早大政経が入試で数学必須化、それでも“ライバル慶應”には勝てないワケ

早大政経が入試で数学必須化、それでも“ライバル慶應”には勝てないワケ

募集人員も削減する理由

 早稲田大学は6月7日、新入試制度の概略を発表した。その中に「2020年度から政治経済学部の入試は数学を必修にする」とあったことから、非常に大きな話題を呼んでいる。

 ***

 Yahoo!ニュースも翌8日、時事通信の記事(「早大3学部、共通テスト利用=政経は数学必修、20年度から」をトピックスに選んだほどだ。関心の高さが伺える。

 新入試は、現在の高校1年生の受験時からスタート。センター試験が2020年の1月実施を最後に廃止され、新しく大学入学共通テストが開始されることと連動している。大学の発表資料などを元に、政経学部の入試がどのように変わるのか見ておこう。

A:大学入学共通テスト=4科目
【1】外国語(英語、独語、仏語から1つを選択)
【2】国語
【3】数学Ⅰ・数学A
【4】選択科目(地理歴史、公民、数学、公民、理科)

B:英語外部検定試験および学部独自試験
【英語の外部検定試験】共通テストで活用される試験を前提として検討中。
【学部独自試験】日英両言語の長文問題。記述式解答も含む。

 さらに重要なことに、募集人員も削減されてしまう。これまでは定員が約900人に対して一般入試は450人の募集だったが、これが300人になる。入試が難化し、合格者の絶対数も減る。文字通り「狭き門」と化すわけだ。

歴史オタクの受験生は不利?

 早稲田政経の入試問題は、昔から難易度が高かったのは事実だろう。例えば、団塊ジュニア(1971〜74年生まれ)が受験した80年代後半から90年代前半、政経入試といえば、日本史・世界史の「カルトクイズ」と非難される難問珍問で“悪名”を馳せていた。また現代文の難易度が飛び抜けて高いなど、他大学には見られない特徴があった。

 偏った試験内容だったのは間違いない。だが、「何が何でも早稲田に行きたい」という私立文系専願の受験生が、政経を意識した勉強を続けていれば、“奇跡”が起きる可能性も存在した。

 最近は、内部進学や推薦入試の比率が、当時とは比べものにならないほど高まっている。とはいえ、少なくとも一般入試の問題では、そうした伝統は残っているようだ。

 だが今回の入試改革は、「数学は極めて苦手だが、日本史や世界史の用語集なら隅から隅まで暗記している」という受験生には、文字通りの逆風となる。

 誰が考えても「各教科をまんべんなく勉強している」オールラウンド型の受験生が有利になるのは明らかだ。政経OBが「自分の時代に数学が必須だったら、合格しなかっただろう」と驚愕の声を漏らす理由でもある。

 一体、早稲田はどのような目的から、今回の入試改革を断行するのだろうか。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏に訊いた。

「そもそも80年代から、政経学部の内部にも『社会科学を学ぼうとする受験生に対する入試が数学不問でいいのか』という疑問の声はありました。そして、やはり経済学科の方が問題視されていました。現代の経済学は物理学に基づく高度な数学を取り入れています。大学生レベルでも、微分積分や確率統計の知識が求められています。数学が極端に苦手な受験生でも、経済学科に入学できてしまうという現行システムがおかしかったのです。そういう意味においては、私は政経の入試改革は英断だと評価しています」

早大人気は凋落傾向

 早稲田と聞けば「私学の雄」との言葉を思い出す人もいるだろう。だが、今は慶應の人気が非常に高く、早稲田のイメージは凋落傾向にある。

「週刊朝日」(18年3月30日号/朝日新聞出版)は「早慶、いま人気の学部は 偏差値・志願者数を20年分析 2018大学入試」の記事を掲載したが、その中に次のような記述がある。

《東進ハイスクールによると、早稲田と慶應の法学部に合格した人の94.4%が慶應に進んだ。早稲田・政経と慶應・経済でも、61.1%が慶應を選んでいる》

 なぜ、これほどまでに早稲田は不人気となってしまったのだろうか。石嶺氏は90年代に早稲田の“改革”が後手に回ったことが原因だとする。

「慶應は90年、湘南藤沢キャンパス(SFC)に総合政策学部、環境情報学部の2学部を新設し、『最先端の大学』というイメージ作りに成功します。皮肉なことにSFCの人気は落ちているのですが、バブルが崩壊し、長い不景気に悩まされたため、慶應は就職に強いという点で高い人気を維持できました。危機感を抱いた早稲田は、04年に国際教養学部を新設したり、07年に文学部の改変(現在は文化構想学部)などを行ったりしてきましたが、人気の完全復活には至っていません。逆に東京6大学なら明治大学がお茶の水キャンパスの整備、芸能人の入学、地方入試の積極的な実施でイメージを一新し、人気と偏差値を大幅に上昇させました」(同・石嶺氏)

 早稲田政経の“英断”ですら、「慶應の二番煎じ」と揶揄する声もある。そもそも慶應の経済学部は、過半数の生徒が数学必須の入試を突破している。経済学部の募集人員630人のうち、A方式が420人。その入試科目は、英語、数学、小論文だ。対するB方式は、英語、地理歴史、小論文だが、こちらは210人と少数派に抑えられている。

希望の星は地方の国立文系

 数学必須化で話題になったとしても、早稲田政経の人気が復活する可能性は低い――こんな指摘を聞けば、特にOBは哀しくなるだろう。何か打開策はないのかと石嶺氏に訊けば「国立大学の文系学部を志望している高校生に、どれだけ興味を持ってもらうかが鍵」と指摘する。

「早大政経が今以上に、東大や一橋大を落ちた受験生の受け皿となるのは間違いないでしょう。しかし私が興味を持っているのは、地方の進学高で国立の文系学部を選択している高校生が、どれだけ政経学部を受験するかということです」

 朝日新聞デジタルは16年5月1日、「都内有名大、増える首都圏高卒 30年間で1.4倍に」と報じた。

 それによると、東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県の高校を卒業し、早稲田大学に通う学生の割合は86年なら51.8%だったのに対し、16年は73.9%と大幅に増加していた。地方出身者は激減しているのが分かる。

「かつての早稲田は、地方出身者の人気を得ることで、学内の多様性を確保し、教育の質を高めていました。そのためには、北大や京大といった旧帝大だけでなく、地方の国立大を志望する受験生にも興味を持ってもらう必要があります。新入試は、国立文系の受験生にフィットしているのは間違いありません。成功すれば、早稲田は真面目で優秀な生徒を確保できるでしょうが、同時に地方入試の実施も必須です。これは明大が躍進した要因ですが、早稲田も慶應も実施していません。そこにこだわりがあるのかもしれませんが、ならば早稲田は、変なプライドを捨てるべきです」(同・石渡氏)

 昨今、地方創生を名目に、文部科学省は都内大学の学生数を抑えこもうとしている。地方の学生は地元の大学に通うべき、というわけだ。もし早稲田が地方の高校生を確保しようと動けば、そうした流れに逆行することになる。

 だが、それを歓迎する人はいても、非難する人は少数派だろう。早稲田のキャンパスに方言はよく似合う。一方の三田とは、相性がよくないはずだ。

週刊新潮WEB取材班

「週刊新潮」2018年6月18日 掲載


関連記事

おすすめ情報

デイリー新潮の他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

社会 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

社会 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索