「イチロー監督はダメ」「大谷くらいじゃ感動しない」 野村克也のボヤき健在

「イチロー監督はダメ」「大谷くらいじゃ感動しない」 野村克也のボヤき健在

猛妻に先立たれ1年余…野村克也が語る「孤独との向き合い方」(2/2)

 猛妻のサッチーこと沙知代さんに先立たれ、野村克也氏(83)が男やもめとなって1年余。ぼやく相手を失った寂しさを口にするが、“根っから好きだからストレスは感じない”と、野球評論家の仕事も元気にこなす。ということで、この場でもぜひ、評論をお願いしたい。

 ***

〈まず聞きたいのは、やはり、この春引退したイチローへの評価だろう。〉

 イチローとの思い出といえば、1995年の日本シリーズでの対戦かな。

〈この年は野村監督率いるヤクルト・スワローズと、仰木監督率いるオリックス・ブルーウェーブ(当時)が、日本一をかけて対戦した。〉

 イチローは当時からバッティングが天才的で、どうせ打たれるのはわかっていました。でも、せめてもの対抗策ということで、僕はマスコミを使うことを思いついたんですよ。事前にマスコミに「イチローの弱点は内角攻め」と話しておいたんです。こうしてイチローに内角を意識させ、実際には外角を攻めるという作戦です。実際、第2試合まではこれが通用したんだけど、イチローは頭がいいから、第3試合からは打たれるようになって、「こりゃ、あかん」と思ったね。

 打撃の永遠のテーマは、変化球への対応だと思っています。イチローはそこが天才的にうまい。普通の打者はピッチャーが投げる前に、これまでのデータ分析などをもとに「速球か、変化球か」という予測を立てます。どっちが来るかわかっていないと、なかなか打てないですから。でも、イチローはそんなことを考えずにバッターボックスに立っても、ピッチャーが投球してから対応できてしまう。これは天才にしかできないことでしょう。

「イチロー監督はダメ」

 イチローはあと数年はやれるという気がしたな。彼の特徴は足が速いことだけど、その一芸があるうちは通用したと思うよ。左バッターだというのも有利だしね。僕の場合は、イチローと同じ45歳で引退したけど、38歳のころからインコースを打つのが難しくなりましたね。インコースを打つには、体を素早く回転させる必要があるけど、歳をとると、それが鈍くなってくるんです。

 イチローの今後ですけど、もし監督になったら、どんな野球をするんだろう、という興味はありますね。ただ、昔から「名選手は名監督になれない」といわれますから、どうなるかな。僕の場合は名選手でも名監督でもなくて、名捕手っていうだけ(笑)。

 僕が思うに、監督に向いているのは川上哲治さんや西本幸雄さんのような、選手から尊敬される人物です。監督は、もちろん技術的なものも求められるけど、もっと大切なのは人間的な魅力じゃないですか。イチロー自身が「人望がない」と言っていましたけど、監督としてダメだと思いますよ(笑)。彼は人を小ばかにするような態度をとることがある。選手としてはよくても、監督としては難しいんじゃないですか。

〈天才というと、やはりあの2人についても語らずには済ませられないようだ。ONである。〉

 長嶋と王は、本当の天才だったと思いますよ。僕はテスト生から成り上がった選手だから、大学時代からスターで天才の長嶋とライバルだったといったら、向こうに失礼。ただ、選手時代も監督時代も、「天才野球には負けたくない」っていう気持ちはあったと思いますね。ただ、長嶋がなんであんなに人気があるのかは、疑問だなあ。

 王はね、僕は63年に52本塁打で、十何年ぶりに本塁打記録を破ったんです。「これで10年くらいは、記録が抜かれないだろう」と思っていたら、翌年には王が55本を打って抜かれちゃったから、まいったね。

「お酒を飲まないから」

〈かつて理論派で鳴らし、ぼやきも、さり気なく論理で貫かれていたノムさんである。だから、いまの日本のプロ野球界に対しても、筋の通った提言をしたいという。〉

 まず巨人の原辰徳監督ですけど、1回クビにしたのに、また呼び戻すというのはどういうことでしょうか。実力がないからクビになったのに、数年で戻す意味がわからない。いまの野球界がいかに人材不足かということが露呈しています。僕が野球評論家として仕事を続けていられるのも、野球をおもしろく語れる人材が不足しているからです。

 最近の若手にも、興味を引く選手はハッキリ言っていないかな。60年も野球界にいるから、大谷翔平くらいでは特に感動もしませんよ。今年の新人にも、注目している選手は特にいません。やっぱりONが一番の天才で、それ以降、彼らほどの才能の選手は出てきていないんですよ。

 マー君(田中将大)については、1年目が弱い楽天でよかったと思う。強いチームに行っていたら、きっと2、3年は2軍で下積みをさせられたでしょう。楽天という、新人でも試合に出られる環境にいたからこそ、成長できたんだと思いますよ。当時、「2軍から育てたほうがいい」と主張する人が多かったけど、最初から1軍で試合に出して正解だったね。

 しかし、最近は有力な選手がすぐ海外に行ってしまって、これは日本のプロ野球にとっては大きな損失ですよ。韓国みたいに、一度海外に挑戦した選手は戻って来にくい仕組みにしたほうが、いいんじゃないですか。ルールを変えないままでは、プロ野球に発展はないと思います。

 いまのプロ野球は、はっきり言ってつまらないでしょ? 野球の試合、観ますか? そもそも、いまの選手や監督は「野球とは?」という問いに答えられませんよ。僕なら「頭のスポーツだ」と答えます。サッカーやバスケットボールと違って、プレーとプレーの間に間(ま)をとりますが、その時間はなんのためにあるのか。それは、考えて相手に備えるためです。この間を使って、いかに相手を分析するか。それが本来の野球の醍醐味なんです。でも、いまの試合を見ていても、選手や監督の思考が伝わってこないんですね。

〈野球愛ゆえに、だんだんヒートアップするノムさんだが、それも健康であればこそ。無病息災の秘訣を、最後にあらためて聞いておきたい。〉

 一番大切なのは、お酒を飲まないこと。「酒は百薬の長」なんていう言葉もあるけど、あれはウソだな。飲んでいると耐性がつくから、飲めば飲むほど酒量が増えて、いいことは一つもないと思います。僕は体質的に一滴も飲めないし、サッチーもお酒は飲めなかったな。45歳まで現役でやれたのも、お酒を飲まなかったからだと思います。

「週刊新潮」2019年5月16日号 掲載


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