自分の名前ぐらい上手く書きたい。現政権が掲げる「脱ハンコ」政策を受け、注目されているのが署名をデザインするビジネスだ。

「前年比2倍の勢いで注文が来ています」

 と語るのは、サインの制作販売を手掛ける「署名ドットコム」の運営統括責任者・古谷智宏氏。同社は平成17年の創業以来、実に10万点以上の署名をデザインしてきたという。

「これまでで一番多いのは、パスポートの署名に使いたいというご注文です。また、会社経営者など社会的地位の高い方々からの注文も多くありました。署名の機会が少なくないだけに、サインが下手では格好がつかないと。一部上場企業のパンフレットなどで、会長さんの名前の脇にサインがあったりしますよね。あの中には弊社がデザインしたものも結構あるんです」

 サインに使う文字は漢字やアルファベットのほか、ひらがな、カタカナも可能。縦書きか横書きかも選べる。

 まずは電話で客の用途を聞き、それに応じたサインを提案。ホームページから正式に注文を受けると、10日から2週間ほどで納品となる。校正段階なら、好みに合わなければ無料でのデザイン修正も可能だ。

「完成後はサインのサンプルをPDFでご提供し、薄墨で印刷された練習帳もお送りします。1枚に30個から40個書けるようになっており、5枚ほど書けば、誰でも自分のサインを自分でできるようになります」

 脱ハンコに合わせて「電子署名」の利用も増えつつある。PDFの文書に電子署名できるソフトも販売されるなど、ますますサインの需要は高まりそうだ。こうなりゃやっぱり「達筆」で署名したいが、気になるのはお値段。

「デザイン料は1点1万円からですが、半数以上の方が『4点セット3万6千円』を選ばれます。漢字でフルネームの横書き、漢字の苗字、英字フルネーム、英字イニシャルの4点というパターンが多いですね」

 中には「どうせ作るのであれば」と「9点セットのフルパッケージ8万円」を注文する人もいるとか。これは縦書きに横書き、実用的で見やすいタイプと速写型の“草書的なタイプ”などを全部盛り込む。

 上に政策あれば、民に対策あり。

「週刊新潮」2020年10月29日号 掲載