【イージス・アショアの不都合な真実(2)】日本製部品が採用されない防衛産業の闇

【イージス・アショアの不都合な真実(2)】日本製部品が採用されない防衛産業の闇

「神の盾」に穴という「亡国のイージス・アショア」――豊田穣士(軍事アナリスト)(2/3)

 たった2基で日本をミサイルの脅威から守る“神の盾”イージス・アショア。が、防衛省の杜撰な仕事ぶりが次々と明らかになった上、専門家からは肝心の“レーダー”の性能にも疑問符が付けられて……。背景には、日本の市場を狙う米国軍需産業の思惑があった。

「ロッキード」。日本政治史とは切っても切れないこの響きに、様々な思いを巡らす読者も多いことだろう。最新鋭戦闘機F−35のメーカーとしても有名なロッキード・マーティン社(以下、ロッキード)は、米国最大の防衛関連企業として、優れた技術力を誇ると共に、卓越した政治力を有することでも知られる。実際、日本にある支社にも「政治部」があり、防衛装備の開発や防衛ビジネスに深い知見を有するコンサルタント達とも密に連携しつつ、日本の言論界含め、各方面に深く根を張っている。もっとも、ビジネスと言えど「戦争」である。その勝敗が売り上げとして具体的な数字になって現れる、「商戦」という名の生々しい戦いを勝ち抜くためには、あらゆる努力をするのは企業として当然のことでもある。

 今、配備候補地とされる秋田県や山口県のみならず、日本の防衛政策全体を揺るがせている、イージス・アショア(以下、「陸上イージス」とする)。実は、ここでも「ロッキード」が登場する。もっとも、世界最強といわれる防空システムである「イージス・システム」の開発と製造をこれまで担ってきたのはロッキードであるから、当然と言えば当然である。しかし、陸上イージスを巡っては、「当然」では済まされない、不可解な事実もある。それが、陸上イージスを巡る疑問の核心である、「構成品」の問題だ。

「構成品」とは文字通り、陸上イージスを構成する機器等のことである。一言で「イージス・アショア」と言っても、その施設の中には様々な機器が備え付けられる。例えば、敵のミサイル等を見つける「レーダー」。レーダーが見つけた目標の動きなどを解析する「計算処理機」。脅威となる目標を撃破するミサイルを撃ち出すための「発射装置」などである。これらの構成品がすべて正常に機能してはじめて、陸上イージスで国民の命を守ることができる。

 まず、現在導入が予定されている構成品について、それが決まった選定作業の経緯を振り返ろう。防衛省の公開資料によれば、同省は2018年4月、陸上イージスの構成品に関する提案を国内外から募るべく、要求書および評価基準書を定め、企業などに示して本格的な選定に入った。そして同年6月、米国政府等を通じ、「レーダー」と「(イージス・システムを動かす)ソフトウェア」に関し、二つの選択肢が示された提案書を受領した。

 ここで、陸上イージスの“眼”となる「レーダー」の選定に焦点を合わせたい。「あらゆる邪気を祓う盾=イージス」といえども、邪気を見抜く“眼”が十分に役割を果たさなければ、本来の機能は発揮できない。つまり、軍事的に見れば、レーダーこそが陸上イージスの肝なのだ。

 簡単に言うと、レーダーの選定は二つの米国企業によるコンペであった。米国側から提案された選択肢の一つは、「LMSSR(エルエムエスエスアール)」というレーダー。「LM」とは、提案者であるロッキード・マーティン社の頭文字、SSRとは「(半導体を用いた)固体化レーダー」を意味する。もう一つの選択肢は、「SPY(スパイ)−6(シックス)」という、やはり米国の大手防衛メーカーであるレイセオン社製のレーダーである。

日本の市場を死守

 防衛省は提出された提案書を元に、「基本性能」、「後方支援」、「経費」、「納期」の四つの観点から、両者を分析・評価した。そして、前回指摘したとおり、6月に提案書を受領してから実質1カ月弱で、「1万ページを超える」とも言われる英文の資料を読み込み、7月に結論を出した。結果は、「納期」を除く全ての項目において、ロッキード製の「LMSSR」に軍配が上がった。

 だが実は、この決定に首を傾げる関係者が多いのだ。というのも、LMSSRなるレーダーは、過去に米国内で行われたコンペにおいて、事実上、今回防衛省が落とした「SPY−6」に負けているからだ。

