「見えざる敵」に苦しめられているのは、ウイルスに感染した患者だけではない。多くの企業が業績不振に喘ぎ、株式市場は青息吐息。いつ終わるとも知れない疫病ショックに加え、安倍政権の肝煎り政策による新たな「危機」が、庶民の生活に大打撃を与えようとしている。

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 新型コロナウイルスの感染拡大で、金融市場は目下、全く先行きの見えないパニックの只中にある。

「1月半ばに2万4千円の大台を突破したばかりですからね。その2カ月後に下落率が3割を超える大暴落に直面するとは……。相場格言の“上げ百日、下げ三日”を地でいく衝撃的な展開です」(経済部記者)

 ダウ平均株価が乱高下を続けるアメリカでは、16日にFRBがゼロ金利政策に踏み切った。日経平均株価は1万7千円台で踏みとどまったものの、

「これが“大底”ではなく、第2波、第3波が襲来する危険性は否定できません」

 ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミストの上野剛志氏はそうクギを刺す。

「各国が入国制限をかけているため経済は分断され、悪化の一途を辿っています。FRBが利下げしても感染が拡大している最中では焼け石に水。新型コロナへの不安が払拭されない限り、資金があっても投資に向かうとは考えづらい」

 それに加えて、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は、

「東京五輪が中止に追い込まれれば、日経平均が1万5千円台まで下がる可能性も否定できません」

 さらに、為替については、

「直近でも1ドル=101円台まで円高が進んでいる。アメリカがゼロ金利政策に移行して量的緩和策まで打ち出した以上、五輪中止となれば100円割れも有り得るでしょう」(同)

 他方、経済評論家の藤巻健史氏の分析によると、

「今月12日にはリスクの高い株や仮想通貨だけでなく、金などの安全資産も売られていた。金融市場は、あらゆる資産が売られる“現金化”のステージに突入したと考えられます。私なら今こそ保険の意味で“有事のドル”を買います」

 シグマ・キャピタルチーフエコノミストの田代秀敏氏は、このところ〈キャッシュ・イズ・キング〉という言葉を耳にするという。

「要するに、現金だけ持ちたいということ。日本の株式市場は壊滅一歩手前です。今月6日時点で東証1部上場企業の56%の株価純資産倍率(PBR)が1を下回った。PBRが1より小さいと、企業の将来利益が純資産の価値を下回ると株式市場で評価されていることになる。トヨタやNTTを含む多くの企業の稼ぐ力に疑問符がついているのです」

 株価のみならず、企業の業績悪化も著しく、新型コロナに関連する“倒産”は9社を数えるという。帝国データバンク東京支社情報部の赤間裕弥部長が言う。

「倒産理由としてはインバウンド需要の低下だけでなく、日本人の自粛ムードによるところも大きい。リーマンショックでは金融システムが混乱に陥りましたが、今回は経済を動かす“人の動き”が止まっている」

 桜満開の季節を目前に、日本経済は“厳冬”に逆戻りした感がある。

 しかも、問題はコロナ禍だけに留まらない。

「日本の一般家庭は今年4月以降、さらなる打撃に見舞われようとしています」

 そう警鐘を鳴らすのはファイナンシャルプランナーの深野康彦氏である。

 新聞・テレビではほとんど報じられないが、実は、来る4月以降、国民の財布を直撃する“制度改正”が目白押しなのだ。その背景には、安倍政権が推し進める「働き方改革」が暗い影を落としていた。

 安倍総理は3年前、過労やパワハラが原因で自殺したとされる電通の新入社員・高橋まつりさんの母親と面会。働き方改革を「何としてもやり遂げる」と涙ながらに語った。

 無論、まつりさんの悲劇が繰り返されてはならない。が、その一方で、働き方改革は、安倍政権による“世論を意識した人気取り”との声が少なくないのも事実だ。それが庶民のクビを絞める結果をもたらすとしたら皮肉と呼ぶ他なかろう。

「手当」も「残業代」も

 家計を襲う「4月危機」のリスク要因に挙げられるのは、まず“同一労働同一賃金制度”の施行だ。

 働き方改革の一丁目一番地とされるこの制度は、正社員と非正規社員の不合理な待遇格差を禁じるという趣旨で、新年度から“大企業”に導入される。

「人件費の高騰に喘ぐ多くの企業では、賃金の引き上げは困難。そこで正社員の収入を減らすことで格差をなくす企業が多いと予想されます。その際、メスが入るのは正社員に手厚い各種の“手当”です」(深野氏)

 すでに日本郵政は“住居手当”を段階的に廃止する方針を発表。他の企業がこれに追随し、住居手当以外に、家族手当や扶養手当に波及する懸念もある。

 さらに、過労防止のための時間外労働の上限規制、いわゆる「残業規制」が4月から中小企業にも適用される。

 大企業では昨年4月の「働き方改革関連法」の施行と同時にこの制度が導入されたが、

「この制度によって、繁忙期でも年間720時間を超える残業ができなくなります。いくつかのシンクタンクの試算では、仮にこの上限規制が全企業に適用されると、残業代が年間8兆5千億円減少するとされる。正規・非正規を合わせた日本の全給与所得者は約5911万人なので、ひとり当たり年間14万円の減収となります。共働き家庭なら家計のマイナスは2倍の約28万円にのぼる」(同)

 およそ9兆円の残業代が失われ、一家の財布から大卒者の初任給以上の手取りが消し飛ぶ計算だ。

 これはあくまで平均であり、失われる残業代がもっと深刻なレベルに達する家庭もあるだろう。

 同時に、コロナ禍の影響でボーナスも危険視される。

「大企業の社員は年収の3割弱をボーナスが占めています。今夏は持ち堪えても、冬のボーナスには悪影響が及びかねない」(同)

 住宅ローンはもちろん、子どもの学費や保険料の一括払いでボーナスを当てにしている家庭は、大幅な生活設計の見直しを迫られる。

 また、キャッシュレス決済によるポイント還元も6月30日に終了。最大5%のポイント還元を受けられるこの制度は、消費増税の“目くらまし”として一定の効果をあげてきたが、それも3カ月余りを残すばかりだ。

 令和2年度の幕開け早々、家計が多重苦に苛まれるのは火を見るより明らか。

 働き方改革の影響で手取りが削られ、冬のボーナスも半額にカットされると、

「最悪の場合、年収が1割近く減ることも。500万円の年収が450万円になると、たとえば、貯蓄に回していた50万円がなくなり、カツカツの生活だった家庭では一気に赤字へと転落してしまう」(同)

 大企業では「残業規制で手取りが月4万〜5万円減った」と話す営業職社員もいる。ボーナス減と合わせて年間100万円の収入を失うケースも珍しくないのだ。

 安倍政権による人気取り政策が、コロナ禍に喘ぐ国民生活により一層の負担を強いるのであれば、もはや“人災”の誹りは免れまい。

「週刊新潮」2020年3月26日号 掲載