昨年度の出生率がまた下がったところに、コロナ禍がやってきた。経済への影響が深刻化し、賃金が下がれば、結婚や出産を躊躇う人はさらに増えるだろう。これから顕在化する人口減少社会に歯止めをかけ、現在の生活水準を維持するには何をすればいいか。『未来の年表』著者による日本「再構築」策。

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佐藤 人口減少を続ける日本の未来の姿を描き出してベストセラーになった『未来の年表』(2017年刊)は、画期的な本でした。未来予測という点では、日本版の『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)だと思いました。

河合 ありがとうございます。でもそれは褒めすぎですよ。

佐藤 そんなことはありません。いま新書で3冊と、コロナ後の世界を描いた最新作『「2020」後 新しい日本の話をしよう』などがありますが、年表シリーズは有識者や新聞記者にはとても大きな影響を与えています。みんなこれらを参照しながら、状況を読んでいる。

河合 私は少子化に伴うさまざまな社会変化を「静かなる有事」と呼んできました。少子化は、国境で紛争が起きたり、目の前にミサイルが飛んできたりといった目に見える有事と同等、あるいはそれ以上に、国家を揺るがす大問題なんですね。

佐藤 人がいなくなれば、国家が成り立ちません。

河合 その通りです。少子化も高齢化も人口減も、いまや小学生が習うような時代になっているのに、この問題に対して日本中が鈍感すぎます。その鈍感さに非常に強い危機感を覚えています。

佐藤 2020年には「女性の2人に1人が50歳以上に」、24年には「3人に1人が65歳以上の『超・高齢化大国』へ」、そして日本最大のピンチと位置づけられている42年は「高齢者人口が約4千万人とピークに」と、トピックスの見せ方が絶妙ですね。

河合 やはり「見える化」をしないと、誰もこの問題に真剣に取り組まない。実は『未来の年表』を出す2年前に『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)という本を出しています。少子化問題について3年がかりで資料を調べて書き上げた本ですが、やや学術的で、アカデミックな世界では受け入れられたものの、市中にはあまり広がりませんでした。

佐藤 タイプ分けをすると、学術一般書ですね。

河合 そうですね。いい本にはなったのですが、読者は限定的でした。だからこの『未来の年表』はとにかく多くの人に届けようということで、編集者の力も借りて思い切って簡略化し、何年に何が起きるという形で書きました。

佐藤 少子化には今回のコロナも大きな影響を与えるでしょうね。

河合 もちろんです。事態はさらに深刻化しています。連日、コロナの感染者数が大きく報じられる中であまり話題になりませんでしたが、毎年6月に発表される厚生労働省の人口動態統計で、1人の女性が生涯に出産する子供数の推定値である合計特殊出生率が1・36にまで落ちたことがわかりました。これはコロナ禍前の2019年の数字です。このところ1・4台まで回復してきていたのですが、0・06ポイント下がった。

佐藤 数で言うと、どのくらい減るのですか。

河合 前年比で5・3万人も減りました。これまで政府は現実的、楽観的、悲観的と三つのシナリオを書いてきましたが、悲観的なシナリオにかなり近づいてきました。

佐藤 そこにコロナの感染拡大がやってきた。

河合 コロナの経済的な影響は非常に大きい。これから雇用が崩れていくでしょう。失業者が増え、同時に非正規雇用が増加する。多くの会社では業績も下がりますから、少なくとも賃金は下がり、収入が減る。

佐藤 将来の不安が増せば、当然、その中では子供を作らない選択をする人が増えます。

河合 少子化はさらに進んで『未来の年表』を書き換えなければならないほどの事態になってくるのではないかと思っています。

結婚=出産の東アジア圏

河合 もっともコロナがあってもなくても、日本の場合、少子化の最大の原因は結婚しなくなったことです。

佐藤 夫婦間で産む数の問題ではないということですね。

河合 これは東アジアの国々の特徴で、結婚と出産は一体化しています。つまり結婚しないと、子供が生まれない。

佐藤 文化や家族類型が関係しているわけですね。そうするとフランスのように婚外子の不利益をなくす政策をとっても、簡単には増えない。

河合 そうです。フランスがいい、日本が悪いという話ではありません。日本を含む東アジア全般の文化です。台湾などもその傾向が強い。

佐藤 考えてみれば、デキ婚も順序が逆なだけで、結婚へのプロセスになっている。

河合 結婚すれば、いまも夫婦間には、2人くらいは子供が生まれます。夫婦の最終的な平均出生子供数を完結出生児数と言いますが、最新の2015年の調査では1・94です。