 2013年、米国では、次世代のイージス艦に搭載する新型のレーダーを決めるコンペが行われた。30年以上にわたり米海軍のイージス艦にレーダーを提供してきたロッキードと、やはり30年以上、ロッキードの下請けとしてイージス・システムに携わってきたレイセオン社の戦いであった。結果、米海軍はレイセオン社のレーダーを採用した。これが、今日の「SPY−6」である。米海軍の資料によれば、SPY−6は今後、イージス艦のみならず、空母や強襲揚陸艦などにも採用されることが決まっており、計50隻以上の艦艇に搭載される見込みだ。

 この決定は、ロッキードに大きな衝撃を与えた。長年支配してきた米海軍のイージス艦用レーダーの市場を、将来的に失うことが決まったのだ。これは、同社にとって死活問題である。米国ニュージャージー州モーレスタウンは、広大な敷地に工場や研究施設が並ぶロッキードの生産拠点で、「イージスの聖地」とも呼ばれる。そこに勤める数多の社員の雇用と、会社の技術の継承に直結するからだ。

 米国の軍需産業界の事情に詳しい有識者によると、米海軍の市場を失ったロッキード社は、「『日本の市場を死守する』ことを掲げつつ、同時に『米国内においても必死に巻き返しを図る』ことにした」という。事実、15年、ロッキード社は、アラスカ州に設置される地上配備型レーダーに関する事業を勝ち取った。これが、「LRDR」と呼ばれる超大型の警戒管制用レーダーである。そして、陸上イージスに導入予定のLMSSRには、このLRDRと“同様”(“同一”ではない)の技術が使われるという。

 防衛関係者に対してロッキード社が配布した資料によれば、LMSSRは、「日本イージス艦に(中略)適合可能」だという。この文言からは、「日本市場の死守」を掲げるとされるロッキードが、陸上イージスを足掛かりに、将来は日本のイージス艦にもLMSSRを入れ込もうとする深遠なる営業戦略が浮かび上がってくる。先述のとおり、米海軍のイージス艦は、今後「SPY−6」という最新鋭レーダーを搭載していく。片や、海上自衛隊のイージス艦はすべて、「SPY(スパイ)−1(ワン)」という30年以上前に設計されたレーダーを搭載しており、将来、更新が見込まれる。海自は今後、ロッキードの戦略に乗るのか、それとも、今までと同様に米海軍と足並みを揃えるのか、重大な判断を迫られることになるだろう。

 ちなみに、米海軍がすでにルーマニアで運用している陸上イージスには、現行のイージス艦と同じ「SPY−1」が採用されている。そして、米海軍の資料によれば、ヨーロッパの陸上イージスは「SPY−6」に置き換えられる構想であり、LMSSRというレーダーを採用している国は、選定から約1年がたった現時点においても、日本を除き皆無である。

存在しないレーダー

 このように日本は、結果的に、米国が「イージス」用として選んだものとは別物のレーダーを採用した。次世代レーダーを巡る米国での駆け引きが、海を越え、大波のごとく日本に襲い掛かったことは、陸上イージス配備の舞台裏の一つの側面と言える。もっとも、そうした背景は、今後数十年間、陸上イージスを運用する陸上自衛隊の関係者はもちろん、構成品の選定を担った関係者たちも十分認識していたはずだ。要するに、我が国の国家意思として、米国とは違う道を選んだということになるのだろう。

 ただ、それでも、その決定に関しては他にも謎がある。実は「LMSSR」なるレーダーは、19年7月現在、まだこの世に存在していない。19年4月に政府が示した答弁書によれば、LMSSRは、これから「約5年間で(中略)製造した後(中略)性能の確認や設置等の作業をできる限り速やかに行う予定」という。この点は、すでに開発を完了して生産段階にあり、現にモノがある「SPY−6」とは状況が全く異なる。ある公表資料によれば、防衛省はレーダーを選定するにあたり、「同時多数のミサイル発射への対応能力」を重視したという。では、存在しないレーダーの能力を、防衛省は一体どのように“確認”し“評価”したのだろうか。

 この素朴な疑問に対し、レーダー技術に詳しい専門家はこう解説する。「米国側からの提案書に示されたLMSSRの性能は、理論値だと思われる」。確かに、防衛省としては、実物をもって確認できない以上、「理論上の値」を参考にする他ない。また提案する側としても、せいぜい研究開発の途中などで得られたデータを示すことしかできないだろう。防衛省は、前回触れたように、配備候補地の選定において近隣の「山の高さ」を机の上で測定した。よもや、陸上イージスの肝となる構成品の選定にあたっても、技術の成熟度などを加味せず、提示された「理論上の値」を鵜呑みにして、机の上で判断したのではあるまいか。

