マッチングアプリを介して男女が出会ってその日のうちに……というのは近年のトレンドとなってきたものだが、コロナ禍で自粛ムードの中、意外な「新しい生活様式」も生まれつつあるようだ。ルポライターの安田峰俊氏がマッチングアプリのヘビーユーザー・30歳男性に取材し、リポート。「彼を通り過ぎて行った女たち」から見えてくるものとは?
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 新型コロナウイルス流行にともなう外出自粛ムードはいまなお続き、世間は第二波の到来に怯える日々だ。多くの人の趣味や生活様式は一変し、不要不急の行動を手控える動きが広がる。

 私はこれまで、コロナ禍のなかでの性産業従事者やネットカフェ難民の素顔にスポットを当ててきた。さらに今回調べてみたのが、「不要不急」の最たる行為である不純異性交遊はコロナでどう変わったかである。

 知る人ぞ知る話だが、ここ数年、世間ではスマホの位置情報を反映して近所の異性と手軽に知り合えるマッチングアプリが流行し、一部の無軌道な若者の間で人気を博している。

 なかにはアプリで出会った男性とその日じゅうに、金銭的対価どころか恋愛感情すら介さずに不純異性交遊に応じる若い女性もいる──。と書くと怪しげなアフィリエイト広告のようだが、そういう世界は現実に存在する。

 コロナ流行の非常事態下でもなお、不謹慎な遊びに興じる無軌道な若者たちの実態は、いったいどうなっているのか。以下は私が取材した、2020年の出会い行為のリアルである。

清潔感が服を着て歩くようなアプリナンパ師

 取材に応じてくれたのは現在30歳の男性である。学歴は有名私大卒、現在の職業は団体職員で、年収はおよそ550万円。チャラさはまったくなく、適度に筋トレした肉体とやや日焼けした甘いマスクという、清潔感が服を着て歩いているような爽やかな青年だ。しかし、その正体はマッチングアプリのヘビーユーザーである。

 彼は人気アプリ「P」と「T」を使用し、1ヶ月あたり2〜3人程度と会い、そのうち1人くらいと当日に合意の上でベッドインしている。本人いわく「打率は全盛期のイチローといい勝負」だという令和の安打製造機だ。以下、インタビュー形式で紹介しよう。

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──まず、イチローさんが会っている異性について教えて下さい。

イチロー: 年齢はおおむね23〜27歳くらい。アプリ上でマッチしてから、会話がちゃんと成立する相手としか会わないこともあってか、実際に顔を合わせた女性は、大部分が大卒で普通に働いている人ですね。

──実際に会った相手の写真を見せください。ええと……。うわー、みんなかわいい。職場のアイドルみたいな人ばっかりじゃないですか。なんでこんなに魅力的な女性が、行きずりの相手とそんなことを。

イチロー: 遊びたくて、暇つぶしで登録している人がけっこういるんです。これでも最近、変なまとめサイトなんかでマッチングアプリが紹介されたからか、まともな人は減っているんですけどね。

──イチローさんは、同年代の平均と比べるとルックスや学歴などのスペックが恵まれているほうです。でも、アプリで会う彼女らは長期的な男女交際を期待しているわけではないと?

イチロー: マジで恋愛したい人は、アプリ上での会話の段階で「切る」ようにしています。遊び相手を見つける場から本気の恋愛に発展するのは、お互いに不幸ですからね。

令和の安打製造機、語る

──アプリで出会うに至るまで、何人くらいと連絡するものなんですか?

イチロー: まず、一般的なマッチングアプリは、スマホの画面に表示された異性のプロフィールが気に入れば右にスワイプする。相手側も自分を右にスワイプしていれば、お互いに気に入ったということでマッチング(※お互い連絡を送り合える状態)が成立します。

 僕の場合、流れとしては、1ヶ月あたり50〜60人とマッチして、お互いちゃんと自己紹介ができるのはその半分、実際に会うのはその1割って感じです。顔を合わせるところまでいったら、そこからベッドインまでは早いですね。

──過去数年間、マッチングアプリで遊んできたと聞いています。コロナ流行後に変化はありましたか。

イチロー: コロナ前と比べると、「声を聞きたい」「電話だけでいいから誰かと繋がりたい」みたいな理由でアプリを使っていると話す人が増えた印象です。実際に会うとやれる点では同じなのですが、動機に変化が見られます。

 仕事が減ったり出勤回数が減ったりして、みんな心理的に不安なんですよ。理性的に考えれば、マッチングアプリで新しい男と会って濃厚接触する行動なんて不合理極まりないはず。でも、不安やさみしさを埋めたい心理が先立つのではないでしょうか。

隅田川で確立した「新しい生活様式」

──イチローさんの側は、コロナ流行後に行動変容はありましたか?

イチロー: 4月ごろは外食する店が開いていないことが多かったので、相手と会ってから食事よりも散歩が増えました。「隅田川を一緒に歩こうよ」みたいな。これは意外にサプライズになるらしくて好評です。

隅田川を歩いて、なんとなくお互いに手を握って、コンビニで檸檬堂(缶レモンサワー)を買って、自分の家か相手の家でやる。この流れがコロナ流行下の基本パターンです。

──アプリで出会う相手と隅田川を歩き、お酒は家で檸檬堂。こんなところにも新しい生活様式が。

イチロー: あと、夕方の隅田川で相手といい雰囲気になったときに「そろそろマスク取った顔を見たいなー」とかですね。そこで相手の唇に人差し指で軽く触ると意識してくるので、そっとキスに持っていく流れです。

──実に手慣れていますね……。ほかには?

イチロー: 待ち合わせ場所に車で迎えに行くことが増えました。

──公共交通機関の利用を避けつつ、都心で自家用車を所有している経済力を見せると?

