ベストセラー『「捨てる!」技術』辰巳渚さん、豊かさや幸せとは

ベストセラー『「捨てる!」技術』辰巳渚さん、豊かさや幸せとは

 その肩書は、「文筆家」と共に「生活哲学者」と紹介されることもあった。週刊新潮のコラム「墓碑銘」から、辰巳渚さんの歩みを振り返る。

 家庭や職場のあふれるモノに対して、収納や整理では解決できないと、辰巳渚(たつみなぎさ)さん(本名・加藤木綿子(ゆうこ))は、大胆に捨てることを提唱した先駆者である。

 2000年に辰巳さんが著した『「捨てる!」技術』(宝島社新書)は、発売から半年で100万部を突破するベストセラーとなった。“とりあえずとっておく”は禁句で、いつか必要になるかもと思っても、そんな“いつか”は来ないと断言した。

 当の辰巳さんは片づけが苦手だった。何でも容赦なく捨てるわけではなく、無自覚にためこんでいるモノは捨てても支障がないと、経験から確信を持つ。思い出までは消えないと父親の形見もほとんど捨てている。

 1965年、福井県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部を卒業、88年、パルコに就職、マーケティング誌の記者を務めたが流行を追うのになじめない。筑摩書房に転職すると編集者に向いていないと感じ93年にフリーライターとして独立。

『「捨てる!」技術』は、宝島社に企画を持ち込み、1カ月ほどでまとめた。34歳で一躍時の人となり浮かれるどころか悩んでしまう。捨てるかどうかモノと向き合い、本当に何が必要か日々の暮らしを見つめ直すことが真のテーマだったのに、片づけや掃除の専門家のように扱われたのだ。

 95年に画家と結婚、1男1女を授かるが41歳で離婚。子育てをしながら2008年に「家事塾」を発足させた。

 家事塾の準備段階から辰巳さんと行動を共にして、現在は「イエノコト」代表取締役の淀川洋子さんは言う。

「辰巳さんの本に出会い人生が変わりました。家事は生きることそのもので、自分や家族の体や心を養う豊かな作業だと話していました。日々平凡でも家は落ち着く場所だと、モノの先にある豊かさをお考えでした」

 日々の暮らしでの困り事を聞いて解決法を考える家事セラピストを養成。家事は自立した人生の土台になると子供向け講座も開いた。

「昔の子供は自然とお手伝いをして親の苦労や気持ちを理解し、身の回りのことも自分でできるようになったものです。当たり前だったことを暮らしの中に取り戻そうとされた」(淀川さん)

 家事塾の活動で良縁にも恵まれた。加藤秀一さんと12年に47歳で再婚する。

「我慢強く、粘り強い一方、自由気ままでやんちゃな面もありました。これでいいのだという塩梅(あんばい)を見つけて、楽な気持ちになってくれればいい、とも話していました」(秀一さん)

 モノを捨てるという原点は忘れていない。老いた親が住む実家の生前整理の必要性とその難しさについて語れば説得力があった。親子一緒に片づけながらモノを通じて親は思い出を語り、子供は親の人生を受け止められれば、と提案していた。

 今年に入り、家事塾や「生活哲学学会」で仲間と得た成果を今度は事業として社会に役立てようと、株式会社「生活の学校」を設立した。

 同社の代表取締役を務める野上秀子さんは言う。

「子供達が勉強したり母親が子育ての話ができる場を展開、学習塾とも連携します。辰巳さんは直感と実践に自信があると話していました。不安や迷いも正直に相談して下さる人でした」

 6月26日朝、住まいのある東京・浅草から、秀一さんと大型バイクで北軽井沢へと向かった。同地に住む辰巳さんの仲間が暮らしの相談窓口となる場を開き、最近よく訪ねていたのだ。

 午前9時頃、長野県軽井沢町の国道146号、急カーブの多い区間でスピードを上げた辰巳さんは対向車線にはみ出した。軽自動車と正面衝突、全身を強く打ち搬送先の病院で5時間後に亡くなる。享年52。

 対向車を運転していた女性は軽傷だった。大型バイクは買ってから日が浅く、ゆっくり走ろうと出発時に話し合っていたという。

 突然の悲報に、お別れの会は弔問客であふれた。

「週刊新潮」2018年7月12日号 掲載


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