発達障害と少年犯罪の関係性は? 「負の連鎖」を食い止めるために

発達障害と少年犯罪の関係性は? 「負の連鎖」を食い止めるために

 いまから20年以上前の1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件は、近年の「一般人の想像を超える犯罪」の嚆矢と言えるだろう。
 加害者が当時14歳の少年だったこと、彼が奇妙な言葉使いの「犯行声明」を記していたことなどから、当時は「心の闇」という言葉が使われた。「闇」という言葉が示すように、社会の側も当初は、この衝撃の事態にどのように向き合えばよいのか探りかねている印象があった。

 犯人の「少年A」は、中学生時代に発達障害のひとつである「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」と診断されていたと言われている。
 また、同級生を殺した佐世保市の女子高生や、名古屋大学の「タリウム女子大生」は、逮捕後の精神鑑定において、「自閉症スペクトラム障害(旧名は『アスペルガー症候群』。発達障害のひとつ)」の可能性が指摘されていた。
 このように一般人に理解不可能な少年犯罪には、加害者に発達障害が疑われるケースが見受けられる。

発達障害=犯罪者ではない。しかし……

 こう記すと「発達障害=犯罪者のレッテルを貼っているのか」と誤解される向きもあるかもしれないが、そうではない。最近、NNNドキュメント取材班とともに『発達障害と少年犯罪』を著したジャーナリスト・テレビプロデューサーの田淵俊彦氏は、「発達障害と少年犯罪の間に、直接的な関係はない」とはっきり言う。
「私は、2016年5月に放映されたNNNドキュメント『障害プラスα〜自閉症スペクトラムと少年事件の間に〜』という番組の取材・制作を担当し、それを元に本を書きました。その際に、多くの精神科医や矯正関係者に話を聞きましたが、皆、口を揃えて『発達障害と少年犯罪の間には直接的な関係がない』と言いました」

 発達障害をもつ子どもが先天的に犯罪に結びつく、ということはない。それは専門家の一致した見解である。だから、「直接的な関係」はない。
 しかし、田淵氏によると、発達障害をもつ子どもはしばしば、非常に厳しい環境での生活を余儀なくされ、それゆえに「間接的な関係」が生じてしまうことはあるのだと言う。

「私が本を書いた理由もそこにあります。発達障害、特に自閉症スペクトラム障害の特性が、“犯罪を呼び込んでしまう”傾向があるのです。
 自閉症スペクトラム障害の特性には、コミュニケーションの不全、こだわりの強さ、他人の気持ちへの理解の乏しさなどがありますが、こうした理由から当事者が虐待を受けたり、生きにくさを感じたり、孤立してしまったり、誤解を受けたりということがしばしば起こっている。それが結果的に、加害者としてにせよ被害者としてにせよ、発達障害の当事者を犯罪につなげてしまう場合があるのです」

恐ろしい「虐待の世代間連鎖」

 取材の中で田淵氏は、発達障害の当事者たちがしばしば「虐待の世代間連鎖」とも言うべき事態に身を置いている事実を知ったという。

「トラウマ治療の現場に立ち会わせてもらったことがあります。13歳の少年だったのですが、友達からのいじめがきっかけで問題行動を起こして精神科医にかかり、自閉症スペクトラム障害との診断を受けました。精神科医にかかる中で、少年は父親からネグレクトと身体的虐待、母親からも叱責などの心理的虐待を受けていたことが判明しました。治療を続けると、実は母親も自分自身が虐待を経験した自閉症スペクトラム障害の当事者だったことが分かったのです」

 児童精神科医によれば、どんな環境であれ、子どもは「愛着」を作らずには生きていけないという。そのため、幼少期に虐待を経験した子どもは、しばしば「暴力に対する親和性」という「歪んだ愛着」を育んでしまう。幼少期にドメスティック・バイオレンスを経験した人が自ら暴力的な配偶者を選んでしまったりするのも、こうした「愛着トラウマ」に由来するのだ。発達障害ゆえに虐待やネグレクトを経験した子どもが、成長して自分が親になった時、自分が経験したことと同じことを自分の子どもにしてしまう傾向があるのも同じ理由からである。
「そんな恐ろしくも悲しい負の連鎖の中に、多くの発達障害の当事者が身を置いているのです」(田淵氏)。

貧弱な児童精神科医療

 家庭という密室で進むこうした事態には、社会の側が気付いて早めに福祉や医療につなげる必要があるが、ここにも問題がある。他の先進諸国に比して、日本の児童精神医療や児童福祉が極めて貧しいのだ。

「子ども虐待は先進諸国の共通した問題とも言えますが、これにかけている費用は、日本の場合わずか年間約1000億円です。この額はアメリカの30分の1,オーストラリアの3分の1です。ある子ども虐待を研究している研究者によると、虐待による社会的損失は年間約1兆5千億円にもなると言います。問題のサインを見つけたら、取り返しのつかない事態が発生する前に、社会の側が積極的に介入しなければならない。児童相談所や里親制度の強化なども必要です。大事なのは、早期発見と早期サポートなのです」

 佐世保市の同級生殺害事件では、加害者になる少女が他者に凶悪な犯行を起こす可能性を精神科医が察知していた。精神科医は、県の支援センターに相談していたにもかかわらず、センターは十分な対応をしなかった。正確に言えば、できなかったのだ。

 発達障害者は犯罪者になる、などといった偏見や差別は決して認めるべきではないし、事実にも反している。しかし、「第二の佐世保事件」を防ぐためにも、発達障害と少年犯罪の「間接的な関係」には、社会が十分に目配りしておく必要があるだろう。この負の連鎖を断ち切るには、社会の手厚いサポートがかかせないのだ。

デイリー新潮編集部

2018年5月25日 掲載

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