イチロー: いやいや(笑)。いま、某大手カーシェア会社がコロナ応援企画で、夕方6時から翌朝までのナイトパックを全クラス一律で500円くらいに設定しているんです。これを使います。

 都内だと、待ち合わせの場所にいきなり自動車で来たら、けっこうサプライズじゃないですか。もちろん、理由を尋ねられたら素直に「500円のカーシェアだよ」ってバラすんですが、ちょっとウケるし話のきっかけになりますよね。

守護神・檸檬堂まで継投すれば勝てる

──緊急事態宣言の時期に会った相手の、具体的なエピソードも教えてください。

イチロー: 1人目は埼玉県の歯科助手34歳です。普通、女性は30代になると遊び目的のアプリでも結婚願望を出す方がいるので、相手のためにも避けているんですが、彼女はアプリ上で「いますぐ結婚する気はない」にチェックを入れていたのでOKということで。流れのパターンは隅田川と檸檬堂でした。

――隅田川からの流れ、中継ぎから守護神に交代する鉄壁の継投術みたいだ。2人目は?

イチロー: 2人目は26歳、都内で不動産関係の仕事をしていた方です。転職直後にコロナ流行が起きたみたいで、業務の引き継ぎに支障が出て不安だったようです。こちらも隅田川から檸檬堂(以下略)。

──檸檬堂めちゃくちゃ強いなあ。

イチロー: 最後に自宅でベッドインする気なら、檸檬堂は500円カーシェアとも相性がいいです。あと、僕は料理ができるほうなので「家でごはん作ってあげるよ」みたいなのも効きますね。女性たちがアプリで男性を探す本当の動機は、寂しいとか楽しみたいとか。でも、女性の顔を立てるためになんらかの「言い訳」があったほうがいいんです。

「意識高い系」はダメだ

──たとえイチローさん本人がイケメンだとしても、会う前の段階では写真と文字情報だけのやり取りですよね。仮に私を含むその辺のおっさんが同じことをやっても、「檸檬堂」どころか実際に会ってデートする段階まで進めないと思うんですよ。心がけているコツはありますか。

イチロー: アプリのプロフィール作りの時点で勝敗はかなり左右されます。清潔感があって、アウトドア系で、ちょっと抜け感というか安心感があるプロフを心がけていますね。僕のプロフ見てみてください。

──ほんとだ。お祭りでハッピを着て神輿を担いでいる写真とかを載せているのは戦略なんですね。やや無個性な自己紹介文も、ハッピ姿の爽やか青年の写真と組み合わされることでがぜん活きてきます。

イチロー: プロフやその後のやり取りでいちばんダメなのは、最初から性的な関係を露骨に匂わせたり、一定の信頼関係が構築できていないのに「飲みに行こう!」みたいに誘ったりすることです。

──なるほど。

イチロー: あと、自慢とか知識マウントもよくないですね。ダメな男は、投資銀行やコンサル・総合商社勤務みたいな業界自慢をしたり、肩書を振りかざしたり、筋肉自慢をするんです。

──意外だ。女性にモテそうなプロフって、経歴に元ゴールド●ンサックスとかハーバードMBAとか適当に書いて、半裸にマッスルポーズで札束風呂に入った写真を掲載するとか、そういうのじゃないんですか?

イチロー: いろんな意味で最悪です。女性が男性に求めるものは、まず清潔感。あとは共感力とワクワクさせてくれるか(≒意外性)であって、ドヤ顔で「俺スゲエ」って威張ってくることじゃないですから。

韓流ドラマと「テラハ」を見ろ

──なるほど。NG事項はわかりましたけど、それだけでモテるとは思えません。イチローさんが日々、訓練していることってないんですか?

イチロー: アメリカのラブロマンス映画や韓流ドラマを見まくると、日本人女性のニーズが見えてきます。特に韓流ドラマは日本人男子がモテる上での示唆に富んでいると思いますよ。

──別に本気で恋愛する気はなくても、男性と会っている間は韓流ドラマみたいに扱われたい人は多いわけですね。疑似恋愛的なドキドキはほしい。

イチロー: そういうことです。あとは「テラスハウス」も要研究ですね。

──テラハ。5月に木村花さんの事件で、悪い意味で有名になったリアリティショーですが、あの事件は番組がそれだけ多くの人に見られていたということでもあります。

イチロー: 見ている女性は多いんですよ。基本的にテラハの話題で盛り上がれば、家に呼べるくらいの仲にはなれます。アプリでモテたい人はテラハを全作見て研究するのがオススメです。

ダメな男がなぜダメかを察して、いい男がなぜいい男だと評価されているかの感覚をつかめれば、相手は自然と警戒心を解いてくれます。あとは清潔感をクリアすればいい。

──工作ターゲットが日常的に触れているコンテンツを研究することで、相手の内在的論理をつかむ。スパイがよくやる対外諜報活動の基本ですね。これが、コロナ下でもアベレージを落とさない隅田川のイチローの打撃理論か……。

イチロー: 清潔感、共感力、意外性、そして少しの勢いが大事。これが僕が20代の10年間を通じて得た学びです。

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 やっている行為は最悪なのになんだかとても勉強になってしまったが、不特定多数の人間との濃厚接触はコロナ予防の大敵である。マッチングアプリでデート相手を探す世間の女性各位は、祭りの神輿を担いだ写真をプロフに設定している爽やかイケメンにはよく注意されたい。

安田峰俊
1982年、滋賀県生まれ。中国ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)が第五回城山三郎賞、第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。近著に『移民 棄民 遺民 国と国の境界線に立つ人々』(角川文庫)、『性と欲望の中国』(文春新書)、『もっとさいはての中国』(小学館新書)ほか。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月29日 掲載