前回、5年前は賛成派と反対派が互いにヒートアップする中で投票が行われ、反対多数という結果に終わった。しかし、今回はどうも様子が異なるようである。11月1日に投開票される大阪都構想の住民投票。すでに告示され、期日前投票も始まっているのに、前回の時のような喧噪が全く見られないというのだ。

 大阪都構想は、橋下徹元大阪市長や松井一郎大阪市長が旗揚げした「大阪維新の会」の“一丁目一番地”の政策である。政令指定都市である大阪市を廃止して東京23区のような四つの特別区に再編し、インフラ整備などの権限を大阪府に一元化。子育てや福祉など身近な住民サービスは特別区が担当する。若干の修正点はあるものの、制度設計の基本的なアウトラインは前回とほぼ同じだ。ただし、それ以外の部分で前回と今回では大きな違いがある。前回は大阪市長だった橋下氏が前面に立って支持を訴え、反対多数の場合は「政界を引退する」として背水の陣を敷いた。そのため異様な盛り上がりを見せたわけだが、結果は賛成69万4844票、反対70万5585票。わずかな差で反対が上回り、橋下氏は宣言通りに政界を引退することになった。今回は松井市長と吉村洋文大阪府知事がタッグを組んで支持を訴え、橋下氏はツイッターなどで後方支援するのみである。

 ただし、今回、大阪の街が静かなのは橋下氏の「不在」だけが原因ではなく、

「盛り上がりに欠けるように見えるのは維新の“戦略”です。彼らは、前回は議論が白熱し、最終的な投票率が約66%にも達したために反対票が増えて負けた、と分析している。そこで今回は目立つ街宣などは必要最低限に抑え、戸別訪問などで地道に支持を訴えている。維新ではその手法を『もぐる』と言っています」(大阪府政関係者)

 それが奏功したのか、9月末の時点での世論調査では、賛成が反対を10ポイント以上も上回っていた。10月10日、11日の調査では賛成と反対の差が3・1ポイントまで縮まったが、告示後、10月17日、18日の調査では再び賛成が支持を伸ばし、その差は7・5ポイントとなっている。

「『絶対賛成』『絶対反対』というコア層でみれば、賛成派が反対派を上回り、維新の勝ちとなる可能性が高い。ただ、どちらにも転びかねない低関心層は投票日が近づき、争点が明確になるにつれ反対の側に振れやすくなる。『低関心、無関心層の住民にはこのまま寝ていて欲しい』というのが吉村さん、松井さんの本音でしょう」(同)

政治資金パーティーで赤字

 そもそも前回の住民投票の際、橋下氏は「2度目はない」「これがラストチャンス」と訴えていた。にもかかわらず、なぜ今回、「2度目」が行われることになったのか。

「大阪維新の会は前回、都構想が否決された翌日には府議会の『大阪維新の会 都構想推進議員団』という会派名から『都構想推進』の部分を取るという決断を下しています」

 都構想反対の立場を貫いてきた帝塚山学院大学の薬師院仁志教授はそう話す。

「その約2カ月後、橋下さんは大阪維新の会の会合で『関西州』の実現と『関西維新の会』の設立を目指す、と発言。ところがその1カ月後、橋下さんは『一度の否決が決定的に全てを結論づけるものではない』と再び都構想を目指す考えを示しています」

 わずか3カ月の間に考えをコロコロ変えたのだが、

「結局、維新の会は看板政策が欲しいだけ。『関西州』といった目玉になる政策を模索してみたものの、うまくいかずに都構想に戻ってきたわけです」

 と、薬師院氏。

「そもそも都構想を言い出した2011年の統一地方選で市議会の過半数が取れなかったことを受け、橋下さんは『都構想は一旦白紙に』と言っているんです。そこから党の旗印になる政策を探すも見つからず、結局、都構想しかなかった。維新が“看板政策探し”を始めてもう10年、何も変わっていないのです」

 とはいえ、一旦廃案になった大阪都構想を再び住民投票にまで持ち込むのは並大抵のことではない。それが可能になったのは、維新が大阪での選挙で圧倒的な強さを誇るためである。前回の住民投票の約6カ月後に行われた大阪府知事、大阪市長のダブル選では、松井一郎府知事(当時)が再選、市長選はそれまで衆院議員を務めていた吉村氏が初当選した。その4年後、19年3月には、2度目の住民投票について公明党と協議が決裂したことを理由に、松井氏が市長選、吉村氏が知事選に「入れ替え出馬」するダブル選を仕掛けてまたもや圧勝。今回、公明党が都構想賛成に回ったのは、この時の結果を受けてのことである。

