台風15号・千葉県「ゴルフ練習場」鉄柱倒壊…補償めぐり被害住民が分断

台風15号・千葉県「ゴルフ練習場」鉄柱倒壊…補償めぐり被害住民が分断

 収穫の秋を襲った大型台風の爪痕は、未だ各地に残っている。その象徴ともいえる被災地が、千葉県市原市のゴルフ練習場。倒壊した鉄柱がようやく撤去されても、原状回復の道筋が見えない被害住民の心のうちは、分断されたままという。

「ドーンという雨風の音をかき消すほどの轟音と、地震のような大きな揺れを感じました。巨大な鉄の柱が家に倒れてきて、ガラスの割れる音もしたんです」

 と、恐怖の一夜を振り返るのは、自宅が直撃を受けた会社員の男性。別の家では、衝撃で掛け時計が落下して、時計の針はちょうど3時40分を指したまま止まってしまったという。

 約2カ月前の9月9日、千葉県を襲った台風15号は、県内で観測史上1位となる最大瞬間風速を記録した。市原市の「市原ゴルフガーデン」ではネットを支える高さ40メートル、重さが最大4トン強の鉄柱が12本も倒壊。被害は甚大で、ゴルフ練習場の周囲に建っていた家屋や、駐車中の自動車が直撃を受け、20代の住民女性が重傷、生後3カ月の乳幼児が負傷したのだ。

 そんな被災地を再び襲ったのが、10月12日に上陸した台風19号だった。鉄柱の撤去が遅々として進まなかったことで、穴の開いた屋根からは豪雨が流れ込み、残された家財はほとんどダメになって、屋内にはカビが繁殖する「二次被害」が起きたのだ。

 忌わしき鉄柱の撤去作業が始まったのは10月28日のこと。なぜこれほど時間が掛かったのかを探ると、そこには被害住民たちの避けられぬ分断があった。

「被害を受けた27棟のうち、撤去に同意して頂けたのは15、16棟だけでした」

 と話すのは、撤去作業を担う大手解体業者フジムラの藤村直人社長(49)だ。

「住民の皆さんは、作業で再び家屋が壊れたらどうなるのかと不安を抱えていた。けれど同意書にサインを貰えなければ始まらないので、撤去で生じた損壊はゴルフ練習場が掛け金を払う保険で対応することになり、納得してもらいました」

 ちなみに、藤村社長の会社は、旧国立競技場の解体も請け負い、その技術は折り紙つき。今回はボランティアで作業を行っているという。

「会長である私の兄が報道で被害を知って、助けになればと市役所とゴルフ練習場に撤去を申し出たんですが、最初は信じてもらえなかった。善意からとはいえ、4500万円ほどかかる作業を無償でやるなんて、私も同じ立場だったら信用できないでしょうから。作業自体は、大きな解体業者なら十分やれるもので、今月末には終わります」(同)

 これで復旧へと進むかと思えば、鉄柱が撤去されてもなお、一度分断されてしまった住民たちの間に消し難い壁が生じている。

 自宅が全壊したという年配の会社員男性が言う。

「最初はゴルフ練習場のオーナーが被害は全て補償するって話だったのに、後から弁護士が横槍を入れて個人の住宅保険を使ってくれと言ってきた。それで議論は平行線のまま。今後、練習場に補償を求めるにしても、住民間で意見が食い違う可能性はありますよ」

 その一つに、住民各々が加入している「保険問題」があるとこの男性は続ける。

「家屋にしても自動車にしても、風水害による損壊が補償される保険に入っているか。火災保険なら家財まで適用されるか。損壊のレベルに応じてどこまで練習場のオーナーに補償を求めていくか。それぞれの思いは異なるし、いざ裁判で争うとなれば、弁護士費用を出し合うくらいなら、保険を使って直した方が安く済むって人も出てくるでしょう」

「仕方なかった」

 同じく自宅が全壊した別の男性はこうも言う。

「やっぱり全壊した家と、そうでないお宅では、積極性が違いますよ。損壊の酷い家は、鉄柱を固定していたボルトは赤く錆びていたとか、ゴルフ練習場に瑕疵がないかを自分たちで徹底的に調べている。一方、被害がそこまででない家は説明会でも“補償、補償”って連呼するだけですから」

 実際、天井が一部破損しただけという住民は、

「取材って言われても、何にも分からない。今後についてはこっちが教えて欲しいくらいで。仕事が忙しくて補償のことは全く知らされてないもの」

 20年ほど前に造成された住宅街で、町内会のような組織がないのも分断に拍車を掛けているというのだ。

 混乱を拡大させたゴルフ練習場はどう答えるか。

 運営会社社長に問うと、

「補償についてはお家によって異なるので、こちらで判断できない部分は弁護士さんに手伝って頂き、金額にもよりますが、出来る限りのことはしたいと思っています。こんなことは言い訳だと言われるかもしれないのですが、天災で瞬間風速50メートル以上の風が吹いたとなれば、仕方なかったのかなと思います」

 癒えない傷を負った被災者たちの、溜息ばかりが聞こえてきそうなのである。

「週刊新潮」2019年11月14日号 掲載


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