ニーチェ曰く〈事実なるものはなく、あるのはただ解釈のみ〉。至言である。森羅万象、立ち位置によってものの見え方は変わる。とはいえ、世には「絶対的な悪」というものも存在する。人を殺してはならないし、性犯罪は卑劣だ。悪いのは加害者で、守られるべきは被害者である。性犯罪者へのGPS装着。当然だ。

 遅きに失したとはいえ、ようやく政府が性犯罪対策の強化に乗り出した。今月11日、関係府省会議が、仮釈放中の性犯罪者に対してGPS(全地球測位システム)機器の装着義務化を検討する方針を決定したのだ。

 これまで「人権派」により、GPS装着は加害者の人権の侵害だとして阻まれてきた。しかし言わずもがな、守られるべきは性犯罪の被害者および被害者予備軍、すなわち市井に暮らす我ら庶民の人権のほうだ。それこそ「絶対」である。

「やはりGPSは装着すべきだと思います」

 こう真っ当な主張をするのは、性犯罪被害に詳しい上谷さくら弁護士だ。

「加害者心理の面から見れば、『もし再犯したらバレる確率が高いからやめよう』という抑止的効果を生むでしょうし、被害者や、今後被害に遭うことを心配している人にとっては大きな安心材料になります」

 被害者学の泰斗として知られる常磐大学元理事長の諸澤英道氏が続ける。

「今まで多くの国連会議や国際学会に参加してきていつも思うのは、日本は本当に加害者の人権を大事にする国だなということです。世界で最も加害者の人権を尊重する国かもしれません。他方、さまざまな資料が物語るように、日本は先進国の中で最も被害者の人権が守られていません。その意味で、GPS装着を制度化するのは一歩前進です」

 事実、すでに海外では「実績」もあがっていて、2008年にGPSの装着が始まった韓国を見ると、その後、再犯率が実に8分の1に下がっている。

鍵を握る財務省

 それでもなお「人権派」の金切り声が聞こえてきそうだが、先の上谷氏曰く、

「他の犯罪と比べても、性犯罪は加害者自身が気合いや根性ではやめられない傾向が強い。『やめたい』と思いつつ、依存症的に性犯罪を繰り返してしまう人もいます。再犯して刑務所に戻ることになれば、それは加害者にとっても不幸なこと。性犯罪の再犯という悪の循環を断ち切ることは、被害者はもちろん加害者のためにもなるのです」

 ノンフィクション・ライターの河合香織氏が後を受ける。

「私が取材した性犯罪者は、『また必ずやってしまう』『GPSを着けてほしい』と、本人が強く望んでいました。実際その性犯罪者は、近所のプールに行って『物色』している自分を抑えることができずに困っている様子でした」

 最後に上谷氏が力説する。

「GPS装着を『検討』で終わらせてはいけません。今回の動きは非常に良いことだと思いますが、残念ながら関係府省に財務省が入っていません。対策強化にはお金がかかります。ぜひ、財務省にも関心を持ってほしいと思います」

 性犯罪は絶対悪。これだけは「事実」である。

「週刊新潮」2020年6月25日号 掲載