悪いことをした人間が裁かれないどころか、のうのうと息を吐くように嘘を重ねて、どんどんおかしな方向へ向かっている。命を賭して真実を訴えた人もいる。末端の雑魚は尻尾切りで逮捕に至ったが、どうなってんだよ日本は、と思う人にぜひ観てほしい復讐劇。スペシャルドラマ「スイッチ」(6月21日放送・テレ朝)である。2時間ドラマに新しい風が吹いたのを感じた。良質な大人の会話劇をじっくり堪能する夜だった。

 もちろん、ドのつく土着的なベタが吉本新喜劇に近い「全身刑事」もやってほしいが、やはりこの「スイッチ」に続く良作の2時間枠をテレ朝は作るべし。古沢良太とか渡辺あやとか福田靖を連れてきてさ。洗練された皮肉と、温度と湿度低めの心情交錯、予測不能の展開が洒落ている作品のみ集めてさ。棒とかゴリ押しじゃなくて、演技ができる役者のみ集めてさ……と、長くなるからやめておくよ。

 で、「スイッチ」ね。脚本は坂元裕二。主演は松たか子と阿部サダヲ。元恋人で、弁護士と検事のふたりが繰り広げる、恋と事件と人生の選択肢の行方を描く。腐れ縁状態のふたりがそれぞれの恋人(眞島秀和と中村アン)を紹介しあうシーンから始まる。ルックス上等、意識高い系だが、話がクソつまらない眞島とアン(いるいる、超美形なのに話にオチがなくて死ぬほどつまらない人って!!)。松と阿部はトイレに行くたびにお互いの恋人の悪口をぶつけて、軽妙洒脱に貶(おとし)め合う。

 坂元脚本が好きな人にはたまらない「地味でささやかだけど、かけられたらイヤな呪い」もたっぷり登場。

「パソコンにお茶こぼせ!」「ラップ剥がすところ迷子になれ!」「洗濯物生乾きになれ!」。松と阿部が呪いをかけあう場面、最高に好き。

 もっと好きなのは、このふたり、元恋人だけではない、深い絆があるという点。そこにうすうす気づく眞島とアンのきわめて冷静な大人対応も、すごくよい。

 タイトルの「スイッチ」とは何ぞや、と思っていたら、松は弁護士でありながら、「ひどいことをしたのに裁かれない人がいたら殺しに行く」衝動に駆られる。怒りと正義感のスイッチを備えた女なのだが、そのスイッチが入った松を過去すべて止めてきたのが阿部だ。権力や金でもみ消された事件を検事としてあの手この手で立件にこぎつけてきた。松を人殺しにしない一心で、疑獄事件も躊躇せず。そのせいで出世は程遠いヒラ検事に。ものすごい運命共同体なのだよ、このふたりが。

 かといって大袈裟には描かず、淡々とリアリティも兼備。さらにこのふたりの愛情の行方は……やるのかやらないのか……人生の選択肢は……という物語だ。

 ふたりの右腕となる若手2人(井之脇海と岸井ゆきの)のキャラも今の時代に合致。そして、松と阿部は、傷害事件の被害者(ぺらっぺらしゃべる岡部たかし)と加害者(弁当屋の娘・石橋静河)の真実に迫る。真相とともに立場が入れ替わる妙。勧善懲悪で処罰感情を満たすだけではない深さがある。久々に満足度の高い、永久保存版の2時間モノだった。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2020年7月9日号 掲載