佐藤 兵庫県明石市では、2人目からを支援していますね。暴言で話題になった泉房穂(ふさ ほ)市長が言っていました。1人目はよくわからないうちにできてしまう、そして子育てにはこんなにお金がかかるとわかったところへ、市として2人目の支援をする。するとそれを見て、明石へ引っ越してくれる人が出てくるんだと。その結果、明石市では人口の流入出がプラスになる「社会増」になっただけでなく、出生数が増え、死亡数を上回る「自然増」にまでなりました。

河合 日本では、結婚すれば子供が生まれます。どんな世論調査でも男女ともに8割以上、8割5分くらいがいずれ結婚したいと答えている。だからそれを叶えてあげれば、直接、出生率に跳ね返ってきます。

佐藤 でも実際には、結婚は簡単ではない。橋本健二氏の『新・日本の階級社会』を読むと、非正規労働者、つまりアンダークラスの男性600万人強の有配偶者率は25・7%です。

河合 日本の場合、統計的にだいたい年収300万円を割り込むと、途端に未婚者が増えます。

佐藤 年収300万以下は全労働者人口の4割と言いますね。

河合 そこに大学を卒業して就職した人もかなりいます。どうしてそんなことになってしまったかと言えば、日本の産業界が構造転換をしてこなかったからです。

佐藤 具体的にどう転換すべきだったのでしょう。

河合 戦後の焼け野原から出発した日本は、最初は欧米企業が作らなくなったもの、コスト的に合わなくなったものを、作り方から教わって製造し、復興してきたわけです。日本は、安い人件費で欧米人が満足できる品質のものが作れる唯一の国でした。しかも人口が増え、大きな国内マーケットもあった。

佐藤 高度経済成長は、人口ボーナスと言われていますね。

河合 それが1980年代以降、コンピュータの普及が進んでくる中で、日本以外の途上国でもそこそこの水準の製品が作れるようになってきた。そこで一人勝ちだった日本の経済モデルが破綻します。その80年代から90年代に、欧米のように高品質で付加価値のある商品作りにシフトしていかなければならなかったんです。

佐藤 でも成功体験に囚われて変われなかったわけですね。

河合 そこから日本は、人件費を圧縮して価格面での国際競争力を維持しようとしました。最初は中国人の人件費と争い、次にベトナムなどアジアの国々と競争していく中で、まず主婦パートなど女性を安く雇い、やがて正社員にも手をつけて、大卒の非正規雇用にも踏み切っていった。言うなれば、この国を支えていく人たちを犠牲にして、価格競争、薄利多売の発展途上国モデルを続けてきたわけです。

佐藤 個々の企業の生き残り戦略としては、それが合理的でしたからね。

河合 目先のことだけを考えるなら合理的ですが、当時は内部留保もあった。だから産業構造を転換して、日本人の人件費を上げる方向にシフトしていれば、若者たちは結婚でき、少子化もここまでではなかった。

結婚の選択肢がない世代

佐藤 その中核にいるのが、就職氷河期の人たちですね。

河合 その世代の先頭はもう50歳です。非正規雇用の彼らは身分も不安定で、結婚もせず子供もいない人が多い。あと15年もすれば年金受給世代になります。でも多くは年金の保険料を払っておらず、無年金になる。

佐藤 これまでも生活は苦しかったはずですが、まだ親が面倒を見ていたから、何とか生活できたところがあります。

河合 その親もいずれ死んでいきます。そうしたら彼らの老年期はどうなるのか。支えるにしても、その費用を国はどう捻出するのか。

佐藤 きちんとした政策が必要でしたね。

河合 第1次の安倍内閣はそれに気がついていた。彼らに向けて「再チャレンジ」政策を作り、特命担当大臣まで任命しました。あの頃、彼らはまだ35歳くらいです。結婚も含めた人生設計と老年期のことを考えて、彼らをきちんと給料が支払われる仕組みの中に戻そうと動き出した。でもそれが第2次安倍内閣では、実質的になくなってしまいました。この国は自分たちで少子化を招き、自分たちで高齢化社会問題を難しくしているようにしか見えないですね。

