映画の興行ランキングなどを作成する興行通信社は9月14日、公式サイトの「ニュース」で、「『クレヨンしんちゃん』最新作が初登場1位を獲得!」と報じた。

 9月11日に公開されたのは「クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」[京極尚彦監督:東宝]だ。

 どれほど多くの観客が詰めかけたのか、同社の公式サイトに掲載された記事から引用させていただく。

《今週の動員ランキングは、『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』(東宝)が、土日2日間で動員21万2000人、興収2億6200万円をあげ初登場1位を飾った。子供たちとその家族のファミリー層を中心に集客し、初日から3日間の累計では、動員23万4000人、興収2億8900万円をあげるヒットスタートを切った》

 もちろん、まぐれではない。昨年4月に公開された「クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン〜失われたひろし〜」[橋本昌和監督:東宝]は興行収入20億8000万円を稼いでいる。

 ところが、である。これだけの人気を誇る映画作品でありながら、地上波との“相性”は悪いのだ。民放キー局の関係者が明かす。

「テレビ朝日は9月12日の午後6時56分から、昨年に公開された劇場版『新婚旅行ハリケーン』を放送しました。最新作の『ラクガキングダム』の宣伝も狙ったわけです。ところが興行収入が20億円を超えたヒット作であるにもかかわらず、ビデオリサーチが調査した関東地区、世帯平均の視聴率は4・4%と極めて低い数字だったのです」

視聴率1桁が常態化

 いわゆる“大爆死”ということになる。関係者は「あの国民的アニメが、こんな低視聴率を記録するとは驚きました」と言う。

 土曜のゴールデンタイムに放送されたにもかかわらず、その平均視聴率が4%台。テレ朝が真っ青になったとしてもおかしくない。

 少子化は、地上波のアニメ番組を直撃している。近年の視聴率低下は著しい。ビデオリサーチが発表した(関東地区、世帯、以下同)8月17日から23日のアニメの視聴率上位10番組を表にしたのでご覧いただきたい。

 この週は、2桁の世帯視聴率を記録した番組が1本もなかった。前出の民放キー局関係者が言う。

「もちろん少子化は無視できない要因ですが、『クレヨンしんちゃん』は2019年10月、『ドラえもん』とセットで、金曜の夜7時台から土曜の4〜5時台に“引っ越し”させられました。これが大失敗だったと言われています」

金曜夜を優先

 ただでさえ子供の数が少ない上に、土曜には塾や習い事に通う小学生も少なくない。そんな時間帯にクレヨンしんちゃんを放送すれば、視聴率がじわじわ下がるのも当然というわけだ。

 この当時、テレビ朝日の定例会見で、スポーツ報知の担当記者が「引っ越しで視聴率が上がるのか?」と質問している。

 テレ朝の回答は「往時は20%あった視聴率が6%まで落ちこんだ。金曜夜の視聴率が下がると、週平均の視聴率に悪影響が出る」というものだった。

 土曜夕方の放送が始まった頃、SNSでは引っ越しを“左遷”と揶揄する投稿が目立った。だが、それも冗談ではなかったようだ。

 テレ朝は金曜夜の視聴率を優先し、ドラえもんとクレヨンしんちゃんを見捨てたわけだ。

「テレ朝は地上波の低視聴率と、劇場版の興行収入を秤に掛けたわけです。土曜のゴールデンタイムが1桁台で終わるのはあまりに痛いですが、クレヨンしんちゃんの最新劇場版の興収は維持したい。視聴率が下がるのを覚悟の上で、宣伝のために枠を犠牲にしたということでしょう。同じ傾向はテレ東の『ポケットモンスター』や『妖怪ウォッチ!』の劇場版を放送する際にも見られます」(同)

名探偵コナンは好調

 劇場では極めて優良コンテンツだが、地上波では完全なお荷物──テレ朝編成の苦労が忍ばれるというものだ。

 だがテレ朝が、クレヨンしんちゃんの低視聴率を「少子化のせい」と弁解するのだとしたら、やはりカッコ悪いのかもしれない。

 視聴率戦争のライバルである日本テレビは、地上波のアニメ番組でも、しっかり“及第点”を取っているからだ。

 日テレ系列で放送されている「金曜ロードSHOW!」(金曜・21:00)は9月18日、「名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜」を放送した。

「この作品は劇場版ではなく、原作連載20周年を記念して制作されたテレビアニメ2時間スペシャル版です。14年12月に『金曜ロードSHOW!』で放送されました。視聴率は12・1%という記録が残っていますが、9月18日に放送された分も10・4%と好調な数字でした」(同)

 先ほどの表を見ていただきたいが、8月17日から23日の週は「名探偵コナン」がアニメの視聴率1位に輝いた。

地上波と劇場版の関係

「名探偵コナン」のライバルは「サザエさん」(フジテレビ系列・日・18:30)で、アニメ部門の世帯視聴率は「サザエさん」が1位、「名探偵コナン」が2位で終わる週は決して少なくない。

 それでも、「名探偵コナン」の視聴率が3位以下に落ちこむことは珍しい。日テレにとっては、今も視聴率10%に近い数字を安定して取る優良番組ということになる。

「『名探偵コナン』も1996年に放送が始まった時は、月曜午後7時半というゴールデンタイムでした。やはり少子化の影響などで“引っ越し”を余儀なくされましたが、現在でも土曜の午後6時という子供のライフスタイルに配慮した時間帯になっています。つまり塾や習い事が終わって子供たちが自宅に帰ってくる時間なのです」(同)

 現在、「名探偵コナン」の劇場版最新作「名探偵コナン 緋色の弾丸」(永岡智佳監督:東宝)は新型コロナの影響で公開が1年延期となり、2021年4月の公開予定となっている。

 前作は19年4月に公開された「名探偵コナン 紺青の拳」(同)で、興行収入は何と93億7000万円に達した。

 この年は「天気の子」[新海誠監督:東宝]が140億2000万円の興収で邦画1位を獲得したが、「名探偵コナン」も2位に付けた。

クレしんの未来は?

 前出の関係者が危惧を指摘する。

「テレ朝さんは、ひょっとすると映画の興行収入と地上波の視聴率は連動しないと判断しているのかもしれません。しかし、そうだとすると、相当なリスクがあると思います」

 やはり地上波でアニメを見た子供たちが、劇場に行くというのが基本だという。

「『名探偵コナン』は、その“王道”を堅守しています。『名探偵コナン』と『クレヨンしんちゃん』の劇場版では興行収入に差がついていますが、『この差は地上波の放送時間帯と関係がない』という証拠はどこにもないのです」(同)

「クレヨンしんちゃん」は1993年7月、視聴率28・2%の歴代最高記録を達成した。この7月に4歳から12歳の個人視聴率は何と67・6%に達したという。

 一方、劇場版は安定して10〜20億円台の興行収入だったが、1999年と2012年に10億円を割るという“冬の時代”を経験している。

 だが、その後の劇場版は必ずV字回復を成し遂げ、現在に至っている。テレビの視聴率は減少するばかりだが、劇場版の興行収入のように回復を示す日は来るのだろうか?

週刊新潮WEB取材班

2020年9月20日 掲載