私はこうしてコロナから生還した(後編)

 いまのところ、コロナに有効な治療薬やワクチンは存在しない。病院でも咳には咳止め、高熱が出れば解熱剤を処方するなど、対症療法を施す以外に手立てはなく、最後は患者自身の回復力だけが頼りとなる。

 そうしたなか、数少ない希望の兆しといえそうなのが、抗インフルエンザ薬“アビガン”の存在だ。

 まだコロナの特効薬と言い切れる段階ではないが、都内に住む50代の会社員男性は、その劇的な効果に目を見張ったという。

「私は3月末に体温が38度を超えて自宅にこもったのですが、その後も熱は下がりませんでした。いくつかの病院を回ったものの、PCR検査は受けられずじまい。ただ、大学病院でレントゲンとCT検査を受けたところ、肺炎症状が確認され、ようやくPCR検査を受けることができました。結果は陽性で、4月に入ってからこの大学病院に入院。その頃には40度近い高熱が続いて、意識が朦朧とすることもあった。医師からはまず、マラリアの薬を投与されたんですが、一向に熱と下痢が治まらない。次に処方されたHIV(エイズ)の薬も私には合わなくて、下痢の副作用が酷かった。そして、入院から5日後に投与された薬がアビガンでした。効果はすぐに現れ、投薬初日に下痢が止まり、熱も一気にひいた。これには驚きましたよ。最初は朝晩9錠ずつの服用だったので、その量の多さにも面喰らいましたけどね」

 アビガンを飲む前には、こんな説明があったそうだ。

「医師からは下痢や尿酸値の上昇といった副作用を告げられ、同意書にサインをしています。最大の副作用とされる催奇形性(さいきけいせい)、つまり、妊婦や子どもを作りたい男性が服用すると胎児に奇形が起こる可能性についての説明はなかったですね。ただ、私は痛風持ちなのでアビガンを飲んで尿酸値が上がり、見事に痛風の発作が出てしまった。まぁ、それは別の薬で抑えたので問題ありませんでしたが」

「まさか自分が…」

 ここで、もう一点だけ重要なことを付け加えたい。

 それは、今回、証言を寄せてくれた生還者たちが感染対策に無頓着だったわけではなく、むしろ“3密”を避けるべく自粛を心掛けていたという事実だ。

 退院に至るまでの経緯を“ふあんくん”のハンドルネームでSNS上に発信してきた男性(39)も、

「最近の海外渡航歴もないし、政府や都の方針に従っていたので、感染が確認された時は“まさか自分が……”という感じでした」

 と語る。彼の場合は、

「4月の初めに39・6度の熱が出たので、慌てて病院に駆け込んだのですが、“扁桃炎かもしれない”と言われて経過観察に。ただ、コロナに感染した阪神タイガースの藤浪晋太郎投手が嗅覚障害を訴えていたことを、帰宅後に思い出したんです。そこで冷蔵庫にあった納豆を鼻に近づけたところ全くの無臭。病院に改めて連絡してPCR検査を受けることになりました」

 同じように、

「いつ、どこで感染したのか全く見当がつきません」

 と言うのは、コンサルティング会社「Globality」CEOで、都内在住の渡辺一誠さん(40)である。

 彼の闘病もまた壮絶で、

「ピークの頃は解熱剤を飲んでも40度近い熱が全く下がらず、一度咳き込むと堰を切ったように空咳が続くので、全く眠れませんでした。過去に経験したインフルエンザの30倍くらい苦しかった。ポカリスエットの味が微かに感じられるようになったのは発症から9日目のことです」

 仕事は基本的にオンラインで、取引先と会うのも週に1回程度。普段は電車にも乗らず、“3密”とされるライブハウスやクラブを訪れることもなかった。

「プライベートでは特定の友人としか行動しません。もともと潔癖気味なのでエレベータのボタンも素手では触らない。そんな私が感染した以上、誰が感染しても不思議はありません。決してコロナ感染を他人事とは思わないでほしい」

 もはや誰もが明日の患者になり得る。もし、“その時”が来たら、生還者の証言を思い出してもらいたい。

「週刊新潮」2020年5月7・14日号 掲載