NHK朝の連続テレビ小説といえば、主人公はもちろん、脇役にも注目が集まる。なかでも主人公の子供役は、特別な存在だ。1例を挙げれば、「あさが来た」(2015年下半期作)で波瑠演じる主人公・白岡あさの1人娘・千代の成人期以降を演じたのは今や飛ぶ鳥を落とす勢いの小芝風花だった。現在放送中の「エール」(毎週月〜金:午前8:00〜ほか)でも、主人公の古山裕一(窪田正孝)とその妻の音(二階堂ふみ)の1人娘・華がようやく大きく成長して登場した。その華を演じているのが新進気鋭の若手女優・古川琴音である。特に11月2日〜6日にかけて放送された第21週の“夢のつづきに”では、その存在が大きくクローズアップされたこともあって、気になった人も多いのでは……。

 というワケで今回は古川琴音に関しての深堀エピソードをお届けしたいと思う。96年10月25日生まれの現在24歳。神奈川県出身で身長は161センチだ。公式プロフィールによると、特技はダンス(バレエやヒップホップほか)に“ジブリッシュ”とある。ジブリッシュとは英語ではGibberishと表記し、意味のない言葉を口に出すことをいう。近年では演劇の中で表現力を身につけるために使われている有名なトレーニング方法なのだとか。特技も仕事に通ずるものがあるという意味では、かなり演技に対してストイックなのかもしれない。

 女優になったきっかけも特技のダンスが関係している。小さいころからやっていたバレエの延長戦上で、演技することに興味を持ち、中・高と演劇部だった。そこから大学に進み、就活のタイミングで役者を目指したのだ。そして沖縄市のPR動画「チムドンドンコザ」のオーディションで主役に選ばれ、晴れて女優デビューを果たすこととなるのだ。それが18年2月だったが、すると瞬く間に数々の映画やドラマ、CMなどに次々と起用されることとなる。

 例えば、テレビドラマなら「エール」以前に8本、出演している。レギュラーではなく、単発でのゲスト出演が多いのだが、その中には綾瀬はるかと上白石萌歌の共演で話題になった「義母と娘のブルース」(TBS系)やフジテレビ系月9ドラマのヒットシリーズ「絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜」が含まれている。また、映画なら今年11月20日公開予定の「泣く子はいねぇが」までで7本もの出演作がある。

 18年公開の映画デビュー作「春」ではいきなりの主演を務めた。この映画で就活を控える美大生・アミを演じた。この作品は1年の四季の移り変わりをわずか27分で描いた短編映画なのだが、彼女の表情が魅力的で、とても短編とは思えないほどの充実感を得られる出来栄えで、京都国際映画祭2018のクリエイターズ・ファクトリーでのグランプリ受賞作となった。

 ただ、映画でいえば、なんといってもオーディションで役を勝ち取って出演を果たした「十二人の死にたい子どもたち」の評価が高い。19年1月25日に公開された本作は、それぞれの理由により“死にたい”という願望を持った少年・少女たち12人が廃病院に集まり、集団での安楽死を実行しようとするも、そこにすでに死体となった13人目が現れたことで恐怖と狂気に満ちた展開へと進んでいくサスペンスである。メガホンを取ったのは「トリック」シリーズや「SPEC」シリーズなど多数のヒット作を世に送り出した堤幸彦監督であった。さらに出演者も杉咲花、新田真剣佑、橋本環奈ら注目の若手俳優ばかり。そこで彼女が演じたミツエという役は、ビジュアル系のバンドマンを崇拝するゴスロリ少女で喫煙者というかなり個性的なキャラクターだった。大ファンだったロックバンド歌手が自殺を図ったことから、自分もあとを追うために集いに参加するのだが、「エール」で彼女を知った人の中には本作を観たら、古川琴音だと気づかない人がいるかもしれない。さらに昨年2月には松尾スズキや松たか子、瑛太などそうそうたる顔触れが揃った音楽劇「世界は一人」への出演を果たしている。その演技力で、古川は一躍注目を浴びる存在になったといえよう。

“自然体”と“個性”という相反する魅力

 さて、「エール」である。冒頭に記した第21週の“夢のつづきに”では、思春期真っただ中の華の揺れ動く心が描かれた。作曲家として成功を収めた父・裕一や歌手になる夢を追う母の音に対して、自分の中にある才能や夢、目標が見つからず、劣等感を抱いていた。さらに恋いこがれる人・高校球児の竹中渉(伊藤あさひ)との関係にも思い悩んでしまう。印象的な華のセリフがある。「どうせ私には何もないよ」「やりたいことがないとダメなの? 目標あるのがそんなに偉いの?」「お母さん、私の気持ち全然わかってない!」。たまっていた感情を爆発させた瞬間だった。その一方で、「最近、自分がダメな人間に思えてきちゃって。私にはお父さんみたいな才能もないし、お母さんや渉さんみたいな目標もないし、好きなものもわかんないし、何がやりたいのかもわかんない」と伯母の吟(松井玲奈)に打ち明ける。そう、古川は思春期を迎えた15歳の女の子の可憐さと瑞々しさ、そして複雑で微妙な心情を巧みに表現し、演じていたのである。

 ここで驚かされたことがある。古川は現在24歳で母の音役・二階堂ふみとはわずか2歳差だ。吟役の松井玲奈とも5歳しか離れていない。にも関わらず、音とは本当の親子のように、吟とは仲のいい伯母姪の関係に見えてくるのである。つまり彼女は実年齢よりも約10歳下の琴音を自然体で演じていたワケだ。彼女の声は個性的で独特である。その声を聞くだけで演技に引き込まれてしまうほどだ。前述の映画「十二人の死にたい子どもたち」でのミツエ役もときどき訛りのある話し方をするという印象的なキャラクターだったが、現在出演中の「この恋あたためますか」(TBS系・毎週火曜22:00〜)でもヒロイン・井上樹木(森七菜)のルームメイトで漫画家志望の中国人女性・李思涵(リ・スーハン)役を演じている。この役も来日5年目でちょい中国語なまりはあるものの、日本語はペラペラという少しクセ強めの役柄なのだ。

 つまり古川琴音は“自然体”と“個性”という相反する魅力を兼ね備え、武器にしている女優なのである。さて、いよいよ「エール」はクライマックスに突入する。25歳になった華は夢を見つけて看護婦になっていた。そして勤務する病院で運命の出会いが……という展開が描かれた。当然、華を溺愛する父・裕一は気が気でない。最終回を目前にして古山家は大揺れに揺れそうだ。

上杉純也

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月25日 掲載