政状態計算書には、企業買収による「のれん」718億円をはじめとして、無形資産61億円、繰延税金資産124億円といった巨額の疑似資産が計上されており、その総額は903億円に上る。これに対して、同期末の連結株主持分資本は250億円に過ぎない。

 コロワイドは国際会計基準を採用している。国際会計基準では「のれん」の定期償却は必要がなく、これに代えて、「のれん」の減損テストが行われる。そもそも、「のれん」とは、買収価額が被買収企業の純資産額を超える差額であり、この買収差額は一般に買収プレミアムと言われている。企業会計は、買収プレミアムの本質を超過収益力とみなし、当該買収差額に超過収益力が認められる場合に限り「のれん」の資産計上を認めている。減損テストとは、毎決算期末における超過収益力の確認テストなのである。

超過収益性を持つというのは詭弁

 有価証券報告書において開示された2020年3月期のセグメント別損益に基づき、各セグメントの「のれん」の(実効税率30・58%を考慮した)投下資本利益率を求めると、アトムとレインズは投下資本利益率がマイナスで、カッパ・クリエイトが1・4%(=414百万円÷20,887百万円×69・42%)と計算される。すなわち、2020年3月期においては、すべてのセグメントにおいて、「のれん」の超過収益力(=日本の上場会社ROE平均8%を超える収益力)は認定できない。そこで、コロナ禍の影響のない2019年3月期のセグメント別損益に基づき、各セグメントの「のれん」の投下資本利益率を再計算すると、アトムが11・2%、レインズが3・2%となり、カッパ・クリエイトはマイナスとなる。
 どのような計算を行おうが、レインズとカッパ・クリエイトについては「のれん」の超過収益性を認めることができない。両セグメントの「のれん」は合計677億円(=46,782百万円+20,887百万円)となり、この金額は、2020年3月期末の連結株主持分資本250億円をはるかに上回る。すなわち、コロワイドは、2020年3月期末において最低427億円(250億円−677億円)の連結債務超過状態にあるという結論を得る。

 会社は、各事業の事業計画に基づく将来収益の現在価値計算により減損テストを行っており、その事業計画は楽観的なものに決まっているので、「のれん」の減損が認識されることはない。しかし、たとえどのような事業計画を持ち出そうが、カッパ・クリエイトの事業が超過収益性を持つというのは詭弁に過ぎず、また、レインズの事業は「のれん」の絶対額が大きすぎ、そこでの「のれん」に資産性を認めることはできない。コロワイドの2020年3月期決算監査において、あずさ監査法人はそう言ったに違いなく、これに対してコロワイドは、コロナ禍での減損会計厳格適用緩和要請を盾に強く抵抗したことであろう。

 結局、あずさ監査法人は会社側主張を受け入れて2020年3月期決算に適正意見を出したが、この結果、コロワイドの会計監査人は、2020年3月期決算の終了をもって、あずさ監査法人から監査法人トーマツに変更されることになった。監査法人トーマツは、期ぜずして連結監査報酬332百万円の監査利権を得たが、同時に、一発債務超過となる巨額「のれん」の減損リスクを背負い込むこととなった。

残された大戸屋株19.1%の処分問題

 このような中で、プロキシーファイトに敗れた大戸屋株19・1%がコロワイドに残された。コロワイドは大戸屋株の138万株(19・1%)を3,084百万円で取得しており、一株当たりの取得単価は2,235円となる。これに対して大戸屋株の2020年3月期末の株価は1,900円である。コロワイドは、2020年3月期決算において463百万円(=(1,900円−2,235円)×1,382,600株)の有価証券評価損を計上している。そこで、2021年3月期における大戸屋株の処分が問題となる。

 大戸屋の2020年3月期決算は、連結売上高が246億円、営業損益がマイナス6億円の赤字、株主帰属当期純損益がマイナス11億円の赤字と、こちらも惨憺たる赤字決算で、一株当たり純資産額は前事業年度末の633円から452円まで激減してしまった。それにもかかわらず、大戸屋の株価は2,200円の高値に張り付いたまま下がらない。コロワイドによる大戸屋の株式公開買付(TOB)が強く意識されているのである。

 コロワイドが大戸屋にTOBをかけて過半数の株式を取得するためには、最低49億円(=(発行済株式7,246,800株×50%−既取得1,382,600株)×株価@2,200円)の資金がいる。コロワイドは2020年3月期末現在440億円の借入枠を確保しているので、資金は何とかなるとしても、この結果コロワイドは、超過収益力どころか収益性そのものがない63億円(=(発行済株式7,246,800株×株価@2,200円−純資産額3,347百万円)×50%)の「のれん」を抱え込むことになる。コロワイドの実質債務超過はさらに膨らむ。

 だからということで、コロワイドが大戸屋買収を断念すれば、TOB期待のはげ落ちた大戸屋株は一株当たり純資産額に向かって暴落しかねない。コロワイドは最大20億円(=(@1,900円−@453円)×1,382,600株)の投資有価証券評価損の計上を迫られるのである。大戸屋株のプロキシーファイトに敗れたコロワイドには、前門の虎と後門の狼が待ち構えている。

細野祐二(ほそのゆうじ)
1953年生まれ。「会計士界のレジェンド」と称される会計評論家。財務諸表危険度分析プログラム「フロードシューター」を開発。フロードシューターの分析通り、ライザップは業績見通し下方修正を行ない、ソフトバンクグループの携帯子会社ソフトバンクの新規上場も、初値公募価格割れとなる事態となった。複式簿記研究会を主宰。年会費は1万円。http://yuji-hosono.com/

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月6日 掲載