新型肺炎では、2月3日の衆院予算委員会で加藤勝信厚労相が、入国制限の対象拡大に言及したように、日本政府は未だに「水際対策」にこだわっている。しかし、それはピントがずれているという。

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 目下、政府は湖北省発行の旅券を持つ中国人の入国を禁止するなど、「ウイルス流入阻止」に躍起になっているが、元厚労省医系技官で医師の木村盛世氏は、

「政府の対応の問題点は水際対策にのみ注力し、国内での感染拡大抑制対策を一切しなかった点にある」

 として、こう指弾する。

「2009年に新型インフルエンザが流行した時と全く同じ過ちを繰り返していて、この10年間、厚労省が何も進歩していないことを露呈しています」

 確かに、騒動が一気に拡大した1月20日から2月1日までの間に、日本に直接入国した中国人は34万人を超えている。いまさら水際対策に奔走したところで、すでに国内感染者は2月12日時点で明らかになっている「203人」だけでなく、発症していないだけの「隠れウイルス保有者」が多数いると見るのが自然だろう。その証拠にこんな話がある。「チフスのメアリー」。同志社大学客員教授で「松本クリニック」院長の松本浩彦氏が解説する。

「1900年代初め、アメリカのニューヨークに住んでいたメアリー・マローンという女性は、住み込み料理人として働いていたのですが、彼女は7年間に6軒の家を渡り歩き、その先々で倒れる人が続出しました。メアリーさん自身は元気だったものの、実は彼女は腸チフスの菌を保有していて、多くの人に感染させたと言われています。メアリーさんは、医療界では語り種となっている『スーパー・スプレッダー(感染源)』です」

 今回の新型肺炎でも、無症状ながら検査結果は陽性の人が出ている。つまり、「肺炎のメアリー」は、あなたの隣にいるかもしれないのだ。

検査に民間会社を

 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は、

「新型肺炎は重症化するケースが少ないため、感染していると気づかずに会社や学校に通っている人がすでにいるかもしれません」

 こう分析しつつ、二次感染、三次感染を防ぐ意味で次のように提言する。

「今は武漢から帰国した方や、その濃厚接触者に限って検査を行っていますが、検査に保険を適用し、肺炎の症状を訴えて来院した患者全員に検査を実施すべきです。現状、公的機関だけが行っているため検査に限界があり、且(か)つ結果が出るのに時間がかかっていますが、保険適用にして民間会社が検査に参入すれば、結果はすぐに出るようになる。広く検査を行うことによってデータを蓄積すれば、今後の対策にも役立てることができます」

 国内感染の拡大を一刻も早く防がなければ、隣にメアリーどころか、こんな事態にもなりかねないのである。

 私がメアリー。

「週刊新潮」2020年2月13日号 掲載