この数年、高校や大学などの入試願書や自治体の職員採用試験の申し込みで、性別欄を削除する動きが広まっている。いずれは履歴書からも――。先ごろ、そんな話題が報じられた。

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〈履歴書規格から「性別欄」を削除〉

 7月18日、こんな記事が東京新聞に載った。20日付で毎日新聞も報じている。

 それらの記事が伝えるのは、工業製品の品質基準などの規格をつくっている「日本規格協会」が、履歴書にある性別や年齢、顔写真の欄があった様式例を取りやめた事実。多くの文具メーカーは、協会が作成する様式を参考に履歴書を製造しているのだが、その参考例がなくなったのである。

 きっかけは、記事の見出しにもあるように、〈トランスジェンダーらから差別批判受け〉とのこと。就活時に属性の記載を求めることは差別につながるとの声を集めるべく、労働問題に取り組んでいるNPO法人「POSSE」が署名を募った。6月末までに1万筆以上が集まり、経産省や協会に提出した結果、協会が削除を決めたのだ。

 誤解のないよう記すが、街中で売っている履歴書からすぐに性別欄が消えるわけではない。近いうちに、性別欄に加え、年齢や写真の欄もなくなる動きが広まる可能性があるという話だ。

 紙面で、POSSEの関係者は“採用や就職活動で性別などを問うこと自体がおかしい、というメッセージになる”と語っている。

 だがしかし、実際に履歴書から「性別欄」が消えても大丈夫なのか。安倍政権が掲げる「すべての女性が輝く社会」はどうなるのか。「女性管理職3割」の目標も、達成率が分かりにくくなりはしまいか。そんな違和感が拭い去れないのもまた事実である。

確認の必要が生じる

「率直に言えば、職場は混乱するだろうと思います」

 と、評論家の唐沢俊一氏。

「企業では男女の区別が必要なことは多いと思います。男女ペアに任せたい仕事や、男性または女性だけだからうまく回る仕事もあります。トイレや更衣室といった設備面も、それぞれの性別が何人かを把握する必要がある。履歴書の性別欄を削除すれば結局、“どちらとして扱われたいのか”と確認する必要が生じるのでは」

 この点に、ジャーナリストの徳岡孝夫氏が一言。

「そのような疑問を呈しただけで、近ごろは“不逞の輩”と言われかねない風潮がある。人間の社会はそんなに単純じゃないのにね」

 唐沢氏の話に戻る。

「男女差別やトランスジェンダー差別はよくない。例外を認めるのは大切です。ただ、性別自体を取っ払ってしまうのは凝り固まった考えではないでしょうか。女性は“女性である”ことのアイデンティティを活かして活躍できるようにしたほうがいい」

 そうした方がすべての女性が輝けるだろう。しかし、

「現実的には、ネットには“いいことでないことは絶対悪である”という、相手を悪魔化する風潮を感じます。世の中の主流は実用的な面としての男女の把握を必要としているのですから、そうした風潮をなくし、当てはまらない方々は別個に考えればいい。それぐらいの柔軟性がほしいですね」

 日本規格協会や文具メーカーには、こんな声にも耳を傾けてもらいたいものだ。

「週刊新潮」2020年8月6日号 掲載