東海道新幹線「のぞみ」殺傷事件が突きつけているもの──発達障害と少年犯罪の関係

東海道新幹線「のぞみ」殺傷事件が突きつけているもの──発達障害と少年犯罪の関係

 またしても不幸な事件が起こってしまった。

 6月9日に発生した東海道新幹線「のぞみ」内での死傷事件。小島一朗容疑者(22)は、ナタで2人の女性を傷つけ、止めに入った男性をナイフでめった刺しにして死亡させた。

 毎日新聞の報道によれば、小島容疑者の生育歴は、やや特異なものである。中学2年生のころ、「授業についていけない」などの理由で不登校になる。両親との折り合いも悪くなったため愛知県一宮市の実家を出て、県内の生活困窮者の支援施設で約5年間暮らした。

 施設から定時制高校に3年通い、卒業後は名古屋市内で1年間職業訓練を受けた。訓練を終え機械修理会社に就職し、施設を出て埼玉県や愛媛県で働いたものの、人間関係を理由に退職。2016年4月ごろから、岡崎市で伯父と祖母と同居するようになった。昨年2〜3月には、市内の精神科病院に入院している。

 伯父によると、小島容疑者は「俺なんて価値のない人間だ。自殺したい」と度々口にし、半年前に「旅に出る。自由に生きたい」と言って自転車で家を出ていたという。また、伯父は「本人は自閉症で、自殺願望が強かった」とも述べている(NHKの報道などによる)。

犯人は発達障害だったのか?

 精神科病院を受診していた小島容疑者にどのような診断が下されていたのかは、現状、明らかになっていない。ただ、同居していた伯父が「本人は自閉症」と語っていることや、生育歴、報道されている犯行当時の振る舞い、警察官に連行されていく様子などを考え合わせると、発達障害のひとつである自閉症スペクトラム障害(ASD)だった可能性は高いと考えられる。
 
「起こるべくして起こってしまった事件、という気がします。ただ、発達障害だから犯罪を起こした、というのは短絡的過ぎる。発達障害をもつ人の特性を理解し、その人がどのような環境で暮らしてきたかを考えるべきです」

 こう述べるのは、ジャーナリスト・テレビプロデューサーで『発達障害と少年犯罪』の共著書もある田淵俊彦氏である。

「もし彼が自閉症スペクトラム障害などの発達障害をもっていたとしたら、『これまで周りがどのように対応してきたか』を考えることが重要です。犯人の生育歴を見ると、発達障害をもった人が親や社会から孤立した結果、触法に引き込まれてしまうという事件であった可能性もあるからです」

 田淵氏が著書で注目したのは、発達障害と少年犯罪の「間接的な関係」だ。
発達障害をもつ子どもが先天的に犯罪に結びつく、ということはない。それは専門家の一致した見解である。
しかし、発達障害をもつ子どもはしばしば、非常に厳しい環境での生活を余儀なくされ、それゆえに「間接的な関係」が生じてしまうことはあるのだと言う。もし小島容疑者が発達障害をもっていたならば、今回のケースがまさにそれに当たるのだ。

「親との折り合いが悪く、中学2年で不登校になり、ほどなくして実家を出て施設に移ったという状況を考えると、犯人の周りには安心して心を委ねられるような大人がいなかったのかも知れません。もしそういう大人がいないと、『適切な愛着』が育たない。『適切な愛着』が育まれないと、暴力などに強い親和性をもってしまったりして、犯罪につながりやすくなってしまうことがあるのです」

 自閉症スペクトラム障害の特性には、コミュニケーションの不全、こだわりの強さ、他人の気持ちへの理解の乏しさなどがある。こうした理由から当事者が虐待を受けたり、生きにくさを感じたり、孤立してしまったりすると、加害者としてにせよ被害者としてにせよ、発達障害の当事者が犯罪につながってしまう可能性が高くなってしまうのだ。

「朝日新聞の報道によると、犯人は犯行の動機について『むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった』と述べています。この『誰でもよかった』の自暴自棄が、私には象徴的に感じられました。他人と確かなつながりを持ち、人に対する愛着を育んでいれば、『誰でもよかった』とは言わないでしょう。逮捕される時の容疑者の目は、自分を放置した社会に対する『恨みの目』のように私には思えました」

 もちろん、犯罪は適切に裁かれなければならないし、理由はどうあれ、犯行に対する相応の罰は必要だろう。ただし、「再犯を防ぐ」という観点からは、考えるべきことは別にある。

「発達障害をもった人の中には、何のケアも受けることなく社会的に放置されている人が多数いるという状況は、変わっていません。佐世保市の同級生殺害事件では、加害者になる少女が他者に凶悪な犯行を起こす可能性を精神科医が察知していましたが、それでも事件は起こってしまった。精神科医は、県の支援センターに通報していたにもかかわらず、センターは充分な対応ができなかった。もしこの時に彼女が適切なケアやサポートにつながっていたら、事件は防げたかもしれません。
 それから4年が経って、またしても社会的に放置されている発達障害をもつ人による犯罪が繰り返されてしまった可能性がある。彼らをできるだけ早く社会やサポートとつなぎ、ケアを受けさせてあげなければ、同じような犯罪が繰り返されてしまうかもしれないのです」

 残虐な犯罪により奪われた命を考えると、「社会への警鐘」と言うにはあまりに重い事件である。しかし、再犯を防ぐという観点からは、今回の事件を特異な個人による異常な犯罪という「特別扱い」にしたら、何の教訓も汲むことはできなくなる。
 何故に犯罪が起こってしまったのか。詳細な事実の究明が待たれる。

2018年6月13日 掲載


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