いつの時代にも頭から離れなってしまうCMがある。そのCMが好きだろうが、嫌いだろうが。今の時代なら「しじみ習慣」もその一つに違いない。♪しじみしゅうか〜んーーという昭和風の男性コーラスが耳にこびりつく。「しじみチャンス!!」という言葉に好奇心がくすぐられる。このCMを深掘りしたい。

「しじみ習慣」のCMについて話を聞こうと、発売元の「自然食研」(大分県豊後高田市)に電話で取材を申込んだところ、広報担当者から返って来た答えは「弊社は、取材はすべてお断りしています」

 CMでは男声コーラスが視聴者に♪お待ちしてます〜――と呼び掛けるが、取材は待っていないのだ。残念。

 そこで、公開データなどを基に「しじみ習慣」とそのCMの“謎”に迫りたい。

 そもそも「しじみ習慣」とは何かというと、しじみを丸ごと煮出して抽出したエキスをソフトカプセルに詰めた健康食品。使われているのは台湾産の黄金しじみ。栄養素が豊富ということで、ほかの日本の食品メーカーも使っている。

 含有されている栄養素はアミノ酸、必須アミノ酸、ビタミンなどが29種類以上。「ビタミンB群の中でも、ビタミンB2や、赤いビタミンと呼ばれているB12が含まれています。そして、女性に不足しがちと言われるカルシウム等も含まれています」(商品ホームページより)。

 薬と違い、健康食品なので、効能などは謳っていない。食品やサプリメントは法の定め(「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」=薬機法、旧薬事法)により、医薬品と誤認されるような効能効果を表示・広告することができないからだ。

 なので、CMでもグッタリしたサラリーマンに同僚が「しじみ習慣」を勧めるものの、どんな効果があるのかは決して口にしない。間違っても「これを飲むと、二日酔いしません」などとは言わない。

 ほかのバージョンも同じ。せいぜい、酒を飲んだ翌日のサラリーマンが、「(飲むと)凄いですね。早い時間からシャキッとして。ずいぶん違いますね」と語る程度。もちろん、「個人の感想であり、効果・効能を表すものではありません」というお約束のテロップも出る。

 それが視聴者にはもどかしくもあり、「何にどう効くのかはっきりしてほしい」という人もいるようだが、薬機法があるから仕方がない。

 サントリーのサプリメント「セサミンEX」のCMに登場する加山雄三(81)たちも「セサミンを体に入れると、やってやるぞって気持ちになる」などと漠然としたことしか口にしない。これも薬機法があるから。ちなみに健康食品もサプリメントも法的な定義はなく、広い意味で考えると、どちらも同じである。

「しじみ習慣」のCMは「売り上げナンバーワン」と高らかに謳っているのが気になっていた。「しじみ健康食品の市場調査なんてあるのか?」と思っていたが、これが調査されているのである。

 しじみ健康食品は複数のメーカーが発売中。その中で「しじみ習慣」が2011年1月〜19年11月まで売り上げトップなのである(TPCマーケティングリサーチ調べ)。また、聞いてもピンと来ないが、累計販売数は900万個を突破しているそうだ。

 次なる興味が「しじみチャンス!!」。2箱10日分(1箱10粒入り。1日の目安は2粒)を1世帯1回限り無料でプレゼントしてくれるという。1箱でないのがミソらしく、CMに出演する面々は一様に「2箱!」と驚く。そもそも、2箱無料にどれくらいの金銭的メリットがあるのか?
 答えは2箱で1300円相当なのだそうだ。CMの登場者たちが驚愕する表情が妥当なのか、それともオーバーなのか判断が分かれるところだろう。

 このCMの浸透度は相当高いと思われるものの、CMの放送回数はというと、そう多くない。地上波、BSともに3月、4月、5月の放送回数ベスト20に入っていない。ほかの健康食品会社にはベスト20に入っているものが複数ある。放送回数は他社より少なくても、ショートドラマ仕立てのCMにインパクトがあるから、頭にこびりつくようだ。

 さて、「しじみ習慣」はどのようにして誕生したのだろう。商品HPによると、端緒はある社員が子供のころ、調子のよくない母のために、しじみの煮汁を飲ませていたことだったという。近所の高齢者が「しじみを食べさせるといいよ」と教えてくれたため、毎日、学校の帰りに近所の川でしじみを採っていたのだとか。
「しじみを食べさせると嬉しそうな顔をする母親」(商品HPより)。親孝行である。

 その社員が本格的にしじみの研究を始めると、昔の出来事が納得できたそうだ。しじみの素晴らしさを伝えたいと「しじみ習慣」を商品化したという。

 この辺の美談もぜひ聞かせていただきたいと思ったが、前述のとおり、取材は一切NGだ。

 販売元である「自然食研」の創業は1954年。販売しているのは「しじみ習慣」ばかりではない。「オリーブライフ」「黒にんにく卵黄」「乳酸菌日和」「セサミン習慣」「グルコサミン習慣」……。バラエティーに富んでいるが、「習慣」と付く商品が多い。

 だが、主力商品はやはり「しじみ習慣」なのだろう。商品ラインアップの筆頭に掲げられているし、ご存じの通りCMも多い。

 最後に、「自然食研」と同資本の「佐々木食品工業」は「しじみ習慣」のウェブ上などでの広告表示について、特定非営利活動法人「消費者支援機構関西」から2018年までに3回、見直しを求められている。消費者支援機構関西の指摘は次の通り。

■「休肝日の代わりにしじみ習慣」、「休肝日?私はしじみ習慣」などの表記は、「しじみ習慣」を摂取することが休肝日を設けることと同じような機能または効能もしくは効果を持つことを意味する表示であって、しじみエキスを摂取することが休肝日と同じ効果を持つとは到底考えられず(以下略)
■「ギュッと凝縮した」、「超凝縮」、「濃いエキスをぎゅっと濃縮」等の過度に濃縮したかのような表記は、「しじみ習慣」の一粒当たりのしじみ含有量を明らかにしていないことから、一方的にしじみが多く含有されているかのように表示することであって(同
■「飲んだ翌朝シャキッ!元気に1日を過ごせる」、「お酒を飲む人にうれしい働き」等の効能効果があると受け止められる表記は、「しじみ習慣」に、飲酒をしても身体への負担が軽減される効果がある、二日酔いの症状が軽減される効果がある、良質の睡眠がとれるようになる等の特定の保健の目的が期待できる(健康の維持及び増進に役立つ)機能があることを意味する表示であって、科学的に十分な根拠がない(同)
(消費者庁HPより)

 なお、「しじみ習慣」側は指摘された表現を既にあらためた。

高堀冬彦(ライター、エディター)
1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長。2019年4月退社。独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月10日 掲載