佐藤 そもそも少子化対策にも効果的な政策はありませんでした。

河合 これまでやってきたのは基本的に子育て支援策です。これは少子化対策とは似て非なるものです。

佐藤 河合さんは、戦争中の「産めよ殖やせよ」アレルギーが強いことも指摘されています。確かに政治や大手メディアのエリートたちはそうでしょうが、国民レベルではそれほどでもない気がします。

河合 「政策はキッチンまでで、寝室には入れない」というのが、戦後の一貫した政府の方針です。かつてGHQは日本の家父長制度を解体するために、子供を持つことは個人の権利であるという意識を植えつけました。戦後の反動期にこれが浸透しすぎて、子作りというプライバシーの領域に国が踏み込めなくなった。

佐藤 「産めよ殖やせよ」も、目的によるところがあります。もはや戦争に勝つためではなく、いまは我が国家と民族が生き残るためです。同性婚やそこに養子を取るといった多様な家族形態と矛盾するわけでもない。やはり、結婚して子供を作りましょうと言うことがタブーになっているのは、どこか変です。

河合 その結果、人生の中で子供を持つという発想がない人たちが増えてきたことは、非常に問題です。これでは日本社会は続かない。

佐藤 『東京タラレバ娘』という東村アキコさんの漫画があります。シーズン2の主人公は、昭和ギリギリに生まれた30歳の女性です。非正規の仕事を渡り歩き、いまは区立図書館の非正規職員です。実家の親にパラサイトして暮らし、レストランや行楽地に行くわけでもなく、コンビニスイーツを買って家でネットフリックスを見ているのが「幸せ」で、それ以上欲しいものがない。

河合 独身なんですね。

佐藤 欲望がすごくシュリンク(収縮)していて、結婚も考えていない。ところが30歳という節目で、小学6年時に埋めたタイプカプセルを開けることになるんです。すると、本人はすっかり忘れていたのですが、将来の夢として「結婚して楽しい家族を作って楽しくくらす」と書いた紙が出てくる。そこで初めて結婚が視野に入るんですね。

河合 なるほど、興味深い。

佐藤 そこで結婚のよさを友人に聞くと、夏祭りやクリスマス、大晦日など、自分が子供の時に楽しかったイベントがもう一回味わえると言われて、自分の幼い頃を思い出す。そして婚活を始めるんです。

河合 子供の頃はまだ結婚して家族がいるのが当たり前だったのが、その歳になると、それをすっかり忘れているし、結婚も頭にないのですね。

佐藤 だからこれから若い人たちに対しては、官民双方で、結婚する人生についての物語を作っていくところから始めないといけないのでしょうね。

V字回復は必要ない

河合 ただ残念なことに、結婚数が増えて出生率が上がったとしても、少子化は止まりません。子供を産める女性の数が減ってしまったからです。いまの30歳は30年前に生まれているわけで、いまから増やすことはできない。出産時期を25歳から39歳とすると、子供を産める女性の数は、25年後に4分の3、50年後には半分になります。50年後のカップルがいまの倍の子供を産めば現状の年間80万人台が維持できますが、そんなことはあり得ない。

佐藤 人口はどのくらいのペースで減っていくのですか。

河合 いま年間で30万人減っています。それが2040年ごろになると、90万人ずつ減ってくる。やがて100万人です。企業は立ちゆかなくなりますよ。日本は加工貿易国と言っていますが、実際はほとんどの企業が1億2600万人の内需で何とか経営を成り立たせていますから。

佐藤 日本のGDPにおける貿易の割合は14%くらいで、韓国の半分以下です。だから明らかに日本は内需型の国です。

河合 人口が減るだけでなく、2042年までは高齢化も進みますから、1人当たりの消費量や消費する品目が変わってくる。だから実数以上にマーケットは縮んでいきます。

佐藤 例えば、昨今のタワーマンションブームなどは、非常に危ないわけですね。人口が減るのにどんどん造っている。

河合 東京の郊外に行くと、200万〜300万円で買える中古マンションがたくさんあります。要するに値がつかなくなっている。

佐藤 十分、通勤圏として考えられる場所でも、そうした物件がある。

河合 それがこの先、都心でもたくさん出てきます。もう需要のバランスが崩れている。それなのに不動産神話は強固で、いまでも6千万円、7千万円と借金してマンションを買っている。価格が維持されるためには次の世代にまた需要があることが前提です。でもその次の世代の需要は激減していくんです。

