「夏の甲子園」で大活躍し、広島のドラフト1位として鳴り物入りで入団した広島・中村奨成が“勝負の3年目”を迎えている。過去2年間は公式戦での一軍出場はなかったが、2月1日から始まった春季キャンプでは一軍でスタートを切るなど、首脳陣の期待を伺わせる。

 ただ、中村が正捕手定着へのハードルは現時点で限りなく高い。広島担当記者は、現在のチーム状況を解説したうえで、中村が置かれた厳しい立場を強調する。

「昨年の広島はセ・リーグ4連覇を逃しただけではなく、4位に沈み、クライマックスシリーズへの出場さえ叶わなかった。オフには黄金期を作り上げた緒方孝市監督が退任し、佐々岡真司新監督が就任。チームの再強化を図っている真っ最中だ。佐々岡新監督も1年目とはいえ、最初から結果を求められている。そのため、FA移籍の可能性がある選手を全力で引き留めた。結果的に正捕手の会沢翼といった主力選手の流出を回避することができた。捕手の選手層は厚く、その中に中村が割って入るのは並大抵のことではない。正直、捕手として中村を勝負させることに驚いたくらいで、本格的に内野手にコンバートさせるのでないかと思っていた」

 広島の捕手陣は12球団トップレベルの選手層を誇る。侍ジャパンでも活躍して、日本を代表する捕手のひとりである会沢翼、エースのジョンソンが登板する試合で主にマスクを被る大ベテランの石原慶幸、そして昨シーズン65試合に出場した磯村嘉孝が正捕手の座を狙っている。

 こうした状況のなかで、中村に打開策はあるのだろうか。同じ捕手で広島OBの西山秀二氏は、こう話す。

「これまでは、(中村に)どこか甘えのようなものが見えた。プロ入りしたことでなんとかなるだろう、という雰囲気があったと周囲からは聞いています。しかし、19年オフに1軍秋季キャンプに帯同したあたりから、本人のやる気が前面に出るようになった。倉義和・1軍バッテリーコーチが大きな期待をかけている。「今の中村ならどんどん成長できるから、1軍に連れて行きたい」と話していた。まだ21歳の若者ですし、自身が置かれた現在位置を気付けたとしたら良かったのではないでしょうか」

 中村自身、打撃には自信を持っているようだが、それだけでは1軍出場にはつながらないように思える。しかし、西山氏の見方は逆で、「まずは打撃にこだわれ」と指摘する。

「まずは打撃で結果を残すことです。捕手として、未熟なのは誰もがわかっています。それを覆して、チームを勝たせられるような打撃結果を残せば文句は言われない。阿部慎之助(巨人2軍監督)や城島健司(ソフトバンク球団会長付特別アドバイザー)も最初は打つ方が主の捕手だった。(打撃で)結果を残している間に、捕手として成長すれば良いと思います」

 もちろん、捕手として少しでも早く一人前にならなければならない。そのためにも捕球の重要性を西山氏は力説する。

「捕球が確実でないと、(投手が)投げたい球のサインも出せない。大事な場面で決め球が投げられないようでは、投手陣の信頼も得られない。捕球は数をこなすことでうまくなります。時間を惜しんで多くの球を受けること。時間はかかるけどね……。僕も認められるまで時間がかかりました。名投手の大野豊さん(現解説者)などと組ませてもらい教わりながら、成長することができた。他の捕手もいるわけだから『勝敗の責任は他の人に被ってもらい、自分は成長するのみ』くらいの気持ちでやれば良い。そのためにも、もっと貪欲になれと言いたいですね」

 周囲の厳しい意見もまた、その才能を認めているゆえんである。アマチュアでの栄光は、あっという間に過去のモノとなった。ここからがプロとして本当の勝負。中村はこのまま止まってしまうのか、それとも……。

週刊新潮WEB取材班

2020年2月13日 掲載