のどぐろよりブリの方がウマくないか? 魚の「権威」考(中川淳一郎)

のどぐろよりブリの方がウマくないか? 魚の「権威」考(中川淳一郎)

「食」にまつわるテレビ、雑誌、漫画の情報は常に追っかけているのですが、これらをつぶさに見ているとおかしな表現ってのがあります。先日見た某番組では、神奈川県・三浦半島の「佐島」の漁港の話が出たのですが、「この港は新鮮な魚が揚がることで知られている」的ナレーションがありました。

 しかし、遠洋漁業の基地で冷凍の魚を扱う港以外は、いずれも早朝〜午前の早いうちに獲った新鮮な魚を水揚げしているのではないでしょうか。さっきまで生きていた魚なら新鮮なのは間違いないわけで、これをもって同漁港をホメた気になるのは実に工夫がありません。

 魚大好き男として、魚情報を扱うメディアを日々見ていると、日本全国の漁港関連の情報を知ることになりますが、一度として悪口を聞いたことがない。どこの漁港だって美味しくて新鮮な魚を獲ってきている自信はあるに決まっているじゃないですか。

「ワシらの本拠地である○○湾は、ロクな魚がいない場所ですわ。でも、近いから仕方なく魚獲ってるわけで、本当は隣の県の××湾まで遠征して獲りたいとこっスよ」なんてことを言う漁師は見たことがない。これを考えると、2つの仮説が導かれます。

(1)とりあえず、日本で獲れる魚はどれもウマい。

(2)グルメなメディアの皆様方は本当にウマい漁港しか取材しないという頑なな取材方針を持っている。

 多分、(1)が正しいんじゃないかと思うんですよ。私も釣りは何度もしてきましたが、駿河湾で釣った石鯛はむちゃくちゃウマかったし、千葉県の竹岡(東京湾)で釣ったメゴチも天ぷらにしたら素晴らしい。葛西臨海公園(東京湾)で釣ったハゼも絶品。相模湾で釣ったウマヅラハギは肝も含めて「生きてて良かった!」というレベルです。そもそもスーパーの魚もいずれもウマい。

 魚なんてものは「ウマい!」だけでいいのに、いちいち理屈をつけなくてはその価値を見出せないとは権威主義の塊です。そして各地域の人々がなんとかして自分の地元の魚だけは特別だ、とPRしたがる。

 その根拠は大抵こんなもんです。「潮の流れが速く運動量が多いので美味」「○○湾には3つの川からミネラル豊富な水が流れ込み、プランクトンや、エサとなる小魚が豊富なので美味」「寒流と暖流が交じり合う場所なので美味」。

 これらに加え、「土地」としてのブランド感が魚にはあります。「明石の鯛」「大間の鮪」「下関のフグ」「呼子のイカ」などなど。地元の皆様方のブランド化の努力を否定するわけではないのですが、「魚ってどこで獲れてもウマいよな」みたいな意見は封殺されがちです。

 つーか、東京湾なんて、工業地帯に面した海で「寒流と暖流が交じり合う」なんてことがない場所ですよ? でも「小柴のシャコ」とか「三番瀬のハマグリ」が絶品ということになっている。そりゃ両方ともウマいけど、結局皆さんブランドに弱いってだけなのでは。

 それと同様に、北陸に行って違和感を覚えるのが、「のどぐろ」があまりに高く評価されているところです。島根県出身の錦織圭のコメントをきっかけにさらに人気が出た高級魚ですが、ブリの方がウマくないか?

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2018年5月24日号 掲載

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