コロナのおかげで忘れられた存在となっても、日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告(66)が犯した罪が消えるわけではない。世紀の逃亡劇から4カ月。日本政府は彼とキャロル夫人を探し求め、レバノンを訪問し交渉を重ねている。

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 本来なら、今月下旬にもゴーン被告の初公判が行われる予定だったという。

 司法担当記者によれば、

「国外逃亡で裁判は中断となってしまいましたが、東京地裁は来年夏頃を目途に判決を下すべく、審理を進めていたのです」

 今年2月には、日産がゴーン被告を相手取り、100億円もの損害賠償を求めて民事訴訟を起こしたが、集団感染を防ぐ観点から裁判は延期となっている。

 元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏が言う。

「本来、裁判の進行は“鉄は熱いうちに打て”という言葉の通りで、早ければ早いほどいい。判決に時間がかかると、事件に対する国民の記憶も薄れ、仮に有罪であっても判決に対する『感銘力』も下がってしまう。おまけにコロナの影響で世間の厳しい目も注がれなくなれば、ゴーン被告にとっては好都合。猶のこと自由気ままに過ごすことができてしまうわけです」

 東京地検特捜部は、国際刑事警察機構を通じてゴーン被告を国際手配したが、逃亡先のレバノンは事実上、身柄引き渡しを拒否しているのだ。

 そもそも、ゴーン被告は何処でナニをしているのか。その近況は、3月27日付の豪州の日刊紙「The Aus­tralian」に掲載されたインタビューで窺い知ることができる。

 同月3日、レバノンの首都ベイルートで取材に応じたゴーン被告は、スキーで雪焼けした赤ら顔を晒しながら、“事件は日産と日本政府による陰謀だ”との主張を繰り返したのである。

 だが、批判された日本政府も手をこまぬいているばかりではない。件のインタビュー前日、あの“ヤンキー先生”こと義家弘介法務副大臣と法務省の担当官たちが、このコロナ禍の中、レバノンを訪れたのだ。

“無理だ”

「現地では、義家副大臣とレバノン政府の司法大臣が1時間、そこにアウン大統領が加わり30分、計90分ほどの会談を行いました」

 と明かすのは、交渉の経緯を知る法務省関係者。

「身柄を求める日本側に対しレバノン政府は頑なで、自国民を引き渡す法律がないことを盾に、“無理だ”の一点張りでした。その一方、国内はデフォルト、ドル建ての国債を返すことができない状況にある。そんなレバノンへ、日本政府はODAを含め1千億円規模の経済支援をしており、今回の補正予算でも追加している。そのことを材料に交渉を続けると、向こうの態度も徐々に軟化。最後は“交渉を継続していく”というところで落ち着きました」

 現地では、ゴーン被告とて完全に“自由の身”ではないとして、こう続ける。

「ベイルートにあるゴーン被告の豪邸は日産が購入したため、日本から返還訴訟を起こされています。レバノン国内の政情不安でしばらく停止していましたが、先ごろ再開されました」

 訪問が効いたからか、辛うじて“ヤンキー先生”の面子は保たれたが、勝負はこれから。

「週刊新潮」2020年4月30日号 掲載