新型コロナとの正しい付き合い方――矢野邦夫・浜松医療センター副院長(1/2)

 出口が見えぬ隘路に閉じ込められ、忍耐を強いられている我ら日本人。だが、感染症に詳しい浜松医療センターの矢野邦夫副院長によれば、新型コロナウイルスも所詮は単なる風邪の一種。過剰に恐れる必要はなく、守ることさえ守って、普通に生活すべきだという。

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〈もはや我々は退路を断って、未曾有の災禍をもたらす強敵に備えている感さえある。イベントの自粛や学校の休校はもちろん、インバウンドも断ち、経済への甚大なダメージを覚悟のうえで、敵に立ち向かっている。

 日々の営みを、こうも破壊してまで遠ざける強敵なのだから、新型コロナウイルスとは、さぞかし恐ろしいものだと思い込んでいる人も多い。しかし、我々は敵の力を過大に見積もってはいないだろうか。〉

 ヒトに感染するコロナウイルスは、これまでに6種類発見されていました。そのうち4種類が風邪のウイルスで、残りがSARSとMERSです。新型コロナウイルスは7種類目で、武漢で感染が広がった当初は致死率も高く、私もSARSやMERSの仲間ではないかと思いました。しかし、致死率が低いことがわかってきて、1、2年後には風邪のウイルスに近いものに分類されるのではないかと考えています。

 2009年に流行した新型インフルエンザも、いまでは一般的なA型季節性インフルエンザになっています。同様に、新型コロナウイルスも5番目の風邪のウイルスになるでしょう。

 4種類の風邪のコロナウイルスも、最初は今回と同じような感じで流行したと考えられます。いまはこれらのウイルスに対し、ワクチンを打ったりしないのと同様、多くの人が経験してしまえば、ワクチンを打つ必要もない病原体になるのではないかと思います。

 PCR検査が存在しなければ、「今年は高齢者を中心に、肺炎で亡くなりやすい風邪が流行しているな」という程度のものだったでしょう。そして、感染した多くの人に免疫ができるので、次の年からはそういう事態に至らないわけです。

 大事なのは、新型コロナウイルスを特別なものだと思いすぎないことです。インフルエンザも、検査ができなかった時代は、夏も感染するとは思わず、「夏風邪」と呼んでいました。ノロウイルスも、「インフルエンザが腹に入った(ストマック・フルー)」と言っていたくらいです。今回の騒ぎは、検査方法が進歩したことの功罪です。

〈とはいえ、現在、感染力の強さや、インフルエンザとくらべた際の致死率の高さを懸念する声もあるが――。〉

 たしかに新型コロナウイルスは、感染者数が増えやすいという点で、言葉は悪いかもしれませんが、よくできたウイルスです。実は致死率が低く、そのことと感染力が並び立っているところがポイントです。

 致死率が低いことは、病原体にとってもメリットがあります。感染した対象が亡くなれば自分も死んでしまうので、致死率は低く抑えて感染力を維持したい。

 その点、新型コロナウイルスには感染しやすい性質もあります。感染者がウイルスを外に排出するピークが、発症から10日目くらいだったSARSやMERSに対し、発症後数日がピーク。これはインフルエンザに似ています。しかも、無症状の感染者も、症状がある人と同程度の量のウイルスを排出するというデータがあります。

 ですから、1人の感染者が直接何人に感染させうるか、平均人数で示した「基本再生産数」は、2・5〜2・6。麻疹(はしか)の18や風疹の5にくらべれば低いものの、季節性インフルエンザの1〜2よりは高めです。

 ただし、潜伏期間はインフルエンザが1〜3日ですが、新型コロナウイルスは5日程度と長い。したがって最終的には、インフルエンザのほうが流行のスピードは速くなります。

 致死率は、0・02程度といわれる季節性インフルエンザより高いとされています。中国で3・9%、日本で1・4%程度といわれますが、症状が軽く、診断されていない人は少なからずいるはずです。診断が進み、感染者数が実態に近づいてくれば、致死率も下がって、季節性インフルエンザと同程度になるのではないかとみています。