 防衛装備品の新規導入を巡る闇は深い。長く防衛産業に関わってきたある関係者いわく、新規装備品の選定ともなれば、「デマや嘘に近い不正確な情報も含め、色々な噂と資料、時には報道が乱れ飛ぶ」そうだ。確かに、18年春頃、つまり、陸上イージスの構成品に関する選定作業が行われる頃には、筆者も様々な情報を見聞きした。その中でも鮮明に覚えているのは、LMSSRを提案する企業関係者による「LMSSRには、日本の技術が多く使われる」という触れ込みだ。具体的には、「日本製の素子がレーダーに使われる」のだと。実際、ロッキード社が防衛関係者に配布したとされる資料には、「日本企業の参加可能性が最も高い」として、「富士通」という具体的な日本の企業名も併記されている。

 レーダーの選定にあたって、「日本企業が製造に参画できる」という触れ込みが、防衛省・自衛隊を中心とした関係者の心に響いていたのは間違いない。武器システムに詳しい元自衛隊の高級幹部は選定後、「LMSSRが選ばれたのは、日本企業が製造に参画できるからだ」と断言していた。ところが、結果的に事実は違った。日本の企業はレーダーの製造に参画できなかったのである。梯子を外されたのだ。「日本の技術が多く使われる」という口約束は、あっさり反古にされたと言ってよい。

元防衛大臣も疑問の声

 さらにタチの悪い話もある。選定結果の公表後、ある防衛省関係者が次のように発言したという。

「(米国側からの提案は、部品も含め製造はすべて)ロッキード・マーティンがやる前提で来ている。プラス国内企業参画の“可能性もある”と提案されている」

 日本企業の参画は正式な提案でなく、オプション扱いに過ぎなかったのだ。そんな中、構想のみが先行し、その構想、いや、「空想」の下に、売り込みが展開されたことになる。「日本の技術が多く使われる」という断定調の触れ込みや、「日本企業参画可能性が最も高い」とした謳い文句は、一体何だったのか。

 この点は国会においても問題視されている。例えば、19年6月6日、衆議院の安全保障委員会において、中谷元・元防衛大臣は次のように疑問の声を上げている。「当初期待されていた日本製の部品の採用、これがなくなったと聞いておりますが、これは本当でしょうか」。自民党を代表する防衛族議員である同氏の質問に対し、政府側は、「当初、日本側企業の参画の提案はありましたけれども、時間とコストの観点から、それは見送ったところでございます」と答弁している。

 それでは一体、どの時点で、「日本製の部品」に関し「時間とコストの観点」で課題があると判明したのだろうか。防衛関係者に示された資料によれば、「18年9月末」に検証を開始し、「18年11月末」に検証完了したという。何かがおかしい。レーダーの選定結果が公表されたのは同年7月だ。そう、日本製の部品を採用できるか否かという検証は、LMSSRの採用決定“後”に行われていたのだ。

 これらの証拠からは、LMSSRを売り込む側が、選定を少しでも有利に運ぶべく、文字通り「期待」を高めるために、実態とは異なる形で関係者に語り掛けていた状況が浮かび上がってくる。これでは、「約束が違う」という声が永田町から聞かれるのも当然だ。もっとも、防衛事業関係者からは「コスト面を考えると、(日本製の部品の採用は)最初からあり得ないと見ていた」との冷ややかな声も聞かれる。

 今回は、軍事アナリストとして、主に公開情報を活用し、関係者からの聞き取りなどによって得た情報を加えて、「構成品」、特にレーダーの選定を巡る舞台裏に迫ってみた。読者によっては、筆者がある種の陰謀論を語っているかのように感じるかもしれない。ただ、陸上イージスの配備は、数千億円もの税金が投入される国家的大事業である。納税者たる国民には、そこで採用される構成品が適当なものであるのか、自ら思いを巡らすことが求められているのではないだろうか。

 本来の姿で導入されれば、日本の守りを一層強固にする、頼れる「盾」になるはずだった「イージス・アショア」。次回では、現状のまま配備まで突き進んだ場合、どのような影響が出るのか、筆者なりの分析を示したい。

(3)へつづく

「週刊新潮」2019年7月25日号 掲載


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