佐藤 不動産業者はわかっていて、売っているんでしょうね。

河合 もちろんわかっているでしょう。今回のコロナでみんなV字回復を願っていますが、私はV字回復する必要はないと考えています。コロナによっていま私たちは、需要が消失した人口減少後の世界を目の当たりにしているんです。V字回復したとしても、十数年後には人口減で需要が減り、同じ状況になる。

佐藤 コロナで縮んだ需要をあえて戻さず、新しい人口減の市場との均衡点を探していくということですね。

河合 その通りです。経営モデルを変えながら、人口減少を織り込んだところまで戻せばいい。そもそもコロナの前から私は「戦略的に縮む」重要性を訴えてきました。

佐藤 中国やインドと競争しても始まらないということですね。

河合 やはり労働生産性を上げて、付加価値のあるものを作って勝負していくしかない。つまり質を求める社会を作っていく。

佐藤 ヨーロッパのブランドがそうですね。

河合 ヨーロッパの何百年と続く名だたる企業は、時代時代の先端技術を取り入れ、付加価値を上げながら生き残ってきたわけです。そうした方向に日本も向かわないといけない。

佐藤 ただ人が減りますから、どの分野も満遍なく、というわけにはいかなくなります。

河合 おっしゃる通りで、さまざまな分野で担い手が少なくなってきます。これまでも医師が足りないから医学部を増やすというやり方をしてきましたが、各分野で人が足りなくなったらどうするのか。その分野の人材をどのくらい国家として養成するかを考えざるをえなくなる。もちろん職業選択の自由があるので、この仕事に就けとは言えない。でも国として必要な人材や、重要な学問領域に関わる人をバックアップしていく必要が出てくる。

佐藤 自治医大や防衛大学校のイメージですね。多くが留学する国家公務員の総合職や外交官試験はそういう要素があります。

河合 私は「国費学生」を作るべきだと考えています。国家として重点を置く分野を決めて、それに関連する学部や学科の試験に受かれば、学費も下宿費も国家人材として面倒を見る仕組みを作る。

佐藤 それは全面的に賛成ですね。いま大学でもかなり格差がありますからね。勉強ができる学生は、家にコピー機やスキャナーが標準装備ですし、英語の力をつけたい学生はセブ島に行って3カ月間集中的に勉強するなど、経済環境によって大きな差がついています。

河合 個人が利益を得るために税金を使うことはできないので、卒業後の社会還元とワンセットにしなければなりません。でもスポーツではもうすでにやっていますよ。オリンピック強化選手指定をして、そこに税金を投入し、練習環境を整えている。それでメダルが獲れれば国益になる。

佐藤 人数が少なくなると、大勢の中で切磋琢磨し競い合って伸びていくということも難しくなりますね。

河合 だからこそ国費学生が必要になってくる。機会平等で選抜試験を行ってエリート教育をする。そうしないと国際競争はおろか、東アジアの中でも負けていくと思います。

佐藤 それも人口減の怖さですね。

河合 少子化は新しい文化やイノベーションを作る力を弱体化させます。若い人が面白いことを考え、組織文化にも新風を吹き込むことで、組織は活性化するし、ベテランもまた頑張るようになります。その原動力を弱めないためにも、国を挙げて優秀な人をどんどんバックアップしていく必要があるのです。

河合雅司(かわいまさし) 人口減少対策総合研究所理事長
1963年名古屋市生まれ。中央大学卒。産経新聞社に入り、政治部記者、論説委員などを歴任。人口政策、社会保障政策を専門とし、2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞など受賞多数。現在は産経新聞社客員論説委員、高知大学、大正大学の客員教授のほか、厚生労働省をはじめ政府の有識者会議で委員も務める。

「週刊新潮」2020年9月17日号 掲載