テレビ番組の「MC高齢化」や「ギャラ格差」の問題は、なにも今に始まったことではないが、若手芸人の“告発”にテレビ局側は困惑を隠さない。現役のテレビ局員はその背景として「老人化するテレビ」という構造的問題と、それに伴う「MCに求められる資質の変化」を挙げた。

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 口火を切ったのは、お笑いコンビ「とろサーモン」の久保田かずのぶ(44)とウエストランドの井口浩之(41)だ。5月14日深夜に放送された番組で、若手芸人から寄せられた「(芸人が)テレビを目指していく理由がよく分からない」との声に対し、まずは久保田がこう指摘した。

「もう何十年って、ずーっと居座ってる方……まあ、おるわ。そういうMC陣が。で、お給料メッチャもらってる。若手は1日ロケして(ギャラは)6000円、7000円だって。そういうのさ、“やめよう”と思うけど、何者が動かしてるんだ?」

 すると井口も同意して、こう相槌を打った。

「ずっと出てる人はずっと出てるじゃないですか。(中略)ボクら、どうやってもソコに追いつけないというか。そういうシステムに今なってるじゃないですか」

 2人とも「M-1王者」という称号を手にする“実力派”だが、自分たちを取り巻くテレビ界の現状には納得がいっていない様子だ。2人の発言は業界内でも注目を集めたが、その反応は意外にも“冷ややか”なものが多いという。

「メイン視聴者」は高齢者

 民放キー局局員が言う。

「番組のMC陣が同じメンツに偏りがちで、おまけに高齢化が進んでいるという点は否定しません。でも、その理由は久保田さんが示唆したような“局と事務所の関係性”による陰謀論などではなく、単に『視聴者の高齢化』に合わせた結果に過ぎないと思っています。いまのMCに求められるのは“面白さ”よりも“安心感”。久保田さんや井口さんのように尖った発言で“炎上”しかねない人へオファーを躊躇うのは業界的にも仕方ない」

 久保田と井口は“大御所”と若手タレントの「ギャラ格差」についても不満を口にしたが、これについても事情をこう明かす。

「若手芸人のギャラが低く抑えられたままなのはその通りですが、大御所タレントのギャラも昔と比べ、減らされているのが現実です。本業の放送収入が右肩下がりの傾向が続くなか、広告(CM)出稿の減少分を『TVer』などの配信収入で補っているのがキー局の現状。当然、番組制作費も年々減らされ、人件費(ギャラ)カットは芸歴などに関係なく行われている。ただ一点、井口さんが言っていたように、かつてのMC陣がもらっていた高額なギャラを今の若手や中堅がもはや手にできない状況にあるのは事実です」(同)

 それでも「MC」というポストにありつけば、世間から見ると高額のギャラが保証される構図に変わりはない。昔と違い、いまの芸人やタレントにはYouTubeなど新たな収入源も現れたが、知名度に「成功」が左右される面も。久保田と井口が“恨み節”を口にするのにも、それなりの理由があるといえる。

MC候補の「選別」基準

 若手芸人の間では「ポストの空かない」MC枠を追い求める行為に虚しさを感じる者が増えているというが、別の現役テレビ局員は、加速する若者の“テレビ離れ”と高齢視聴者のボリューム増によって、MCに求められる「資質」そのものが変わりつつあると話す。

「業界内でいま、『ダウンタウン』や『くりぃむしちゅー』につながる“大御所MC”候補として名前の挙がる筆頭が、お笑いコンビの『千鳥』です。とくに大悟さんは豪快な性格ながら“愛されキャラ”として認知され、岡山県の“何もない島”出身という経歴も高齢世代に好印象を与えている」

 一方で、“ネクスト千鳥”と囁かれる人気のお笑いコンビ「かまいたち」「見取り図」「ニューヨーク」らの評価は揺れ動いているという。

「3グループとも若い世代に人気がありますが、彼らのようにエッジの効いた笑いができる芸人は、逆にゴールデン帯を任せるのに若干の不安が残る。いまのテレビでは“イケイケ感”や“はっちゃけ感”が強すぎると、何かのキッカケで容易に視聴者の反感を呼びかねない。むしろアンガールズの田中卓志さん(48)や大久保佳代子さん(53)のように対応にソツがなく、アクシデントが起きても笑いで予定調和へと引き戻すことのできる“叩き上げ”タイプが重宝される時代。過剰な自主規制やコンプラの弊害と非難されるかもしれませんが、要はそれだけテレビ局が“打たれ弱く”なっているということ」(同)

 それでも“狭き門”のMCを目指すタレントはまだ存在し、それが斜陽のテレビにとって「希望と自信」につながっているという。

デイリー新潮編集部