子どもに感染しにくいのに

〈日本では、PCR検査がなかなか進まないことに対し、不満や批判が根強いが、その点はどうだろうか。〉

 片っ端から検査することには、問題点が多い。無症状の人にまでPCR検査をすると、陽性でないのに陽性と判定される偽陽性の数も増えます。その人たちが入院すると、感染者と同じ病棟に入れられ、そこで本当に感染して発症する危険が生じます。

 なにも症状がない人の検査は意味がありません。安心したいがために検査して陰性だったとしても、翌週には感染しないともかぎりません。すると、毎週検査を繰り返すのでしょうか。

 せきなどの軽症で済んでいれば病院に来る必要もありません。仮に感染していても、ウイルスが出なくなるまで2週間程度、自宅待機すればいい。軽症者まで入院させていたら、重症者のための病床が足りなくなってしまいます。

 また、いま、手術用のマスクさえ足りなくなりつつあります。新型コロナウイルスへの過剰な対策によって医療資源が消耗するというデメリットが現われているのです。

 そうは言っても、気をつける必要がないわけではありません。今回、亡くなる人は高齢者や持病がある方がほとんどで、そういう集団にウイルスが入り込めば、大変なことになります。

 風邪でもインフルエンザでも、高齢者がかかると重篤化するリスクがありますが、今回のコロナウイルスは新型。すでに高齢になっている人にも免疫がないから危険なのです。

 一方、若い人は症状が軽く済むケースが多く、一度かかれば免疫ができるので、その人たちが高齢になっても、今回のウイルスはさほど怖くないでしょう。

 高齢者は、言葉は悪いですが、普段かろうじて生きているという面があるので、一つのダメージが連鎖を起こしやすい。そういう意味では、高齢者と持病がある人、妊婦にターゲットを絞った感染対策を行ったほうがいいと思います。マスクもそういう人たちにこそ、行き渡らせるべきです。

〈逆にいえば、若い人への対策、ひいては学校への休校要請は、過剰な措置だということか。〉

 一斉休校については、新型インフルエンザの際にCDC(米疾病管理予防センター)が発表したガイダンスで、「学校閉鎖はパンデミックの厳しさに基づくべきだ」とされています。09年の流行当初、メキシコで死亡率が高く学校閉鎖が推奨されました。しかし、重症度が高くないと推定されると下方修正され、罹患した生徒の同定と隔離が徹底されました。

 たしかに、致死率が高ければ、休校措置もやむをえませんが、今回のように致死率が低いとわかっても休校を続ける理由があるのか、疑問です。しかも、今回は子どもに感染しにくく、重症化もしにくいことがデータで示されています。

 一方、休校にはデメリットもあります。先日、医学雑誌「ランセット」に掲載された論文によると、学校が閉鎖されると身体やメンタルに負の影響が与えられるといいます。テレビやパソコンを見る時間が長くなり、睡眠のパターンが不規則になり、好きなものばかり食べるようになって、動かないので心肺機能も落ちる。外に出ないのでメンタルが落ち込む。

 しかし、こうした問題への対策を講じる前に、これらに気をつけるという啓蒙もないまま、休校が要請されてしまいました。

 学童保育は開いているのも矛盾しています。政府の狙いは、子どもたちが集まらないようにすることなのに、密集度が学校より高い学童保育は許され、そこでは学習機会はあまり提供されない。奪われたものが大きすぎます。

 また、今回は子どもに感染しにくいので当てはまらないかもしれませんが、新型インフルエンザのときは、学校が閉鎖されたので子どもの面倒を見る高齢者に子どもから感染し、高齢者の死亡率が上がったというデータもあるのです。

(2)へつづく

「週刊新潮」2020年3月19日号 掲載