 選挙で圧倒的な強さを誇る維新は、しかし、常に組織として一枚岩であったわけではない。17年、国政政党の「日本維新の会」が衆院選で議席を減らした際、同党の丸山穂高衆院議員がツイッターで「代表選が必要」などとして、党代表の松井氏の責任論に言及。すると、「失礼だ」と激怒した橋下氏は日本維新の会の法律顧問を辞任したのだ。これにより、橋下氏の維新関連の肩書は地域政党「大阪維新の会」の法律顧問だけになったのだが、この騒動の背景に多額の「講演料」を巡る問題があったことは知られていない。

 掲載の表をご覧いただきたい。これは橋下氏が政界を引退した後、16年から18年までの3年間に日本維新の会や所属議員などから受け取った「大会費」「講演料」「講師料」の一覧である。1回216万円で、総額3456万円。例えば、日本維新の会は17年の5月と9月、橋下氏の講演業務などを担当する「TNマネジメント」なる会社にそれぞれ216万円を支払っている。また、日本維新の会の馬場伸幸幹事長の後援会は16年と17年に216万円ずつ支払っているが、特異なのは足立康史議員のケースである。

「足立議員が16年に行った政治資金パーティーは収入460万円、支出546万円で赤字を出している。支出のうち、大きな割合を占めるのが橋下氏への講演料経費216万円です。17年も橋下氏を招き、政治資金パーティーで赤字を出すという、通常ではあり得ない事態に陥っている」(永田町関係者)

与党入りの可能性

 大阪維新の会は“激怒”騒動後の18年にも216万円を支払っているが、この年、国際政治学者の三浦瑠麗氏など他の講師に支払われたのは一律30万円。橋下氏の講演料がいかに法外なものかが分かるのだ。たとえ政治資金パーティーが赤字になったとしても支払わなければならない講演料。それはあたかも「上納金」のようである。

「足立議員は筋金入りの『橋下信者』なので赤字になっても文句を言うことはないですが、高額講演料に関しては一部の議員から相当な不満とクレームが出ていた。橋下氏はそうした声を耳にして激怒。だから日本維新の会の法律顧問辞任を決めたと聞きました」(同)

 政治資金の問題に詳しい神戸学院大学の上脇博之教授が言う。

「日本維新の会は税金である政党交付金を受け取っています。17年にはその本部からも橋下氏に講演料が出ているので、橋下氏側は事実上税金の還流を受けているに等しい」

 足立議員のケースは、

「政治資金パーティーで赤字が出るということは、参加者が会費以上のサービスを受けていることになる。参加者の中に選挙区内の者がいれば有権者への饗応にあたり、公職選挙法違反に問われる可能性がある」

 こうした指摘に対し、当事者は何と答えるか。

「橋下さんは『上納金ではない』と話しています。政界だけではなく、どの業界でも講演料は一律216万円。時間は90分まで、となっています」(「TNマネジメント」の担当者)

「16年のパーティーは初めての後援会企画であり、17年のパーティーは悪天候に見舞われ、それぞれ見込み通りに収入を確保できなかったものであり、当方に寄附、饗応の意図は全くない」(足立議員)

 菅政権の発足を受け、橋下氏は前にも増してテレビに引っ張りだこだが、

「維新と菅総理の太いパイプは大阪都構想にもプラスに働いています。菅総理は香港に代わる国際金融センターを日本に誘致する構想を持っており、その候補地として大阪と福岡をあげている。吉村知事は早速そのことを大阪都構想と絡め、『国際金融都市として東京と競えるものを目指したい』と発言しています」(前出の永田町関係者)

 そして、住民投票で都構想が可決された場合、

「それを追い風として次期衆院選では議席を上積みしてくるでしょうし、橋下さんの政界復帰待望論も党内でますます大きくなる。また、菅政権の基盤が揺らいだ時、維新が与党入りすることも十分に考えられる」(同)

 大阪都構想は大阪だけの問題ではないのである。

「週刊新潮」2020年10月29日号 掲載