ゴミを漁る、人を襲う、凶暴、鳴き声がうるさい、ずる賢い……。真っ黒で、宗教的にも禁忌。世間では害鳥扱いされているカラスは、負のイメージがつきまとう。そんな先入観を覆したのが、東京大学総合研究博物館の松原始特任准教授だ。『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』(山と渓谷社)を出版。都会では、何かと評判の良くないカラスについて聞いた。

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 東京都は、カラスによる被害を防止するために、2001年度から対策を講じている。捕獲したり、巣の撤去を行ったりした結果、都内で01年に3万6400羽いたカラスは17年に8600羽まで減ったという。都庁に寄せられたカラスへの苦情も02年に3820件だったのが、17年には227件まで減っている。

「なぜそんなにカラスが嫌われるのか、理解できません」

 と語るのは、松原氏。専門は動物行動学である。

「カラスと目が合うと襲われると言われています。しかし、決してそんなことはありません。目を合わせると襲われるのは、サルやクマです。彼らの間では、目を睨みつけるのは喧嘩のサインだからです。カラスと目を合わせると、ソワソワと向きを変えるか、飛び立ってしまいます。人間と喧嘩する理由がないからです。カラスが人を襲う時は、雛が近くにいる時だけです。カラスの巣立ちは5月から6月にかけて。雛は巣立っても数日間は飛ぶのが下手で、地面でよちよち歩きをしています。そこへ人間が近づくと、雛を守るために襲うのです」

 カラスは、バードウォッチングの対象としては最高の鳥だという。

「スズメなどは、観察しようとしてもすぐに飛んで行ってしまいますが、カラスは一カ所に長く居るので観察しやすい。よく見ると、カラスは漆黒ではありません。濡れ羽のカラスは紫と青、緑のグラデーションです。綺麗ですよ。目もつぶらでかわいいですね」

絶妙にまぬけ

 予期せぬ行動をとることも……。

「非常に面白い行動をします。電柱に止まっていると、何を思ったのか、クリンと逆さ吊りになることもある。なんの意味があるのか理解できません。そしてしばらくすると、またクリンと逆上がりをして元に戻ります。カラスは観察されることを嫌がるので、木の枝などに隠れようとします。ところが自分では隠れたつもりでも、頭隠して尻尾隠さずで、尻尾が枝から出ているのです。カラスはもう見てないだろうと思って顔をだすと、私と目が合ってびっくりしています」

 一般的には、ずる賢いとよく言われるが。

「カラスは知能が高いと言われています。2年前、東京の錦糸町の駅で、カラスが券売機の前にいた人からSuicaを取り上げ、券売機に差し込もうとしていたことが報じられました。“賢すぎる券売機カラス”と話題になりました。確かにカラスは知能が高い。数も7つまでは数えられるそうです。ところが一方で、マヌケな面もあります。エサをくわえて飛んでいるカラスを観察していたら、他のカラスがやってきて“カァー”と鳴くと、つられて“カァー”と鳴いて、エサをポロリと落とすこともあります」

 カラスとハトはどっちが賢い?

「動物の認知能力を調べるのに、鏡像認知があります。鏡を見せて、映っているのが自分だとわかることです。ハトは、なにも考えずになんでもつつくという行動のせいで、賢く見えません。しかし、鏡をハトの前に置くと、多少時間がかかりますが自分だと認知します。ところが、ハシブトガラスに鏡を見せるとものすごい勢いで鏡に映る自分に喧嘩を売ります。カラスはバカなのかと思ってしまいますね。カラスの知能からして、自分だと認識してもおかしくありません。でも彼らは縄張り意識が強いので、自分だと認知する前に頭に血が上って攻撃してしまうのでしょう」

 カラスは意外にもきれい好きだという。

「ゴミを漁るので不潔なイメージがありますが、エサをつついた後は必ず嘴を止まった電線や枝などにこすりつけます。何度も執拗に嘴を磨くのです。それから毎日、水浴びもします。最初に水たまりに顔を突っ込んで嘴を洗い、それから体を洗います。朝昼夕と一日に3度洗うカラスもいます。人間よりきれい好きですよ」

 カラスのペアは仲がいい。

「カラス以外の鳥は、ペアになっても長続きしません。すぐに別れて、別の鳥と一緒になります。ところがカラスは、ペアになると長くその関係を続けます。カラスのペアは仲がいいのです。オスのカラスがメスに求愛するときは、エサをくわえてメスに与えます。でも、そのオスを気に入らなければ、メスはプイっと横を向いて拒否します。ペアの間に雛が誕生すると、メスが雛を温めます。雛は生まれた時は毛も生えていないので親鳥が2週間ほど温めないと凍え死んでしまいます。メスがいないときに急にひょうが降り出した時、オスが羽を広げて巣に覆いかぶさり、雛を守ったのを見たことがあります。本来は優しい鳥なんですよ」

 ゴミを漁るのは、カラスだけではない。

「ゴミ漁りイコールカラスとみんなが思っています。でもカモメもゴミ漁りの常習犯です。東京湾の夢の島にゴミを埋め立てていた頃、島はだいたい白、ところどころ黒だったそうです。白はカモメが群がっているからで、黒がカラスです。カモメは他の鳥の卵や雛を貪欲に食べます。カラスと同じことをやっているのに、カラスのように嫌われません。海辺でもカモメにはパンを投げてやるのに、カラスは追い払われています。『カモメの水兵さん』なんて歌もある。これって見かけで差別していませんか。でもよく見ると、カモメって目つきが悪いですよ」

 山の中のカラスは、街中のカラスと違うという。

「山でカラスを観察したことがあります。が、街中のカラスのようにガーガー鳴いたりしません。すごく静かなので、見つけるのが難しいですね。都会のカラスがうるさいのは、人間や車、電車など、刺激のあるものが多いからでしょうね」

週刊新潮WEB取材班

2020年6月29日 掲載